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経済の研究No.121
変わるかな? 株主総会

 3月期末決算に伴う定期株主総会が一巡しました。都銀は相次いで大幅赤字を計上した関係で多くの株主から説明を求められましたが、無配転落を回避したため大荒れには成らなかった模様です。大手・中堅証券は業績回復を評価されたものの、ネット取引拡大や手数料自由化問題など将来性について質問が相次いだと聞いています。物を言う株主が増えたこと、その発言に丁寧に応える姿勢を経営陣が見せ始めたことは評価されます。

■ 形を潜めた総会屋
 今年の株主総会集中日は6月29日でした。東証の1部・2部上場企業は1,373社(シェア88.4%)が開催し、店頭公開企業も含めると2,227社(シェア69.7%)が開催しました。シェアで見る限り、上場企業の方が集中日に株主総会を重ねる傾向を示しています。
 6月18日の読売新聞夕刊は、集中日に総会を開催した企業数とシェアの推移を紹介しています。これによると、企業数では1997年がピークでここ2年は減少傾向を示し、シェアでは1995年がピークで連年下がってきています。上場企業が増えてきたことと、その上場企業が情報開示で投資家を呼び込む元気な企業が多かったことが幸いしているようです。
 株主総会を集中日に開催する理由は、総会屋対策だと言われてきました。一時期は総会屋が総会を取り仕切り、別の総会屋が激しい攻撃を仕掛けるという構図が見えました。総会を特定日に集中すれば出席する総会屋の人数は減少し、対策を図りやすいと言うことでした。本来は総会屋に付け入れさせない努力をすべきところが、本末転倒の対処を図ってきたわけです。
 ところが、警察の努力が実って総会屋の数は大きく減じています。1997年12月の商法改正で、総会屋への利益供与に重罰が適用(利益供与罪を新設)されるようになったことも大きく貢献しています。6月29日に出席したと見られる総会屋は、全国46社に86人、このうち都内22社に51人だったと警察発表されました。この中には元総会屋やエセ総会屋もカウントされていると言われ、これ以上に少なくなっているようです。総会屋は、すっかり形を潜めました。

■ なぜ特定日なのか?
 総会屋が減少した今、なぜ特定日に開催するのでしょうか。特定日には毎年わずかのブレがあり、偶然に一致するということは考えられません。総会を担当する総務部などが意図的に調整しているのです。要するに、一般株主にも出席して欲しくない、というのが本音なのでしょう。
 株主総会での発言は、単位株主でも可能です。質問回数や質問時間にも制限は受けません。だからこそ総会屋がかき回す余地があったのですが、うるさ型の一般株主による発言は総会の所要時間を長引かせて迷惑だと考えているようです。本来は総会で議論を尽くすのが理想です。1年間の総決算を1時間足らずで決着させようと言うのが甘いのです。
 しかし現実には、金融機関ほか特定株主の持株だけで過半数を制する場合が依然として多く、あるいは欠席株主から委任状を取り付けることで過半数に達するため、形式だけの総会は早く終わらせたいのでしょう。下手に長い総会を開催すると、金融機関から痛い腹を探られ兼ねないということや、役員から不満を言われるなどを警戒しての行動とも見えます。
 金融機関は持合解消を積極的に進めており、特定株主だけで過半数の委任状を取り付けるのが難しい企業も出始めています。白紙委任状を出すのを止め、議案によって反対を表明する信託銀行・生保なども出ています。今後は役員報酬や利益処分について異議を申し立てる大株主も出てくるでしょう。しかし集中日のどさくさに総会を乗り切ろうとする傾向は、続くかも知れません。

