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経済の研究No.39
管理職にこそ、年俸制

 近頃、年俸制の給与体系を打ち出す企業が多いです。名目は能力主義となっていますが、要するに人件費の削減が目的です。年俸制にすれば組合との団体交渉もあまり意味を持たなくなり、モデル給与についての抽象的な議論になるだけでしょう。企業としては煩わしい組合対策が不要になることで、様々な名目で支払われる手当を一本化し、給与体系は単純化させることも可能になります。

 さて問題は、年俸の決め方です。まさか毎年契約更改の交渉をするわけにも行かないので、直属の上司と人事担当者(もしくは人事担当役員)を交えて年俸を提示することになると思います。前年度の当該社員の営業成績、勤怠などの勤務評定をベースに話し合うことになるでしょう。もちろん当人の主張も聞くと思いますが、誰もが自分の功績を主張しますので勤務評定が鍵になるでしょう。しかして、直属の上司に勤務評定を正しく付けるだけの能力があるでしょうか。彼らは年功序列制度に長い間組み込まれてきました。部下の仕事ぶりよりも上司の顔色を窺ってきた人が圧倒的に多かったと思います。上司にごまを擂り、繰り言一つ言わずに仕事をする部下が良い部下だと考えている人が多いのではないでしょうか。そんな上司に評価される部下はかわいそうですね。
 私個人としては管理職になるまでは、従来の年功序列制の賃金体系でよいと思います。所詮は直属の上司の能力次第で部下の能力を発揮する余地も決まってしまいます。スペリオール・シーリングとでも呼んでおきましょう。上司よりも有能な人物でも、疎まれず能力を発揮するには上司に功績を譲るか、適度に手を抜くしかありませんから、自分の裁量で職務が遂行できるまでは能力給、年俸制とやらは馴染まないと思います。また部下の企画書や稟議書に手を入れたがる無能な上司が多いこともあります。個々人の能力を自由に発揮させる欧米社会に比べて日本企業は立ち後れています。しかしいずれは能力主義に切り替わるでしょうし、そうでなければ社員達のモラールを鼓舞することはできません。会社型人間が減少していくこれからの時代は、個々人の能力をフルに発揮する舞台を与えなければ会社運営もまま成らなくなります。したがって、現在の若手社員の中から、将来部下の能力を正当に評価できる管理職候補を育成する必要があるのでは、ないでしょうか?

 無能な上司というのは立派な反面教師になります。とくに若手時代に苦労をさせられた上司については、いろいろ学ぶ機会が多いと考えます。早くから上司を分析する能力を育成させ、将来在るべき理想の上司像を描く訓練を積ませることが、良き管理職候補を育成する近道でしょう。つまり上司(管理職)の成績を部下に付けさせるのです。部下は年功序列給でありますから、上司から給与待遇面でしっぺ返しを喰うことがありません。その他の待遇面でも自己の評価を下げるような暴挙を、上司は自制することになります。フリーハンドの権限を部下に与え、その制御と責任管理だけを無事に果たす上司の評価が自ずと高くなるため、スペリオール・シーリングも事実上無くなると考えています。有能な部下を引き上げ適材適所に意を砕けば、部下の能力はフルに発揮され、誰もがやりがいを持ち、その機会を与えてくれる上司の評価は良いポイントになるでしょう。人事担当役員は部下達が上司に付けた評価をベースにして、管理職(上司)の年俸を決めれば良いのです。複数の部下が上司を評価するのでかなり公正な評価が得られると考えられますので、無能と判定された管理職は即刻配置換えもしくは解雇することができます。
 もちろん取締役たち役員も部下である管理職の評価を受けることになります。管理職達の能力を正当に評価できない役員は即刻解任されるでしょう。役員の成績表は定期株主総会に上程して、役員報酬と役員賞与を個別に決める目安とすれば良いでしょう。そうすれば保身に汲々とする役員はいなくなり、派閥抗争に明け暮れているヒマもなくなるはずです。結果として社内の風通しは良くなります。
 若手の時代から能力重視ということになりますと、若手同士で争いが生じて、足の引っ張り合いも起こるでしょう。結果として小粒な人間ばかりが育つことになり、有望な素質を持つ人物は排斥されるか、潰されてしまいます。エゴの強い、融通の利かない人物ばかりが上層部を固めるようになってしまいます。若手にはノビノビと仕事をやらせ、有望な素質は延ばし、問題のある性質は早い段階で摘んでしまうことを優先すべきではないでしょうか。企業にとって有用な人物を生産することが、企業発展の原動力となるはずです。それが管理職に求められる指命でもあります。

 どうか人件費圧縮のための年俸制などと言わず、是非ご検討下さい。それとも自分たちがはじき飛ばされることの方が怖いですか?

98.08.01

補足1
 9月1日、低迷中のさくら銀行がグループ各社から3,000億円の資本注入を要請するのを受け、銀行内のリストラに打ち込むと発表した。具体的には行員の3,000人削減、国内50店舗の統廃合、海外事業の縮小など、かなり踏み込んだ内容になっています。さらに取締役の定員削減一部取締役の執行委員制への切り替え役員報酬の出来高払い制移行を発表、すこし民間並に近づくかも知れません。しかし出来高っていうのは資金回収実績ではないのでしょうね。

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