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経済の研究No.135
M資金・N資金

 世の中が不況になり経営が苦しくなると、何とかして大金を調達できないかと考えてしまいますね。そんなとき、耳寄りな資金提供の話が舞い込んでくるかも知れません。数十億円、数百億円の資金を低利で長期間融資してくれると言う甘い囁きで、もっともらしい書類や小道具をひっさげて彼らは登場します。結局は詐欺なのですが、その手法の類似性からM資金事件と総称されています。

■ M資金とは
 M資金というのは戦後の混乱期に米国から日本国の特定の人物に預けられたという巨額の資金を指します。Mは、マッカーサー元帥を指すとも言い、元帥の部下だったマッカート少将を指すとも言われています。巨額の資金が存在したことは事実のようですが、それが使い果たされたのか、今でも現存するのかは全く不明です。
 売れっ子作家浅田次郎氏の作品「日輪の遺産」では、こんなプロットを紹介しています。マッカーサー元帥の父親は、合衆国からフィリピン総督に任じられていました。彼はマラカニアン宮殿に当時の価値で300億円とも600億円とも言われる金塊を所蔵し、その金塊を元手にしてフィリピンの独立を目論んでいました。しかし独立は露見しないまま時は経ち、やがて日本軍が進駐して金塊は押収されました。その後マッカーサー元帥は連合軍を率いて日本軍を打ち破り、ついに東京に駐留しました。元帥は日本軍により費消されていなかった金塊を全て取り戻してGHQの闇資金に・・・というフィクション小説です。
 いわゆるマッカート資金の出所は、概ね浅田氏のプロットと同様の噂に基づいています。このほか日本政府が民間から徴発した貴金属や宝石、日本軍が他の戦地で没収した貴金属や宝石なども加わって巨額に上ったと伝えられます。このほか戦後米国が行った援助物資をプールして資金を確保したという噂もあります。これらの総称がM資金です。その存在自身が疑わしいのですが、存在したとしてもその総額は推測の域を出ていません。

■ 後を絶たないM資金事件
 M資金事件というのは、要するにそのM資金が現存していて、一部を低利で長期間融資をしましょうと持ちかける詐欺事件です。大蔵大臣の還付金証明書や大手銀行の残高証明書などをちらつかせて、とにかく融資に必要な書類を作成させます。その際、印紙代や手数料と称して数百万円の金品を巻き上げるというのが共通する手口です。
 富士製鉄事件(1968年)、大庭念書事件(1969年)、田宮二郎事件(1978年)、グリーン資金事件(1979年)、国債還付金事件(1983年)など明るみに出ただけでも沢山あります。各事件の詳細は、ブルーバックス「詐欺の心理学」(取違孝昭・著)に詳しいので参照して下さい。
 実のところ、誰もがM資金に絡んだ詐欺事件を知りながら、自分のところに来た話は本物だと信じて騙されたのです。最近でも週刊ダイヤモンドで野口悠紀雄先生が紹介され、日本経済新聞が特集したりとありましたが、最近でも騙される例が少なくありません。詐欺とはいえ、持ち込む金額が途方もない巨額であること、詐欺グループが言葉巧みに取り入ってくること、小道具や背景の設定が見事であること、など騙されても仕方がないかと思わせる魅力があるのかもしれません。
 なお、M資金はさすがに眉唾だとして、海外シンジケートの代理人を名乗ったり、政府系もどきの団体名を名乗ったり、とバリエーションは増えているようです。しかし、資金の出所以外はM資金と全く同じであるそうなので、似たような融資話には用心が必要ですね。

■ N資金とは
 似たような事件にN資金事件があります。通称ナイジェリア資金と言われる事件で、欧米を中心に多数の事件が発生しています。同時に日本でも数十件の被害が発生していると言います。シナリオには様々なバリエーションがありますが、概ねナイジェリア政府の裏金を表に出すために口座を貸して欲しいというもので、口座を貸してくれる代償に数十%の手数料を払うので、契約をさせて欲しいと求めてきます。書類作成費や工作費の名目でナイジェリアの指定口座へ数百万円を振り込ませたまま音信不通となり、それらの振込金を詐取されると言う手口です。
 M資金はそのブローカーのような人物が登場するのに対して、N資金はFAXや手紙で接触を図る点が相違します。それだけ手紙などへの細工が細かく、レターヘッドに実在する政府系機関名やその公式マークが入った(おそらく本物の)便せんを使ったり、内部の人間しか知り得ないような機密を匂わせて信用させています。
 N資金事件では、ナイジェリアへ乗り込んだ被害者が殺害されたり、ナイジェリアへ呼び出された被害者が身ぐるみ剥がされたり、と凶悪な犯行に及んだ事例もあるようです。日本での被害が報告されるようになったのは1980年代前半ですが、最近でも続いているそうなので、警戒が必要です。事件の詳細は、上述の「詐欺の心理学」を参照して下さい。

■ 世の中にウマイ話はない
 要するに人間の欲望に付け込んだ事件だと言えます。ノドから手が出るほど資金を欲しがっているのを見透かされたり、多数の企業経営者から選び抜かれた人物と持ち上げられて必要もない資金を借りようとしたり、手口は幼稚な寸借詐欺なのに騙されてしまうのですね。
 誰かが親切そうに美味しい話を持ってきたら、冷静に考えましょう。話を持ってくる人間はどういう意図があって話を持ち込むのか、その話によって彼らはどんな利益を得るのか、そんな巨額な資金を安直に貸してくれるとは相手も間抜けではないのか、と思考を巡らせましょう。必ずそこで相手の論理の矛盾、ウソを見抜くことが出来るはずです。とくに短期のリミットを切るなど不自然な行動を示すときは要注意です。
 実際のところ、世の中にウマイ話などありません。あったら彼らだけで旨い汁を吸っているはずです。なぜ自分を巻き込もうとしているのか、そこを冷静に見抜いて下さいね。あとは利害関係のない弁護士などに相談されることもお奨めします。

99.08.28

補足1
 本文中で紹介した野口先生の記事は、週刊ダイヤモンド99/07/03号です。
 ここでは「逆M資金」というのも紹介されています。国内の低金利を見透かして海外での高利運用を勧めるというものです。先のプリンストン債なども同様に外国債券や出資話には注意喚起が必要です。
 M資金の話が蔓延るのは、「一部のインサイダーが巨額な資金を自由にできる。つまりエリートが強大な権力を持ち、彼らは道徳的に高潔でない。エリート達は庶民のあずかり知らぬところで好き勝手なことをやって甘い汁を吸っていると疑われている」ということに尽きるのだそうです。

99.10.11

補足2
 ちょっと古い話で紹介したつもりのM資金・N資金ですが、依然として騙される経営者が多いようです。
 電気機器製造会社が融資契約に必要な印紙代等の名目で600万円をだまし取られたそうです。警視庁は、4月21日に自称会社役員という71歳の老人を逮捕しましたが、老人は米軍の秘密資金を融資するというM資金の王道での詐欺に成功したとのことです。
 またN資金については、ナイジェリアの刑法第419条に抵触する犯罪だそうで、近頃は「四一九事件」などと呼ばれているそうです(出典:月刊「財界展望」11月号)。依然として怪しい手紙やFAXが送付される日本人が多いとのことで、報告されていない中に詐欺に引っかかった経営者も多いのではないかと見られています。とりあえずジェトロの貿易投資相談課へご相談くださいませ。

 経営者諸君、そろそろ学習しなさい! 世間でこれだけ騒いでいるのですから、自分にだけ本物の話が来るはずがないでしょう!!

99.10.15
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