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経済の研究No.30
会社は取締役の私物ではない

 先日の山一證券の株主総会を終えて、彼ら取締役が大きな勘違いをしていることが身に染みました。彼らは株主をスポンサーと認識しているのです。そして総会は一種のセレモニーで、株主は対決すべき相手としか見ていません。社長にとっての会社は、マイ・カンパニーであるらしいのです。株主とはオーナーです。たとえ1株株主であってもオーナーであることに違いはありません。取締役は単に雇われ人サーバントであって、彼らがオーナーであるわけでは当然にありません。どうも認識が誤っているようなのです。

 まず先日の株主総会ですが、総会屋を理由に6月25日と26日に集中開催している問題があります。総会屋でさえも立派なオーナーです。彼らにはオーナーとしての自覚が無く、自分たちが喚いたことで株価が下がっても会社から別途金を搾り取れば充分と考えています。取締役達は我が身かわいさに総会屋達に利益を供与し、本来は株主に還元すべき利益を搾取させてきました。明かな背任です。また総会を集中日に据えるため、株主達は全ての企業の総会に出席できません。このため一番心配な企業にだけ出席することになりますが、最近はどの企業も問題が多くて困るのです。せめて当該期に不祥事を起こした企業は別途日を改めて貰いたいものです。これは全ての株主が総会召集に応じなければ良いだけなのですが、そうはなっていません。
 また山一證券の自主廃業、住友信託による長銀の救済合併、はいずれも株主に何の相談もなく決めています。住友信託と長銀の合併は6月26日に発表されましたが、前日の総会では何の相談もなかったのですから、株主無視も甚だしい話です。住友信託にとって長銀の救済は規模拡大のメリットがあるものの、共倒れのデメリットが大きいのですから。また急な発表で株価も20円安を付けましたが、7月以降さらに下げない保証もありません。山一に至っては勝手に廃業して、やってみたら債務超過だった・・・という体たらくで、それを詫びるでもありません。あまりにも不貞不貞しい態度は観戦記に記載の通りです。

 こうした取締役の認識のミスマッチを産んだ原因は、我が国特有の株主構成にあります。米国では40%に迫る個人株主が、我が国では15%以下です。また米国では個人資金の運用を委ねられるファンドが物言う株主であるのに対して、我が国の信託銀行などは物言わぬ株主です。選りにも選って包括委任状(白紙委任状)を出すようなバカ揃いです。特に金融機関ではその傾向が著しいです。金融機関や創業者一族が保有する特定株が過半数を超えるのは当たり前で、特定株主が包括委任状を提出すればどんな議案でも成立するため、個人株主は軽視されてきたのです。しかし持合株放出などで特定株が過半数を割り込む会社も増え始めています。また厳しい経営環境が一本調子に上昇した株価を下げに転じさせており、配当重視の株主が増えています。
 昨今の著しい外資参入で物言う株主が増え始めてきました。不当に蓄積した内部留保金を株主還元(自社株償却や増配)に使うことを要請し、問題取締役の解任動議を上程します。背任行為を犯した取締役は株主代表訴訟で訴える・・・そうした欧米並の厳しい株主が眼前に迫っています。また6月24日の日本経済新聞朝刊によれば三井信託も物言う株主に転換すると云います。信託は企業の経営不振が信託資産の運用成績に影響するため、今後は他社も追従する見込みとも云います。そのためには信託各社も株主を重視する方向に転換していく必要があります。三井信託は一例として不祥事を起こした取締役への退職金支給、業績低迷企業の役員報酬カットを積極的に行うそうです。外資の圧力に屈した感はあるものの、良い傾向であると評価できます。

 取締役達に厳しい現実を突きつけ、最終赤字でも配当さえ出せば役員賞与が貰えると考えている甘さを正さねばなりません。山一證券の経営陣は最後までこのことに気付かなかった故に倒産しました。未だに甘い考えでいる山一の取締役には、株主の力を結集して株主代表訴訟を行うべきではないでしょうか。住友信託や長銀は今回の件で株主を軽視しましたが、今後は株主重視を心がけて欲しいものです。

98.06.28

補足1
 同日に開催された拓銀の株主総会は立派だったそうです。地元北海道で開催ということもありますが、8,000人収容できる会場に1,000人の株主が集まり、質疑には一々丁寧に応えていたそうです。取締役も15人が並んで一斉に頭を下げたそうで、総会も2時間40分だったそうです。こちらは法的整理になることもありますが、どっこいの山一證券がふんぞり返って株主を小馬鹿にしたことに比べれば、はるかに立派だと評価できます。

98.06.28

補足2
 上記の三井信託銀の件はポーズだけであったようです。と言うのも、信託分は棄権票を投じた(反対票と同様の効果があり、その態度が明確になります)ものの、自己資産として運用している持株分は白紙委任(つまり賛成票)を出していたためです。急激な方向転換を避ける意図があったものかも知れませんが、随分と中途半端なことをしたものです。

補足3
 日本企業の元トップ処遇には、色々と問題がありました。顧問待遇での至れり尽くせり、巨額の退職慰労金や年金などです。バブル後不況の影響もあって、旧弊はかなり廃止の方向に向かっています。

 しかし米国の大企業では、日本企業の元トップ処遇が可愛いものと思えるほど、非常識な自己処遇をしている問題が取り上げられています。以前から、トップ在職中の報酬が巨額で、中でもストックオプションを利用した株主利益の掠めどりが問題でした。ところが役員退職後も、多額の年金を得たり、顧問料と称して高額サラリーを受けたり、住居や専用オフィス・社用車・社有飛行機の提供を受けるなどしている非常識な元役員が大勢あるようです。
 大企業のトップは、互いに情報を交換し合って、様々な名目を付けては自分の退職後の生活保障に知力を注いだらしく、横並びで巨額資金を企業から引き出しているようです。これに加えて、年間百万ドルを超える報酬は企業に課税控除が認められない米国税制を逆手にとり、在職時の報酬の一部を退職後に繰り延べ払いするという手法でさらに多額の報酬を引き出しているそうです。もはや株主利益など眼中になく、完全な企業私物化と言えるでしょう。

02.11.30
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