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経済の研究No.163
情報技術革命はくずれた

 このところ情報技術革命IT革命)という言葉が聞かれます。あるビジネスが総人口の一定割合を上回った場合に、そのビジネスが爆発的に普及する現象があります。新しいビジネスモデルの普及により旧いビジネスモデルが駆逐されるため、これを革命と呼びますが、革命の最中に革命を自称するほど危ない前兆でもあります。
 革命は、失敗すると革命でなくなります。「移動通信」や「小型情報端末」、あるいは「インターネット」をキーとした情報技術革命は、果たして成功するのでしょうか?

■ ナスダックバブル、弾ける
#N12月に2,000ドルを突破したNASDAQ指数は、1999年12月に4,000ドルを越え、2000年3月10日には終値ベースで5,000ドルを上回りました。時価総額の大部分を占める少数のIT銘柄の躍進で始まったナスダックバブルは、次々に関連銘柄を巻き込んで市場規模を拡大し、加えて新規IT銘柄の急騰など満開になりました。
 バブルだと指摘を受け続けながらも、新しいビジネスモデル故の未成熟さが受けての暴走は、実に15か月以上も続いて、ようやく崩れを見せました。NASDAQ指数は下げに転じて4,000ドル前半まで割り込み、1999年に一世風靡した花形IT銘柄は相次いで3割以上の下げを見せました。調整局面だと言われていますが、バブル崩壊前の新規公開を目指すIT銘柄の続々参入で、一層の崩れを見せる可能性が指摘されています。
 せめてもの救いは、NYダウの堅調でしょう。NYダウは1月14日の11,722ドルをピークに下落を続け、3月7日の9,796ドルまで下げ止まりませんでした。しかし、NASDAQからの資金シフトを受けて反発し、再び新高値を狙う水準にまで回復しています。公定歩合やFFレートの引き上げも跳ね返し、素材産業や成熟IT企業への投資が続いているとのことです。

■ 日本版ネットバブル、弾ける
 米国のナスダックバブルに引きずられる形で、日本のネットバブルが高成長しました。ネットをキーワードに、国内で寡占度合を高めるNTTグループ、ネット財閥を標榜するソフトバンク、荒っぽく稼いだ光通信などが大躍進を遂げ、時価総額ランキングを派手に塗り替えるなど話題をさらいました。凋落していた店頭市場が息を吹き返し、鬼っ子市場のマザーズ誕生などもありました。
#N早々に主要経済誌でネットバブルの内実を暴かれた結果、「新しいビジネスモデル故に従来の投資基準とは異なる」とした暴論も後退した模様です。直接の引き金を引いたのは、光通信でした。架空の契約をでっち上げて通信会社から報奨金を得ていた事実が明るみに出たり、販売見込み台数を読み誤って大幅赤字に転落したり、売上高や利益の嵩上げを図って優良企業を仕立てる新規公開のカラクリが叩かれたりしました。結果、今年24万円の高値を付けた株価は、10万円の大台も大幅に割り込んで、すでに4万円台です。
 公開基準の甘さなど制度欠陥をさらしてしまったのは、マザーズでした。非合法組織との癒着などと報道されたLAJが大崩れし、IRIも過剰人気で付けた1月20日の7,741万円から4月7日の2,000万円割れまで崩れました。ITでは老舗のメッツも上場1か月で1/3に、NASDAQから逆上陸したクレイフィッシュも公開と同時に大幅安し、スノーヴァ、オン・ザ・エッヂなど寄り付きから売り気配ストップ安の銘柄も相次ぎ、ネクステルに至っては上場承認取り消しに成りました。

■ バブルの後始末
 ソフトバンクは次回に書くとして、ネットバブルの崩壊によって、悪い意味でIT銘柄の実力が評価できなくなりました。また光通信が100億円以上の営業赤字を出しながら、ネットバブルを使った株式売却益で赤字の穴埋めを行い、投資家が体よく使われている現状も、ようやくメディアで公開されるようになりました。
 何はともあれ、バブルであることが確定した以上、バブル後の後始末が必要です。IT産業がこれから成長するのは間違いありませんが、いずれも資金難に陥っていることも事実です。良きに付け悪しきに付け、ソフトバンクや光通信が、資金繰りに喘ぐIT企業を救済していることは間違いなく、彼らがその代償に株式売却益を手にしていることは当然の権利です。本来は金融機関が行うべきIT分野でのベンチャー育成ですが、金融機関は自らの生き残りと肥大化に手一杯であることが問題です。
 ソフトバンクや光通信が勢いを失えば、将来性のあるIT企業が次々に消えていくことになります。年初は元気のあった新規ファンドは、ポートフォリオに無理無理に加えたばかりのIT銘柄の大幅下落でアップアップです。せっかくの投資信託ブームにも水を差す危険があり、IT企業への投資を大幅に鈍らせる可能性もあります。
 またも政府主導で、IT企業の救済が必要ではないでしょうか。一律なバラマキではなく、どのようにIT企業の成長性を占うかの手法を明確にし、その手法を遵守しての資金手当を行うことです。いつまでも株式市場依存の危なっかしい資金調達に委ねるべきでないでしょう。

