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経済の研究No.45
やがて地銀は要らなくなる

 地方銀行には、いわゆる第一地銀第二地銀とがあります。第一地銀は当初からの普通銀行であり、首都以外の一定地域を地盤としてきた銀行です。かつて一県一行主義と言われて地場の中小銀行が集まって編成されたものが多いのです。対する第二地銀は1951年に無尽会社が相互銀行に転換し、さらに1992年までに全て普通銀行へ転換したものです。時代の要請によって業態変更を繰り返してきた銀行です。
 地銀の本来の指命は、本社が首都にはない地方企業へ融資を行うことでありますが、現実には地方の金を吸い上げて首都に本社がある大手企業への融資を行ってきました。大手企業への融資に依存してきた理由は、地方企業への与信の難しさと、小口貸出の効率の悪さが背景にありますが、それは銀行自身の努力不足が原因です。どうしても大手企業へ大口で貸し出した方が有利だと考えて、多額の資金をバブル企業へも融資してきました。
 その結果、多額の不良債権を抱える格好になって、身動きが取れない状況に陥っています。また地元企業へ融資すべき資金が細ってしまい、貸し渋りや貸し絞りを招いて地元企業を破綻させている例も多いようです。そんな地銀の名前を列挙することは簡単ですが、ここでは省略しましょう(無駄ですから)。東京圏や海外に支店や系列子会社を設置し、相次いで実態のないノンバンクを設立した地銀の責任は重いです。そもそもカード事業やリース事業なども地銀に求められた事業ではありません。地銀にはリテール・バンキングこそが求められてきたはずです。
 本分を守り抜いてきた地銀もありますが、都心へ進出し都銀と張り合って融資を行った地銀ほど不健全な財務内容になっています。従来は地銀同士の合併や都銀による地銀の救済合併がありましたが、現在では相互不信のため都銀同士の合併でさえ危ぶまれており、不健全な地銀が合併で生き残る余地はほとんどありません。合併は管理部門などのスリム化、役員削減による人件費圧縮が可能になります。先行きの怪しい融資先も合併を理由に見直しや整理を進めることが可能になります。規模拡大で信用を回復すれば預金を集めることも大いに期待できますし、膨らむ貸出余力を使って健全貸出債権を増やすことも可能になります。もちろん合併効果を活かせるかどうかは、経営陣の腕前次第ですから一概には言えませんが、合併しないことには始まらない話であります。

 それでは合併以外に救済される余地は無いでしょうか? あるでしょう。積極的に都銀の系列に加わることです。都銀から多額の出資を受け入れ、無駄な部門は全て都銀へ譲渡統合して純粋な地銀業務に徹することです。もう少し緩やかな提携であってもよいかも知れませんが、都銀の支援を仰ぐ以上は系列に徹することが必要だと考えます。現在でも緩やかな提携は進んでいます。為替業務の都銀への委託、カード事業の譲渡、オンラインシステムの共通化、都心店舗の譲渡などがそうです。しかしこれは以前からの都銀系列が中心であり、系列外の地銀は当然ながら蚊帳の外です。地方の地盤を手土産に系列入りを求めるのでなければ、系列外の地銀が救済を受ける余地はありません。さらに系列地銀との救済合併を求める選択肢もあります。
 来るべき金融ビッグバンに備えて、他の都銀の手垢がついていない地方市場は、魅力的な市場になるでしょう。前回で述べたように大手企業の直接金融化が進めば都銀の貸出先が限定されてきます。現在は住宅ローンの貸出額で都銀は争いを繰り広げていますが、都心部だけの競争で他行と渡り合うことはかなり難しいでしょう。そういう判断のできる都銀は積極的に系列地銀を増やす戦略を採ってくる可能性があります。単に系列下に留めるか本体に吸収するかは分かりませんが、大口融資案件は都銀本店が、小口融資案件は地銀が分担して、やがては都銀の支店化してしまうのは時代の流れでしょう。となれば、地銀の存在価値そのものが問われるようになります。

