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経済の研究No.56
「粉飾」という名の犯罪

 粉飾、それは「うわべだけを飾り立てること、立派に見せること」を言いますね。紅や白粉を塗りたくって化粧をすることです。そして単なる粉飾であれば犯罪には成りませんが、粉飾決算となれば立派な犯罪を構成します。自分の会社を綺麗に見せたい、立派に見せたい・・・という願望が「企業会計を歪めて財務諸表に虚偽の記載を行い、利益を過大に計上した決算」を指します。逆に損失を過大に計上して税金を誤魔化す粉飾もありますが、これは脱税ですので今回は除外しますね。

 粉飾決算をすることには様々な理由があるでしょう。オーナーの意向で配当を継続せざるを得ないケース、転換社債の償還や新株発行の期限が近づいて株価の高値維持が必要なケース、融資金融機関の都合で好業績の見せかけを強いられるケース、すでに債務超過であり赤字決算を計上できないケースなどが挙げられます。最初は一期限りで挽回できると考えていたつもりが、一回の粉飾がさらなる粉飾の必要性を生じて、抜き差し成らない状況に追い込まれることがあります。しかし結局は経営者の見栄です。いずれのケースも本当は事実をオープンにしても乗り切れるはずなのです。それで乗り切れないのだとすると、もはや粉飾を施すまでもなく破綻しているのです。

1.オーナーの意向で配当を継続せざるを得ないケース
 オーナーは毎期の配当を当てにしています。赤字転落して無配になると持株数が多いだけに大変です。したがって、含み益を吐き出させてでも配当を継続させようとします。内部留保金の取崩しや保有証券の値洗いを強要して粉飾をさせます。本物のオーナーなら、こんな無茶を強いるよりも追加出資に応じてでも企業を支えるべきなのです。結果として資金繰りに躓いてしまえば持株は紙切れになりますから。

2.転換社債の償還や新株発行の期限が近づいているケース
 転換社債は株価が転換価格を上回ると株主が株式に転換してくれる可能性が高くなります。その分だけ資本は増強されますし、社債償還額が減少するために資金負担が軽減されるメリットがあります。そのため1996年頃までは償還日が近づくと株価の吊り上げ操作が行われました。転換された株式は即座に市場で売却されて、結果的には株価の引き下げ要因になります。吊り上げ操作の損失も出ることですし、実際無駄です。新株発行の場合は、直近の株価平均が基準値になりますから株価を吊り上げるとプレミアム幅が大きくなります。ただし買わされた投資家は、もちろん損をします。

3.融資金融期間の都合で好業績の見せかけを強いられるケース
 健全貸出先を装わせないと追加融資などが難しくなるために、粉飾決算を金融機関が望む場合があると言います。金融機関が持合株を保有していることが多いので、配当減少や株価下落を怖れることも原因のようです。含み益の多い資産の売却先を斡旋したり、決算期の違う他社へ不良資産を簿価で移転させる飛ばし先の仲介をしたとも言います。

4.債務超過であり赤字決算を計上できないケース
 見掛け上は資本超過ですが、実質的に債務超過である場合です。赤字決算をすると留保金や資本金を取り崩す必要が出ますが、それさえも無い場合は黒字決算を計上するしかありません。焦げ付き債権を売り掛け未収金に計上したり、破綻債権の回収見込み割合を水増ししたり、担保にした不良資産を自己競落したりという方法が一般的です。今のゼネコンで赤字が計上できるのは健全なゼネコンだというブラックジョークがあります。

5.単なる経営者の見栄であるケース
 しか〜し、これが一番多い例です。経営陣の経営責任回避や、社長の引退花道、あるいは財界団体役員を出していることなどを理由に大幅な黒字を計上してしまうケースが多いです。大幅な黒字を計上すれば、配当も巨額になり、役員報酬も役員賞与も支払い、社員賞与も跳ね上がり、収める国税も大きくなります。役員や社員は豪勢に経費を使いますし、経費管理も疎かになります。回り回って一層企業の首を絞めることになります。いつか取り返せる・・・と経営者がギャンブラーに転じてしまったとき、企業はもう破綻へ一路邁進になります。

