前頁へ  ホームへ  次頁へ
経済の研究No.181
オーバーストアな時代

 高度成長期においては、国民の消費性向が高まり、流通業界も急拡大を続けてきました。バブル期においても、一部の業態を中心に消費が高まりましたが、あまり流通を潤すことには成らなかったようです。その一方で、高度成長期に培った、高インフレを目論んだ事業規模の急拡大路線や、バブル期にあった土地錬金術などの魔力に嵌った流通大手企業は、十指に余ります。流通業の凋落が言われる中で、元気な成長企業もあります。さて・・

■ 流通のパイは拡がらない
 百貨店では、破綻したばかりのそごうが筆頭格です。複雑な持株関係を構築し、既存店舗を担保で調達した資金で新会社を作り、その資金で新しい店舗を作り・・という無謀な店舗拡大戦略が、最終的に破綻を招いたのは周知の通りです。そごう本体で多店舗化に邁進していたのなら分かったはずですが、いわゆる「水島マジック」の凄みは中身の見えないことにあったわけです。ようやく和田氏主導による再建計画が決まりそうですが、大部分の赤字会社を精算し、残る黒字会社を中心に一社に整理するという大胆なモノです。まだ不十分との声もあれば、会社更生法並みの厳しさとの声もあるようです。
 スーパーマーケットでは、本業外の赤字で事実上グループ解体となるセゾングループ、御家騒動なども伴って本業回帰を急ぐという斜陽のダイエーグループ、大胆な多角化が行き詰まりを見せているマイカルグループ、と数多くあります。セゾンでは、不動産投資などのツケを優良子会社株式の売却等で埋めましたが、そごうとの連携に一縷の望みを託していると聞きます。ダイエーは創業者一族の切り離しと、優良子会社の売却で、かなり将来性のない事業運営を強いられそうです。
 百貨店のパイをスーパーマーケットが喰い、スーパーマーケットのパイをコンビニエンスストアとカテゴリーキラーが喰う構図に成っています。しかし、低インフレで不況期を抜け出せない現状では、流通のパイは拡がっていません。むしろ縮んでいるという見方もあるようです。

■ オーバーストアな時代
 限られたパイを、流通企業同士で激しく食い合っていますが、何よりも同業態間・同業者間でも奪い合う状況に陥っています。スーパーマーケットでは、都市部の鉄道駅1つに1店舗以上あります。それもミニ百貨店とも言うべき、総合店舗があります。小物はコンビニで入手し、大物は郊外のカテゴリーキラーで揃え、ブランド品は百貨店で購入するという生活スタイルの普及で、どのスーパーマーケットも苦戦しています。イトーヨーカ堂でさえも既存店の凋落は大きくなっています。
 要するに、店舗が多すぎる時代、オーバーストアな時代が来たのです。スーパーマーケットで言えば、2店に1店を間引くぐらいの大胆なリストラが必要です。百貨店も30万人商圏に1店舗から、50万人商圏に1店舗程度にリストラする必要がありそうです。好調とされたコンビニでさえも、都市部においては既存店の大幅減益が定番化しつつあります。フランチャイズ故に難点を抱えていますが、既存店の整理が必要になるのでしょう。
 カテゴリーキラーと呼ばれ、医薬品や衣料品やOA機器などに特化して成長した流通企業も、既存店ベースでは厳しくなっているようです。ドラッグストア最大手のマツモトキヨシは、既存店ベースで2%のマイナス成長にも関わらず、店舗は2000年だけで20%近くも新設してしまっています(2001年も20%増の予定)。そろそろ事業頭打ちというところでしょう。自己資金で出店していないでしょうから、売り上げが伸びなければ、企業収益を大きく圧迫する危険があります。新規参入する企業も増え、競合各社の店舗網拡大、100円ショップ等異業態との競合も響いていると聞きます。
 さらにインターネットのバーチャル店舗も、オーバーストアです。新規参入が容易であるだけに多数の電子ストアが誕生しましたが、パイが十分に拡がらない中で、破綻や撤退が相次いでいます。しかし、依然として新規参入は減らず、オーバーストアは解消されそうにありません。