■ 株主総会は変わるのか?
 株主総会は少しずつ変わってきています。店頭公開企業などを中心に、自社製品のプレゼンや展示を行ったり、軽食を出して懇親会を開いたり、親子連れを当て込んでイベントを演出したり、と工夫を凝らす総会ができています。カラー刷りのパンフなどを配布してPRする企業もあります。株価を指揮したイメージ戦略も重要視されることでしょう。
 これまでの1時間未満で終わる総会をシャンシャン総会などと呼んでいます。形ばかりのセレモニーをして、シャンシャンと三本締め、という総会を皮肉った言葉です。それでも、経済紙などは短い総会を良いものだと報道してきました。最近になって、長い総会を評価する方向へシフトを始めています。株主重視だ、開かれた総会だ、と。
 上述の読売新聞の記事は、1時間を超える株主総会数と、総会での発言者数の推移も掲載しています。株主総会数は、1993年に40社だったものが、1997年82社、1998年125社に増えています。今年のデータは見ていませんが、確実に前年を上回っています。発言者数は、1993年に391人だったものが、1997年899人、1998年1,282人と増えています。ただしお分かりのように、平均2社に1社では全く発言者が出ていない計算です。

 株主総会はこれからも変わるでしょう。変わらないとダメなはずです。今後ますます持合解消が増えて、一般株主の出席無しに総会が成立しなくなる可能性があります。また株主を重視しない企業は業績と関係なく市場から見放される時代がきます。不十分な情報開示が罪悪とされる時代もやってきます。今年もシャンシャン総会が多かったようですが、さて何年先まで続けるつもりでしょうか。

99.07.16

補足1
 定期株主総会は、期末決算から3月以内に開催することが義務づけられています。このため6月下旬がリミットになるのは仕方がありません。4半期毎の決算導入や時価資産評価が進む結果、これまで2か月以上も要していた決算数字の確定が早まってくるものと期待されます。電子計算機の能力向上も貢献するでしょう。そうなれば6月上旬からの開催も可能となり、選択の幅は広がるでしょう。ぜひ幅を活かして貰いたいと思います。

99.07.16

補足2
 警察当局の発表では、総会屋は商法改正直後の1,600人(1997年)から600人(1999年)規模まで減少しているそうです。総会屋の活動は、各社本社が東京都に集中している関係で東京都が多く、1992年には106社に401人が出席していたと発表されています。警察当局曰く「総会屋は生き残りを生き残りを賭けて必死に活動している。総会屋対策は正念場を迎えている」のだそうです(読売新聞06/29)。
#Nの株主総会には、延べ8,500人の警官を動員する計画であるとか、米国では信じがたい話です。総会屋が絶滅すると、警察OBが企業の総会屋対策部門に採用されなくなるという冷めた意見もあるようですが、総会屋は早期に根絶されて欲しいと思います。

99.07.18

補足3
 総会屋への想定問答集は、総務担当者が作成していました。近頃は役員自らが考えるとともに、一般株主向けにソフトな対応をするよう指導している顧問弁護士が増えているそうです。必要に応じて、株主総会以外に説明会の機会を設けることも進め始めているのだとか、良い傾向ですね。

99.07.18

補足4
#N6月の定期株主総会では、また少し進展があったようです。6月29日となった集中日に開催をする企業は相変わらず多いですが、集中日を避ける努力をする企業が増えてきました。日立製作所では、総務担当者の反対を押し切って開催日を一日繰り上げ28日としたそうです。外資系となった日産自動車は20日に、ソフトバンクも22日に開催すると同時に経営近況報告会を併催したそうです。ミスミは23日午後6時というアフターファイブ総会を開きました。休日開催の企業も増えているようです。
 また総会での試みも変わってきています。個人株主の発言を大事にし、1時間を超える総会も増え、社長自らの発言があったり、メール等でのアフターフォローがあったり、説明責任義務を果たす姿勢を明確化している企業も目立ちました。総会屋の縮小という要因のほか、株主代表訴訟対策という声も聞こえます。
 さらに三洋化学工業では、自社が株主となっている20社ほどの株主総会に常勤役員全員を出動させ、他社の株主総会を研究する姿勢を明確に示した企業もありました。同社は23日に開催済みで、常勤役員1人が1社ずつに張り付く形になりました。

00.09.10
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