 粉飾決算を知らなかったと言い張る役員、経営判断を誤ってしまったと詫びる役員、どちらも重罪です。粉飾決算をチェックできる立場にあるのは役員と監査法人だけなのですから。これからは株主代表訴訟などで追い打ちを掛けられることでしょう。しかし粉飾が発覚しても倒産しない企業はマシでしょう。倒産してしまったら、もう後戻りも修正もできないのですよ、経営者の皆さん。「粉飾はクセになる・・・まるで麻薬のように。ストップ★ザ・粉飾」を心がけて下さいね。

98.09.09

補足1
 9月12日、昨年同月に会社更生法適用を申請し、現在ジャスコの支援を受けているヤオハンにおいて、一定期間粉飾決算が行われていた、と山崎法律管財人が発表しました。関連会社から受け取る経営指導料を水増し計上していたもので、事実上の利益操作を行っていたそうです。今後、粉飾の時期や額について調査するとしていますが、結果次第では旧経営陣の告訴も辞さないという話です。ヤオハンの国際部門を統括していたYIHもすでに倒産しており、和田一族に資産が残っているかどうかは疑問ですが。今後は破綻企業で相次いで粉飾決算が明らかにされるかも知れませんね。

補足2
 9月16日、昨年11月に経営破綻し自主廃業を決めた山一證券の行平前会長と三木前社長の初公判が開かれました。罪状は商法違反(違法配当)罪で、莫大な発生債務を飛ばしや簿外計上で隠匿した上に、粉飾決算を行って1997年3月期に総額60億円の違法配当を行ったとするものです。粉飾決算は数年前から継続的に行われていたと見られますが、初公判で両被告が罪状を全面的に認めたことから公判は順調に展開されるようです。それにしても「パンドラの箱」と呼んでいるヒマがあれば、毎期少しずつでも償却すれば良かったのに・・・

補足3
′�13日、三田工業の前社長の三田順啓氏が商法違反(違法配当)の疑いで逮捕されました。1993年11月期から1997年11月期までの4年間で200億円の架空利益を計上したと言います。それ以前の分は時効で責任を問えませんが、1986年から340億円にも及ぶと発表されています。三田工業の発行株主の九割以上はオーナー一族や関連会社が所有しており、継続的に配当を行う必要に迫られたと見られます。受取手形や棚卸し資産の水増しというオーソドックスな手法ですが、売上高1,000億円社員総数1,800人と言われる中で、あまりにも幼稚な犯罪であります。三田前社長は関連会社他の資金繰りを三田本体で負う以上は悪い決算を出せなかったと答弁しているとか・・・それなら12年間に経営体質の改善をするべきだっただろうと思います。

補足4
 補足1の続報です。ヤオハンの粉飾決算と違法配当(14億円)の商法違反と証券取引法違反の罪に問われた元社長・和田晃昌被告への判決が静岡地裁で出されました。「社会的存在である会社を和田家の私物のようにあつかった。自己中心的で身勝手」との指摘で懲役3年、執行猶予5年の有罪判決でした。長期ながら執行猶予付きと甘い判決になったことは残念です(求刑は懲役4年でした)。元会長の和田一夫氏については、会社の実権を全て握っているため連座するものと見られましたが、結局は充分な確証を得ることができず立件を見送りました。晃昌氏が完璧に守り通した結果で、実兄を守り通す姿勢は立派ですが、責任をうやむやに済ませた問題は重いところです。

99.03.31

補足5
#N3月に民事再生法を申請した大手運送会社のフットワークエクスプレス(同法申請時の負債総額は、1,407億円)は、1999年までの7年間に架空の売り上げを計上していたとして大坂地裁に告発されました。民事再生法により選出された監督委員によれば、粉飾額は400億円以上とのことで、架空の売上伝票や費用を計上していたようです。事実関係は前社長が概ね認めているそうです。
 粉飾決算を続けていた企業に、民事再生法による再生が認められるべきなのかどうか、企業経営のあり方を問われる必要がありそうです。本ケースでは社長が退いたために発覚したと思われますが、同法を悪用すれば粉飾の事実を隠蔽し通すことも可能でありリスクが大きいです。

01.06.30
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