■ 移り気な消費者
 消費者は、浮気者です。利便性を感じているウチは利用するものの、より利便性のある店舗へと移っていきます。消費スタイルの変化も大きな要素でありますので、ストアの側から見れば移り気であっても、それが消費者の本来の姿なのでしょう。今後、コンビニがバーチャルストアに置き換わり、総合スーパーがミニ食品スーパーへ置き換わるなど、業態別の変化や変態、業態間の住み分けなども進むのでしょうか。
 消費者としても、潤沢な可処分所得があれば大いに遣うでしょう。一頃の米国のように消費が一大ブームにでもなれば、現状のまま各流通企業が潤うのかも知れません。しかし現実には、消費者の可処分所得は少なく、商品やサービスを選別する目は厳しくなっています。その培われた目は、多少の景気回復でも鈍ることが無いでしょう。また商品は量よりも質へ、サービスは価格よりも利便性へ、良いものには見合うコストを掛けるスタイルも確立されつつあります。
 さらに昨今の広告業界は大騒ぎです。不況で手詰まり感のあるなかで、どの企業も莫大な広告費を使おうとしているためです。定番の番組を支え続けるスタイルから、人気番組のスポットを買うスタイルへと変わっているとも言われ、また派手なキャンペーンを繰り広げる企業も増えているとのことです。しかし、その広告効果は短期間の様子で、広告業界が春を謳歌するのも何時までか分かりません。インターネットを使ったバナー広告等も氾濫しすぎて、訴求効果が薄くなっているとも聞いています。
 もはや消費者は、宣伝広告だけで振り回されたりもしないのでしょうね。消費に関して、アンテナを張り巡らせて貪欲に情報を集めています。しかし自ら選別もし、限られたお金を有効に使おうと必死です。物言わぬ商品よりも、物言う商品の方が売れるのは事実ですが・・。消費者が自ら情報を収集するツールも増えたことから、一方的な広告では、流通企業も消費者をつなぎ止められないかも知れませんね。

■ 消費者にどう応えるか
 オーバーストアな時代です。同業態間で仲良くパイを分け合う時代でもありません。少なくとも同業態間で生き残る努力が必要です。まず同業他社とは違うことを自己主張し、差別化・個性化を目指す必要があるでしょう。広告にしても情報発信は、効率的かつ効果的に行う必要があります。それに加えて、店舗の魅力を高める努力は欠かせません。店舗の差別化や個性化が果たせたとして、そこに満足しては始まりません。消費者は移り気ですが、同時にニーズを常に吐き出しています。そうしたニーズを吸い上げ、市場の動向を睨みながら、新しい方向性を打ち出し続けることも欠かせません。
 また異業態の参入もあります。積極的に異業態と争うのか、異業態の良さを取り込んで自らを変えるのか、異業態と結んで相乗効果を生むのか、柔軟な経営判断が欠かせません。個店ではなく、チェーン店で実力を発揮する流通企業ですから、その本社がどう動くかに、優勝劣敗の競争の鍵を握っています。本社の役割は、自らニーズを収集し分析、店舗にフィードバックしての意見吸い上げ、実験店の立ち上げや異業態との人材交流・ノウハウ交換など、沢山あるはずです。無気力な本社の下に発展はあり得ません。
 最後に、消費者に生きた情報を提供することでしょう。消費者は、氾濫する情報の中で、有用な情報を得ることを渇望しています。それに応える質の情報を発信し、それにリンクして店舗で商品やサービスを提供し、さらに新たな情報を受信し役立てる必要があります。確かに努力を始めている企業は多いのですが、どこまで新鮮で有益な情報を提供しているのかといえば、及第点を取れる流通企業は多くありません。

