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経済の研究No.33
長銀事件のその後

 長銀事件第29回を参照して下さい)は、グラフ(エクセルグラフにつき、線幅の違いはご愛敬)に示すように6月17日から23日の5営業日に渡って株価が1/3にまで急落した事件を指しています。26日に住友信託との合併が発表され、この日は取引停止となったため、6月29日に103円まで戻しています。その後再び額面割れが続いていますが、グラフを見る限りでは出来高が大きくないため、模様眺めのうちに値を下げていることが分かります。
 模様眺めの第一の理由は、参議院選挙における自民党惨敗と、橋本総裁退陣による自民党総裁選にともなう指導者不在でありました。自民党が強力な指導力を失うことは長銀の救済が遅れるということであり、下手をすると市場に潰される危険があるということです。
 第二の理由は、合併相手の住友信託が正常債権の引き取りに固執していることです。長銀はまだ破綻が確定したわけではありません。しかも合併である以上は不良債権の切り離しなど認められるはずがないのです。ところが住友信託にも巨額の不良債権があり、新たな不良資産を積極的に引き受けるリスクは負いたくないのが本音です。住友信託としては合併を蹴飛ばして長銀を見捨てることができない事情があります。すでに週刊東洋経済、週刊ダイヤモンドなどが指摘の通り、重複貸出先の問題です。


 というわけで本題であります。長銀から住友信託へ合併の打診があったのは6月22日だったそうです。すでに株価が100円を割り込んでいます。筆頭株主は第一勧銀であるものの独立系である長銀は、重複貸出先が多い住友信託へ救済を求めたのです。ただし両行とも25日に株主総会を控えており、うかつな発表はできません。まして政治家やマスコミが合併先についてアレコレ発表している現状では、早まってご破算にするのが危険という思惑もあります。しかし市場は額面50円まで株価を押し下げて対応を迫っていました。リミットはまさに6月26日でした。すでに指摘したように27日か28日に格付け機関に引導を渡される可能性が高かったためです。
 長銀の大口貸出先は、週刊東洋経済7月11日号によれば1997年9月末で東京電力(3,160億円)、日本リース(2,555億円)、石油公団(1,926億円)、イ・アイ・イ・インターナショナル(1,833億円)、日本信販(1,667億円)、オリエントコーポレーション(1,569億円)、共同債権買取機構(1,444億円)、ライフ(1,301億円)、中部電力(1,053億円)、プロミス(1,018億円)、アコム(1,011億円)、ファーストクレジット(917億円)などと成っています。このように、ノンバンクへの貸出が1兆円にも達しています。特に大手消費者金融が名を連ねていますが、これらは業績は良いもののキャッシュフローは少ないため融資残高の圧縮は難しい状況にあります。まして日本リースは現在2兆円の借入金があり、自社系列である以上融資を引き上げるわけには行かない事情があります。さらにイ・アイ・イは経営環境が困難を極めています。噂先行で毎日数百億円単位の債券解約が殺到していた以上はいつ資金ショートしても不思議ではありませんでした。
 住友信託は日本リースへの融資額が1,509億円で第二位です。長銀の後ろ盾を失えば日本リースは確実に破綻します。現在のところ両行とも健全貸出先としているはずですから、住友信託にとっても致命傷となります。また東京電力(1,472億円)、プロミス(992億円)という重複貸出先があるほか、同行も系列ノンバンクへの融資額が大きいです。急な借り換えに応じるほどの資金力がないのです。このため長銀を生かさず殺さずの状態に留めて時間を稼ぎ、資金余力を増やすために資金回収に奔走しているのが現状だろうと考えられます。あるいは日本リースへ担保の提供を迫っているかも知れません。

 長銀とは一蓮托生と目されている住友信託が積極的な姿勢を示さないために、長銀株は再び額面割れの水準に、住友信託株は500円を割り込む水準にまで売り叩かれています。そんな住友信託が24日に重い腰を上げたようです。取締役会の全会一致で長銀との合併推進を決定したのです。これまでの経営会議での決定よりも一歩前進した形です。ただし今後も正常債権のみの引受を主張すると確認してもいます。相変わらずの及び腰のため24日の長銀株高値は60円(前日比10円高)まででした。自民党の新総裁に小渕氏が選出されました。同氏は穏健な経済対策を行うものと見られますが、その分対応が後手後手に回る危険があります。また調和を大切にするタイプで強権発動は似合いません。合併に際して不良債権を分離したとしても長銀の株主資本では埋めきれないから公的資金の注入が必要となります。しかし特例法でも設けなくては破綻金融機関でない長銀に資金注入はできません。となれば合併はなかなか難しいでしょう。
 両行にとっての爆弾は、まさに日本リースであります。合併すれば4,000億円つまり20%以上のシェアを占めることになり破綻時のリスクは増大します。おそらく農林系・県信連系・共済連系また地方銀行は資金の引き上げに動いているでしょうから、両行が協力して資金を注入し続けなければ日本リースが資金ショートする可能性が大きいです。住友信託が我が儘を言い続けることには限界があります。

98.07.26

補足1
 長銀株が値下がりしている最大の理由は持合株放出に伴う浮動株の増加にあります。1998年3月期で浮動株割合は6.4%に過ぎませんが、拓銀・三和銀・さくら銀・東京三菱銀が相次いで持株放出に動いており、この四行で1億株(約7%)放出していますから、その増加量の推測ができるでしょう。

98.07.26
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