 そうして、やがて地銀は要らなくなるでしょう。

98.08.09

補足1
#Nに北国銀で露呈した地銀の悪行を一つご紹介します。信用力に乏しく金融機関からの融資を受けにくい中小企業のために、金融機関からの借入債務を保証する社団法人として信用保証協会があります。これはほぼ各県一つずつ全国に52あります。これら信用保証協会には地場の地銀が有力OBを送り込んでいますが、その協会に破綻が間近い企業を填め込んでから企業を破綻させ、「保険金で債権回収不足の穴埋めをさせていた」ものです。今回問題化したのは北国銀だけですが、協会と地銀の癒着ぶりは全国的であると言われていますから、今後も噴出しかねない状況にあるそうです。

補足2
 補足1で地銀側だけの批判は不公平とのご指摘がありますので、補足します。信用保証協会が支払う保証料の原資は、地銀が信用保証を求める際に支払う1融資額の1%を上限とする保証手数料から賄っています。かつてはそれ相応の旨味を得ていたわけで、その見返りに地銀OBを役員として受け入れていた経緯があります。現在、地銀の悪行を除いても信用保証先が破綻するケースは増加しており、その保証料の支払いのために、多少危ない融資先にも信用保証を付けて手数料収入を得なくてはいけない自転車操業にあるといいます。信用保証を厳格に行うには別途収入が必要なわけで、公的資金による補填が必要になるかも知れません。しかし今までは黒字であったはずの手数料収入は全て人件費に消えてしまったのでしょうか? 非常に疑問を感じます。

補足3
 系列地銀のことを業界では親密地銀と呼んでいるそうです。協調融資や緊急時の資金援助の他、海外業務などの提携、資本関係の強化、金融商品の商品供与などで親密度を維持しています。住友銀行が関西銀行を救済するなど系列が進む一方で、不良債権を抱えすぎた親密地銀の株式を放出して提携解消に進むなど、シビアな選択も進められていると言います。地域に強力な地盤を築いている静岡銀行や常陽銀行、横浜銀行など一部の地銀しか生き残れないのではないかと言われています。

98.11.09

補足4
 証券不祥事で米国からの撤退を強いられた大和銀行は、それを逆手にとって海外業務から撤退し、近畿最大の地銀になる方針を打ち出しました。8%から4%で良くなる自己資本比率の余力を活かし、さらに公的資金の注入も受け入れて、経営不振の近畿銀行を傘下に収めます。倒れてもタダでは起きませんね。近畿では他にも不振地銀が多く、これらを次々に受け入れる受け皿銀行を目指しているとも言います。あさひ銀行や東海銀行との提携も打ち出しており、近畿への注力を進めれば、巨大地銀が出現するかも知れません。負担は信託部門ですが、これの高値売却も進め・・・非常に興味があります。

99.02.01

補足5
#Nから始動予定であったペイオフは、2年程度延期される見通しです。金融不安が日本経済に与える影響が怖いという話でしたが、結果的には好条件を逃してしまい、一層金融不安が増大しています。弱小の信金や信組では破綻や合併の噂で持ちきりであり、地銀でも危ないところが数行出ているようです。また、2001年には労働金庫の統合も進むようですが、弱体化した地方労金を救済することに主眼があるようです。
 大和銀行は関西系の銀行を子会社化してリージョナル路線を強めていますが、三和銀行も泉州銀行を子会社化すると発表しました。三和銀行は、親密地銀の泉州銀行の劣後ローンを250億円引き受けるとともに、持株比率32.61%の大株主でした。半端な提携では実効が上がらないと見たのか、650億円の第三者割当増資を引き受けて、持株比率を70.51%まで引き上げ子会社化するとのことです。劣後ローンは全額返済を受けて、関係を明確にする意図もあったようです。

00.12.30
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