■ むすび
 革命はすでに進行しています。しかし、このままでは自滅する可能性もあり、少なくともIT革命をキーワードに回復している日本経済には、何らかのテコ入れが必要と思われます。何とか経済の下支えに成功していた小渕内閣も消えた今、再び不況に転落するのかどうか、現実的な範囲での革命の成功を願っています。

00.04.09

補足1
 金融機関もベンチャー投資に向けたファンド設立に動いています。ただし、公開目前企業などをターゲットに、すでに成長性が見えてきた企業に限って行うようです。要するに弱小でも実力のあるベンチャーを育てる思想でなく、すでに育ってきたベンチャーから旨い汁を吸わせて貰うという思想です。都銀は概ね100億円規模のファンド構想を発表していますが、どのベンチャーに投資するのかが難しく、ある意味で無意味な競争を演じそうな気配でもあります。さらにバブル崩壊となれば、企画倒れで終わる可能性もあります。。

00.04.09

補足2
 NASDAQ指数は下げ止まらず、3,321ドルまで急落しました。4月13日だけで355.5ドルもの下落幅になりました。NYダウは高値圏にありますが、同じく13日は617ドル安の10,305ドルと記録的な下げ幅でした。
 ソフトバンクは下げ止まらず、下値を探す急激な展開を見せています。7万円台もアッサリ崩して6万円へ下落しましたが、これまでの信用買い残の多さが、さらなる下落に拍車を掛けているとのことです。「すでに信用売り残の手仕舞いは終わっており、買い方は一方的に不利な上に、追い証による投げも誘っている」と証券屋は言っています。
 ソフトバンクは6月23日付けで1株を3株に分割する旨を、12日に発表しましたが、4月30日という目前の権利落ちで流通株が増えると判断した投資家が増えたのもマイナスでした。露骨な株価対策というのが、3,000億円の資金調達の話と同様に、これまでネット神話を信じてきた投資家の逃げを誘っています。
 光通信も連日のストップ安に喘いでいます。系列販売会社の倒産などイメージダウンの追い打ちを掛けたほか、メディアが手の平を返してバッシングを加えていることも一因のようです。
 IRIは1,059万円まで急落し、LAJも280万円の安値更新となっています。これからはファンドのリバウンドも警戒され、一層の市場混乱に拡大しそうです。早くに正常な値決めが仕切られることに期待したいのですが。

00.04.15

補足3
 明けて4月17日は、さらに大荒れしました。日経平均は史上3番目という1,831Pの大幅安をザラ場で記録し、大引けでも1,426P安という史上5番目の下げ幅でした。東証1部の値上がり銘柄113に対して、値下がり銘柄1,236という、久しぶりの全面安となったことも印象的です。
 また店頭平均は76.6P安で10.19%の下落率となり、過去最悪となった模様です。
ソフトバンク・光通信・IRIは揃ってストップ安売り気配となり、売買が成立しませんでした。それに巻き込まれる形で、NTT各社、ソニー、京セラ、富士通、DDI、セブンイレブンなど関連業種も軒並み崩れました。近頃ネット化に傾いている電機各社は、降って湧いた急落劇に混乱し、新興ネット銘柄との差別化を主張するなど慌てた動きを見せています。
 さらに光通信では、会社更生法適用申請という風説が市場で流されたため、これに抗議する声明を出したほか、風説の流布に当たるとして、取引監視委員会に調査を求めているそうです。

00.04.17

補足4
 NASDAQ指数、NYダウの記録的な下落で始まりましたが、両指数が即座に記録的な上昇で切り返した結果、銘柄の選別は進んだものの全体として持ち直しました。
 一方の日本版ネットバブルも、19日にヤフーが経常利益5倍という好業績を発表したことで下げ止まり、光通信を除いて反騰に転じています。光通信はピークの1/10にまで下落し、ソフトバンクも1/5まで下落しました。適正株価への調整が待たれます。
 日経平均は、激しい値動きを続けています。19日は一時18,500Pを割り込んで18,969Pまで切り返しました。20日は19,300Pの高値から大引け直前に18,959Pまで崩れました。21日は朝方に19,269Pの高値を付けたものの、18,252Pの大幅安で大引けしました。日経平均は225銘柄の大幅入れ換えによる混乱が続いていることや、新規銘柄の多くがIT関連であることも災いしているようです。

