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経済の研究No.28
NTTの野望

 電話加入権・・・と呼ばれる固定電話に加入の際にNTTに支払うお金72,000円(別途消費税が3600円)の正式名称は「施設設置負担金」です。NTTの説明によれば「お客様の電話が利用できるように、前もって電柱や交換機などの設備を設置するための費用」だそうです。そのルーツを訪ねてみますと、施設設備負担金はそもそも定額ではなく一種の心付け(チップ)であったそうです。公衆電話網が普及するに従い、お客様の設置要望に工事が追いつかず、施設設備負担金を多く負担した人から順に工事を行うようにしたことが始まりだそうです。当然に施設設備負担金の相場は高騰しました。その後、電話網の整備は一段落しましたが負担金制度は維持されると同時に、定額制に改めたという経緯があります。
 ところが、個々人が本来は工事費の実費を負担するべきで、例えば山村に新規回線を引く場合と、すでにMJのある家庭に回線を引く場合とでは工事費が違うわけですから、これを一律に負担させることは公平でありません。電話が公共財であることを勘案したとしても、インフラ整備は回線使用料(=基本料金、つまりキャッシュフロー)の内から行うべきで、別途出資金もしくは預り金(つまりキャッシュストック)を一般加入者に負担させることはおかしな事です。NTTは出資金や預り金としての位置づけは否定しています。その証拠に電話加入を廃止したからといってNTTは72,000円を返還しません。また消費税を上乗せしていることもポイントです。ところが、他人への権利譲渡は可能ですので72,000円の価値は残存しているわけです。企業のバランスシートでは電話加入権が固定資産に計上されていますし、相続や贈与の場合も課税対象に含まれています。日本のマクロなバランスシートではNTTの負債項目にも電話加入権相当の出資金が記載されなくては成り立たないわけです。
 これまで携帯電話が高額の新規加入料を徴収していました。これの名目も設備設置負担金でありましたが、競合他社との厳しい競争に曝されて携帯電話各社は廃止に踏み切りました。携帯電話の場合は権利譲渡ができませんでしたので新規加入料が電話加入権であるとは言えませんが、電話リース会社などでは新規加入料相当を固定資産に計上しておりましたので、加入料の引き下げや廃止では一悶着有りました。携帯電話が新規加入料を廃止したことで携帯電話が価格上優位に立っており、固定電話の加入者を横取りし始めています。このためNTTとしても施設設置負担金の引き下げ、若しくは廃止を考えているようです。
 しかしながら施設負担金の廃止を行うことは、加入者のバランスシートから電話加入権を消し去ることになるため、大きな反対を生じることは間違いありません。そこでまず電話加入権の流動性を失わせることを考えたわけです。手始めが「INSネット64lite」であり、これは施設設備負担金を徴収しない代わりに月々640円高い回線使用料を負担させるものです。10年未満の契約であれば施設設備負担金を負担するよりもお得であるという売り文句で加入者を募っておりますが、これは詭弁で10年経っても電話加入権が発生するわけではないので、決してお得ではありません。しかし過大な初期投資を嫌う昨今のユーザには受けているようです。
 そして6月、NTTはアナログ回線にもliteモデルを導入すると発表しました。今でさえダブつき気味の電話加入権が、liteへの加入者が増えることで一層ダブつくことは間違いありません。かつては55,000円ほどであった電話加入権の民間下取り価格が、現在では30,000円程度に下がっています。これ以上ダブつけば10,000円の価値も付かなくなる可能性があります。これではバランスシートの固定資産に計上する意味が無くなり、償却処理をしなくてはいけなくなります。NTTの野望(狙い)はここにあり、今から約10年後、複数の料金制度があるのは不合理だとして料金体系の一本化と施設設備負担金の廃止を打ち出してくる可能性は大きいと思われます。あるいは先に第三者への名義変更を禁止し、電話加入権という呼び名を廃止する手を打ってくる可能性もあります。

 我々加入者が自分たちの財産を守るためには、アナログ回線のliteモデル導入の認可を断固阻止する方法しかないのですが、果たして認可は下りるのでしょうか?

98.06.28
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