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経済の研究No.75
問われる経営者の法的責任

 昨年の金融危機では北海道拓殖銀行(以下、拓銀)と山一證券(以下、山証)が破綻しました。他にも徳陽シティ銀行ヤオハン・ジャパンなどの破綻もインパクトが強かったように思います。また今年は未公開企業ながら三田工業の破綻があり、ついで日本長期信用銀行(以下、長銀)の破綻がありました。
 拓銀は残務処理が終わって中央信託銀行と北洋銀行に営業譲渡を終えました。山証は債務超過が確定した現状でも残務処理に目処が付かず、まだ膨大な経費の垂れ流しが続いています。とくに拓銀破綻ののちは一行も潰さないと大見得を切りながら、長銀を破綻認定した政府のいい加減さは話題を呼びました。
 社会的影響が大きかったこれらの事例では、経営者の法的責任の追及が求められています。個別のケースの中身はそれぞれですが、これまでは責任者不在で片づけてきた諸問題を、ごまかしでは乗り切れない時代になったということでしょう。

 まず拓銀では、ずさんな融資を決済して経営を破綻させたとして、頭取経験者3名を含む役員11名を相手取った損害賠償訴訟を提起しました。それに先立ち、大蔵省の業務改善命令に基づいて設置された「与信調査委員会」が頭取経験者2名を特別背任容疑で告発していますから、刑事・民事の双方で罪科を問われることになります。ちなみに損害賠償は、1987年以降の総額1,400億円に上るずさん融資で発生した損失1,100億円の一部として108億円を請求しています。
 つぎに山証では、10月に都内株主が違法配当の返還を求めた株主代表訴訟を提起しています。前会長と前社長を含む役員8人を相手に配当金総額60億円を請求しています。山証は6月に第三者機関「法的責任判定委員会」を設置していましたが、現経営陣が旧経営陣の法的責任を追及しなかったために、株主が立ち上がったものです。その後、前会長と前社長は違法配当による特別背任容疑で告発されました。これに伴い11月に現経営陣による侵害賠償請求の訴訟を提起しました。余りにも遅い提起である上に、請求額は損失補填による損害総額380億円のうち20億円であり、これは被告となる役員9名の退職金を基準に弾きだした温情ある請求額です。ちなみに判定委員会の判定は6月時点でクロだったそうです。刑事で有罪が確定することで民事も勝てそうだと判断した模様です。
 さらに会社更正手続中のヤオハン・ジャパンでは、違法配当容疑で元社長ほか3名が逮捕されました。更生手続の過程で粉飾決算が露呈(破綻から1年も経ってからであります)したものです。容疑の粉飾決算の結果8.9億円の違法配当が発生していますが、経営陣には支払い能力がないと見られ、民事訴訟の提起は不明です。ただ実質的オーナーの元会長へ流れた不明朗な資金の流れを把握することが狙いと見られ、捜査の結果次第では元会長の逮捕に合わせて、元会長に対する損害賠償請求が行われる余地は残されています。
 最後に同じく会社更正手続中の三田工業です。こちらは破綻後に早々と粉飾決算が明るみに出ており、まず粉飾に基づく違法配当の容疑で逮捕、次いで役員賞与支給で特別背任の容疑で逮捕されました。いずれも商法違反行為です。未公開企業という甘えのもと、配当はオーナー一族へのお手盛り、役員賞与の件も総会を開催せずに議事録のみ作成というずさんな処理をしていました。元社長がかなりの預金を保有していることから、この個人蓄財を返還させるようです。返還に応じなければ損害賠償請求の民事訴訟に発展するでしょう。ちなみに違法配当の最高刑期は5年、特別背任は10年です。

 このように刑事と民事の双方で経営者が法的責任を問われるように成りました。世の中も変わったと言うべきでしょうか。問題は民事で損害賠償金が全額認定されても回収できないであろうことです。長銀や山証の役員はすでに退職金などの大半を失っているといい、また不動産の名義変更などで対抗して資産の差し押さえを逃れたり、資産隠しを図ったりする余地もあり、訴訟での勝訴と実益は対応しないかも知れません。詳しいことは、山口宏先生と副島隆彦先生の共著「裁判の秘密」(洋泉社刊行)が参考になります。
 現状での課題は、経営者の法的責任追及は破綻企業に限定されている、という問題です。デリバティブで巨額の損失を発生させたヤクルトや、モーゲージ証券で大穴を開けた野村証券などで担当役員の責任を問うという声は上がっていません。これらの場合は特別背任ですが、現経営陣も絡む問題だけに難しいでしょう。さらに違法配当の点でもこれからは注目が必要です。通期利益を上回る配当を出している企業や、赤字決算が連続していながら配当を出している企業は、今後の業績如何では経営の責任を問われる余地が多いと思われます。これら一連の事件を「他山の石」として、現経営者の方々には頑張っていただきたいと願っています。

98.11.23

補足1
 気になるのは都銀の動向です。黒字決算の東京三菱銀は別として、残る8行の都銀は赤字決算のまま配当を継続する方針のようです。一応は体面を繕って1円程度の減配ですが、連続赤字決算の上に公的資金の再注入を要請している中で、無配を断行しない各行の経営感覚は異常です。また前期に1円減配したあさひ銀は今期配当を据え置きとのことで、理解不能です。この中間期では株価が半減した銘柄が多く、株主としては早期健全化を望んでいるはずです。たかが数円の配当金よりも、消却前倒しによる株価回復こそを株主は期待していると思うのですが・・・どういう考えなのでしょうか。このまま破綻したら、商法違反(違法配当)容疑で法的責任を問われますので、ご注意を

98.11.23

補足2
 上記の三田工業では、前社長が会計監査人の公認会計士に、粉飾決算を見逃す代償として多額の代償を支払っていたとして、贈収賄容疑で前社長と公認会計士を再逮捕しました。贈収賄は、現金報酬の他に監査名目での海外出張の費用負担が含まれているそうです。

98.11.24

補足3
 日本経済新聞00/01/09の記事によれば、2000年3月期に無配である企業は398社となる見通しだそうです。そうした中、復配する企業が59社、増配する企業が176社あるというので剛毅な話です。
 しかし復配企業には、不況で喘いでいるはずのゼネコンが9社、非鉄金属が7社もあり、一過性の官特需に踊って増配宣言です。これまで多額の償却など株式資本を取り崩した企業も少なくなく、2000年度の景気が不透明な中、一期限りの無配転落では筋の通らない話です。復配すれば役員報酬が受け取れるという甘い考えでしょうが、株主の声をまず聞くべきでは? 銀行などは諸手を挙げて歓迎かも知れませんが、普通の投資家は株主資本を回復して企業信頼が戻ることを先決と言うはず・・・。

00.01.09
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