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経済の研究No.111
サービス残業考

 都銀の銀行員の給料が高いと批判しておりますが、先日S銀行の支店勤務と称する読者の方からメールを頂戴しました。「全ての都銀を知るわけではないが、本店勤務と支店勤務をごっちゃに論じられては困る。支店ではどんなに残業をしても申請できるのは1日1時間までで、それ以降は全てサービス残業だ。残業代込みで比較すればメーカーなどの社員よりも手取りは少ない」とのことです。
 一応匿名ですし内容の確認が取れませんでしたが、同様の話は小説家・横田濱夫氏の著作にも紹介されていましたので、少し検討してみましょう。

■ 減点主義では残業も止むなし
 かなり変わったとされる都銀の人事考査も、未だに減点主義という旧弊は残ったままだそうです。いくらの焦げ付きが出た、ノルマにいくら足りなかった、行員がトラブルを起こした、などなど問題が発生する都度、支店の評価とその管理職の評価が減点されていきます。逆にノルマは達成して当然、ノルマ以上を果たせば表彰状、でもそれだけ。積極的な加点評価には繋がらないそうです。
 減点評価の根っこは事勿れ主義にあり、同時に本部勤務の自己保身でもあります。支店勤務の評価が高まれば自分たちの評価が相対的に下がって地位を脅かされます。優秀な自分たちが支店へ回されるなど以ての外のため、支店を締め上げて管理を強化しています。
 残業が多い支店は成績が悪く、残業申請が多い行員は能力が低いという発想はそもそも誤りで、やはり実際に残業を行っただけの手当はするべきでしょう。そうした実体を本部の行員が知らないと言うのが不思議です。知った上でサービス残業を強要しているのなら労働協約を見直すべきですし、本当に知らないなら本店の支店管理機能自体が問題です。

■ 残業は良いことか?
 ともかく残業をすれば全額残業手当を支給するのが理想でしょう。しかし残業するほどの業務もないのに、無制限に残業手当を支給することは無意味な出費を生じることに繋がります。人間の精神と肉体には酷使できる限界があり、その限界を超えると業務の処理能力が著しく低下します。ダラダラと残業を続けさせることに価値はありません。
 ある水準までは残業手当を支給し、残りはサービス残業と言うことになれば、極力支給される範囲内で業務を終わらせようと努力するでしょうから、無意味な残業は圧縮されるはずです。ただし、もともとの業務量が通常勤務時間内で処理できるようシステムの整備と人員の確保をすることが前提となるのでしょうけれど。
 残業は良くないことだと思っています。家計が苦しければ残業手当を稼いで何とかしたい、と思ってしまうものですが、人間として普通の生活を続けるためには、自分のプライベートな時間をたっぷり確保することも必要なはずです。そのプライベートな時間を残業によって浸食されることは、あるべき姿でないでしょう。
 管理職には部下を管理する義務があります。それは部下にノルマを押し付けて成績を達成できるかどうかを管理するばかりでなく、部下は体調を崩したり悩みを抱えたりしていないか、部下に与えている仕事はその部下の適性に合った仕事なのか、特定の誰かに業務負担が増えて残業を強制していないかどうか、なども管理して欲しいです。そういう意味では、管理職にも加点主義を採用し、努力不足の管理職を淘汰することが必要かも知れません。