00.04.21

補足5
 5月19日現在、ソフトバンクはピークの1/3(株式分割考慮)に、光通信は1/30にまで下落しました。ソフトバンクが小幅安に留まったのは、すでに紹介しましたように緊急の1:3株式分割が評価されてのこととされています。両社に限らず、大規模な値崩れの原因となったのは、やはり投資信託でした。両社の値崩れ発生で解約集中を懸念したファンドが、両社株式の投げ売りと並行して、他の値がさ株の売却に出動し、それに触発されて他の成長株ファンドも投げ売りを敢行・・・という構図のようです。
 結局のところ、今年2月〜3月にピークを付けたファンドが、4月18日現在で相次いで20%以上の下落幅を記録しました。詳細は、週刊ダイヤモンド2000/05/27号で紹介されています。ジャーディー・フレミングの平成ジャパンファンドは下落率41%、ウォーバーグ・ピンカスの日本成長株ファンドは同37.1%など、散々たる結果で少しは回復の兆しもあるものの投資信託への不信感を植え付けました。
 上記ダイヤモンドの記事が証券会社の担当者の声として興味深いものを紹介していますので引用しますと、「IT関連ファンドを作ればいくらでも売れるという認識が作り手(投信会社)にも売り手(証券会社)にもあった」「ソフトバンクと光通信の二社だけで運用してくれと言われて絶句した」「おたくのファンドはネット株の比率が少ないので、運用成績が大丈夫か客が心配している」等々・・・ITバブルを煽ったのは証券会社だったようです。
 一応は、値崩れしたファンドをしっかり買い支える投資家もあり、設定当初から保有している投資家は含み益を維持していることもあって、混乱は一時的で今後の運用次第の挽回もあり得ると強気の意見もあるようです。

00.05.20

補足6
 日本のIT株は概ね小康状態にあるようです。ナスダック・ジャパンの開場と新規上場、そして衆議院選挙が追い風になっていると報道されています。しかし、光通信については錬金術の中身が暴露されたり、キャピタルでクーデター未遂発覚などとスキャンダル報道が続いており、一人負けの様相です。
 本場アメリカでは、6月22日と23日の両日でアマゾン・ドット・コムが30%もの大下げを演じ、22.875ドルに成りました。ピークの113ドル(1999年12月)から7割もの下落率で、IT革命の牽引役が散々です。根気にキャッシュフローの黒字化が見込まれる一方で、社債返還能力に疑問符を付けられるなど、警戒感が広がっていることが理由のようです。
 米国・英国では資金詰まりによるネットベンチャーの倒産が相次いでおり、産業界での躍進とは相容れず苦戦が続いているようです。23日には、AOL・ヤフー・イーベイなど経常黒字を達成しているネット株にも波及しており、日本市場にも悪影響が及ぶかも知れません。

00.06.25

補足7
 米国でもIT企業の凋落が目立ちますが、まだ楽観論が残っているらしく、利下げなどを受けて反発する銘柄もあるようです。ネット小売の最大手であるアマゾンは、営業赤字が半減したとして株価がピークの80%まで切り返すなどの動きがあり、デルが販売首位達成と営業利益の更新などで話題をさらいました。
 一方で堅調だった米国ヤフーは広告収入の大幅減少で初の人員削減に手を付ける必要を生じています。一時期は時価総額トップを記録したシスコが大量の在庫廃棄に踏み込むことになり、IT革命が幻想であったことを強く印象づけています。IT企業の旗頭の一つであるマイクロソフトは安定した業績を続けており、次期OSに期待が集まるなど、温度差が目立つようです。
 日本市場では、ITバブルの処理が続いています。それに巻き込まれる形で、マザーズの大型上場と期待されたWOWWOWが公募価格115万円を大幅に割り込む87万円を初値とし、終値が77万円となったことが話題に成っています。成長イメージが強かったにも関わらず、2001年3月期に大幅な最終損益であったことを嫌気されたとのことです。
 ナスダック・ジャパンは、あまりの凋落ぶりに大証による吸収という話が出ているようです。新市場ブームがそのままITバブルであったようですね。

01.04.22
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