■ むすび
 拡がらない流通業のパイ、多すぎて過当競争を招いているオーバーストア、移り気で当てにならない消費者、そうしたモノを嘆くよりも先に、まず生き残るための努力が欠かせません。同業態間でも異業態間でも、消費者の興味を捉えて離さない何かを掴んで、流通戦争を生き抜いて欲しいと思っています。
 さて消費者としての我々は、どうすれば良いでしょうか。より移り気に専念しましょう。欲しいと思う商品やサービスを要求し、不満を感じる商品やサービスにはクレームを付け、欲しいと思えない商品やサービスとは縁を切りましょう。我々消費者にも試練が与えられています。如何に商品やサービスを選別する目を養い、自ら個性を培っていけるのかどうか、流通企業との戦争でもあります。

00.11.23

補足1
 東京シティファイナンスと西洋環境開発の処理に巨額の負担を強いられた西友は、総合店舗路線を返上し、食品スーパーへの特化を打ち出しています。既存店舗では食品部門以外のスペースにカテゴリーキラーを誘致する方針で、新規店舗は食品のみのスペースを確保する出店スタイルとする模様です。比較的に堅調な、家庭用雑貨・大工用品・園芸品などのカテゴリーキラーに依存して空きスペースは埋めていくのでしょうが、店舗の立地や性格を見据えつつ、適切なテナントの選択を進めて欲しいものです。

00.12.11

補足2
 これまで好景気であったはずの米国でも、大手百貨店の閉鎖があるようです。128年の歴史を持った「モンゴメリー・ウォード」は、個人消費の伸びの低下を理由にして、12月28日に連邦破産柾フ適用を申請し、事業清算に入ったそうです。同社は全米30州に250店舗を有していましたが、大手ディスカウントストアなどに圧迫されて事業継続を断念したとのことです。
 同社は、1997年6月にも申請しましたが、全米最大のノンバンクであるGEキャピタルの支援を受けて凌いできた経緯があります。今回は、GEキャピタルも再建に匙を投げて、投資資金の回収を断念したようです。GEキャピタルは日本での活躍が知られています(第93回GEキャピタルのフルラインナップ」を参照)が、なかなか流通部門を見通すことは金融のプロにも難しかったのでしょう。

00.12.30

補足3
 ネット広告の分野で圧倒的なシェアを持つヤフー・ジャパンは、2000年10〜12月期も好調で、前年比2.3倍の広告収入を得たとのことです。ユーザーの閲覧ページ数が飛躍的に伸びていること、広告出稿業種が化粧品・外食などでも増えていることが理由のようです。しかし本家の米国では広告収入の落ち込みが目立ち始めており、日本でも景気悪化による広告費削減のあおりを受けそうだと警戒しているそうです。
 ヤフーの広告収入依存度は、約95%です。新しい収益の柱を模索していますが、現在のところはオークション事業の有料化ぐらいしか無いようです。フリーであることで利用者を呼び込んでいるだけに、チャージとなってもユーザーが付いてくるかどうかが課題でしょう。
 ヤフーの株価も、2000年のピークから比較して、85%も下落しています。昨年はバブルであったとしても、その落差を埋める義務があるようです。

01.01.28

補足4
 コンビニのオーバーストアがより顕著に成ってきました。国内店舗数では、依然として拡大方向に進んでいますが、都市部を中心に飽和状態が顕著になっており、2000年度の閉鎖店舗数は1,400店舗にも成っているそうです。
 日本経済新聞2001/04/17朝刊の記事から数値を引用します。2001年2月期における大手コンビニの店舗数は、セブンイレブンが8,602(449)、ローソンが7,683(305)、ファミリーマートが5,812(268)、サンクスが2,826(233)、サークルケイが2,693(11月決算)、ミニストップが1,365(151)などと成っています(括弧内は前年からの増減店舗数)。全店売上高・営業利益ともにセブンイレブンの首位は崩れていませんが、既存店ベースの売上高の落ち込みが出ています。
 コンビニの成長神話に陰りが出てきている一方で、加盟店の本部への不満も増大しているようです。不採算店舗への支援策強化や、ロイヤリティの引き下げ、販促費の積み増しなども見られるようですが、どこまで不満を吸収できているのか不明です。

01.04.21
前頁へ  ホームへ  次頁へ