■ ある職場の残業実態
 最近耳にした珍しい残業手当支給システムがありました。何でもその職場は、残業時間の多寡を問わず残業時間数に比例した残業手当が支給されるのだそうです。社員個々人の業務量が異なるため、月10時間未満の残業で済む職員があれば、月100時間を超える残業が必要な職員もあるそうです。この状況で、残業手当の支給上限を設定してしまうと不公平なので、特異なシステムを採用したと言うことです。
 月間の残業手当を支給する予算は決まっています。そこで社員全員の残業時間数を全て合計し、それを分母に、予算を分子にして残業単価を定めます。この会社の給与システムは依然として年功序列制なので、残業時間数の計算では序列に応じた数字調整が成されるようです。個々の社員に支給されるのは残業単価×残業時間数の手当に成ります。
 一見して良いシステムのように見えますが、分子となる予算が小さく、残業単価が本給から計算される理論的単価よりも格段に少ないという問題を生じているそうです。理論的単価の70%を割り込むようなこともあるそうです。このため期末など忙しい時期ほど残業単価が下がって、残業した割に手取りが少ないという問題もあるようです。
 また他人よりも長く職場に居座れば残業手当が増えるため、作業能率を落として意図的に残業時間を増やしたり、必要のない業務を創り出して残業のための無意味な作業を増やすなどの弊害も出ているそうです。つまり残業競争の発生です。毎日死ぬほど働かされている人間の残業手当が、意図的に残業時間だけを稼ごうとする社員によって減らされると言う問題が大きいようです。
 加えて年功序列制度の問題があります。新入社員と定年間近の年功社員とでは残業単価に倍近い開きがあります。50時間残業した新入社員と、25時間残業した年功社員と、支給される残業手当は同じだと言うことです。なかなか難しい問題があります。

■ ちょっぴり提案
 銀行の場合、基本給はやはり高いようですから少し基本給を削って残業手当の予算に振り向ける必要があるかも知れません。そうした場合、支店の行員は実態に合っただけの残業手当が貰えるようになって手取額は増えるのではないでしょうか。反対に本部の行員はもともと残業実態に合った残業手当を受け取っていたはずなので、手取額はかなり減少する事になるでしょう。
 ここへ来て、本社機能や本店機能を縮小している企業が増えています。銀行も例外ではなく本部の人員を支店へ振り向けるなどの改革を打ち出しているところもあります。高い基本給を支給する代わりにサービス残業を強制するシステムよりも、やや安い基本給でもサービス残業を強要しないシステムの方が好ましいと思われます。
 また上述の特異な残業手当支給システムを採用している企業については、実態が正確に把握できていませんが、まず個々人の残業時間を平準化することが必要だと思います。月100時間の残業というのは明らかに異常ですから、まず業務内容を見直して無用になっている業務は削減すること、人員を5割程度アップすること、などが必要かと思われます。
 さらに残業競争をやめさせるためには、残業業務を管理職が洗い直し、不要な業務や低能率な残業を行っている社員に対して注意を与え、必要な業務に専念させるよう管理すること、社員毎にアンバランスを生じている業務格差を調整して特定の個人に残業業務が集中しないようチェックすること、年功社員が高い残業単価に見合うだけの残業業務をしているかチェックすることも必要かと思われます。

 以上、ざっとサービス残業と残業問題についてコメントしてみました。皆さまの残業に関わるお話などをお聞かせ下さい。

99.06.04

補足1
 自営業の方にはピンと来なかったでしょうか。サービス残業とは「労働者が会社に残業申請をしないで行う時間外労働」という定義がありますが、要するに会社が残業手当をしてくれない部分の残業のことです、「必要に迫られてするものの、無償奉仕(サービス)になってしまった残業」のことです。

99.06.10

補足2
 不況となると、サービス残業は増加する傾向にあるそうです。
 しかし、長時間残業することが、生産性や効率性に貢献するのはどの程度でしょうか。週に8時間サービス残業するのなら、土曜日終日に勤める代わりに毎日定時帰宅の方が幸せです。平日20時や21時に仕事が終わってしまうと、その後の時間の使い道は限られます。フラストレーションが溜まるばかりで、休日を有効利用できない原因にもなり、意味無しですね。自己研鑽に使える時間も制限されますし、残業で気力や体力を削られがちです。
 近頃は祝日も増え、盆暮れやGWに長期休暇を出す会社も増えていますが、休暇日数を増やして残業を強いるよりは、休暇をほどほどに削っても残業を強いない方が生産性や効率性の改善に貢献するのでは・・と近頃考えます。

02.12.15
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