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政治の研究No.24
新首都を「苫東」へ!

 世の中には似たようなことを考える人がいるものです。コロンブスの卵と思っていたことが、7月24日の日本経済新聞朝刊に出ていました。同紙の編集委員である土谷英夫氏による「新首都「苫東」はいかが?」という記事であります。すでに北海道が首都機能移転先に推薦していたそうなので(早々と落選していたそうですが)、同氏のオリジナルでも、ポン太のオリジナルでもありません。

 苫東とは「北海道苫小牧東部開発(地域事業)」を指します。国の第三セクター(官の事業を「第一セクター」、民間の事業を「第二セクター」と呼んでおり、両者の共同事業をこう呼びます)事業で最大級のものです。1971年に開発基本計画が策定され、13省庁体制でスタートした国家プロジェクトです。そして推進機関として苫小牧東部開発株式会社が設立されています。分譲計画用地は10,700ヘクタールであり、土地の買収と整地に莫大な資金が投入されました。ただし財政投融資資金と民間協力融資団(代表幹事は拓銀)資金を導入しての借金漬け体質であり、1997年9月の時点で借入金総額は1800億円に膨らみ事実上破綻しています。その理由は進まない用地売却にあり、現在の契約済み面積はわずか820ヘクタールであります。90%以上も売れ残ったまま20年以上放置した結果、莫大な経費と金利が上乗せられました。第三セクターはわずかな資本金(つまり官の出資負担は極小)で興せる事業がメリットでありますが、その分事業計画や事業経費へのチェックが働きにくく、巨額の赤字を垂れ流している事業が多いようです。しかも13省庁も参加する国家プロジェクトでありましたから、相互の牽制もあって計画打ち切りができなかったのです。皮肉にも第二セクターの筆頭である拓銀が破綻したことで行き詰まりました。

 さて、第二セクターが機能停止した以上は、第一セクターである国が事業責任を負わねばなりません。とりあえずは苫東開発の清算、事業用地の国による買い上げ、残債権の公的資金による完済が柱となるでしょう。とはいえ1万ヘクタールもの用地が遊ぶのは無駄です。今後もメンテナンス費用が必要ですし、すでに用地契約をした企業の世話も必要です。北海道経済は現在大変な状況にあり、道内から有力企業を誘致することは難しいです。車で20分の距離に千歳空港がありますが、道内ではそれほど立地に恵まれていると言えず、借金を圧縮して土地単価を大幅に引き下げなければ売却の目処が立ちません。したがって「会社更生法の適用が不可避」(週刊東洋経済7月18日号)と言われるのですが・・・
 では、本題です。これまで首都機能移転は十数兆円規模の経済効果を生むので景気活性化になると言われてきました。ところが財政構造改革ほかの影響で、赤字国債の増大化を望まない声が増え、また第25回に述べますように、土木開発業では景気浮揚策として限界が見られますから、大きな賛成が得られません。移転先選定の作業は進んでいるものの、官公庁サイドの抵抗も激しく、最終的に1カ所に絞るのは難しい状況です。ここでもし政治力で首都機能移転先を決めてしまうと、土地買収などで数百億円単位の不正が発生する恐れもあります。現在移転先候補の一つである那須の移転先と目される地域の私有地をひそかに買っている政治家があるそうです。しかし那須は国有地・県有地など公有地が多く買収費用はかなり格安になるそうであります。福島の候補地も県有地の提供を申し出ていると聞きます。それでも土地買収費が1兆円を下ることは無いだろうと思います。

 ここで土谷氏の説によれば、
 (1)用地は買収済みであるから早く安くできる
 (2)道路や港湾に投じた2,000億円を超える投資が活かせる
 (3)苫東開発の累積債務1,800億円の問題が回収できる
 (4)沈滞する北海道経済の活性化に有効である
と4つの利点を挙げています。また、
 (5)道内でも積雪の少ない地域で地球温暖化も考慮すれば過ごしやすくなるはず
だと主張しています。ポン太としても、(3)についてはやや不服であるものの、
 (6)1万ヘクタールを超える整地済みの用地をわずか2,000億円で買収できる
と考えれば安い買い物です。しかも東京が経済の中心として残るので有れば霞ヶ関一体の土地建物の売却で軽く捻出できる金額であろうと思いますから、
 (7)用地買収費の負担が少ない(むしろ儲かるかも知れない)
です。ロシアに近くなる懸念はありますが、首都機能が本州になくては成らない理由は、この情報インフラが進んだ時代においては見当たりません。一度は選から漏れたが是非とも再考していただきたいと思います。さらに、
 (8)政治家に利権で稼がせる余地が少なくなる
 (9)官公庁の目から遠ざかることになる東京の自由市場としての機能が高まる
といった利点も追加します。くれぐれも1,800億円の原野商法に填ったという結論にして欲しくないものです。

98.07.24

補足1
 大阪市湾岸開発関連で大阪ワールドトレーディングセンタービルディング(WTC)、アジア太平洋トレードセンター(ATC)という巨大なビルを大阪南港に大阪市が第三セクターで作りました。1995年と1994年に事業を開始しましたが、合わせて2,700億円に及ぶ投資回収の見込みが立たないそうです。入居率が低い上にバブル崩壊で予定した賃料収入が上がらないのが原因です。やむを得ず、外郭団体や管轄母体の港湾局などが移転して入居率引き上げに打って出ました。当然の事ながら高い賃料を支払いますので「タコが自分の足を喰って生き続けるようなもの」(週刊東洋経済7月18日号)で危機を乗り切ろうとしています。規模は全く違いますが、苫東へはとりあえず13省庁が移転することを検討してください。

98.07.24

補足2
 鈴木北海道開発庁長官は、苫東開発の事業受け皿会社を設立し、事業は継続すると発表しました。新会社が時価相当額で保有資金を買収し、残った債務は北東公庫や金融機関が債務放棄する模様です。北東公庫の負担は900億円に上ると観られますが、新たな財源措置か出資金などで対応すると言っています。

98.07.29

補足3
 不況脱出のために多額の出費を強いられている政府は、ついに首都移転を断念する方向へ動き始めているそうです。未だに候補地さえ絞り切れていない現状、12兆円を上回ると試算される移転費用、新築が相次いで始まった霞ヶ関官庁街、など見通しが全く立たないためです。首都圏の地価も急速に下がっており、もはや首都移転を積極的に行う理由が失われているのも現実です。

99.04.01

補足4
 出口の見せない長期不況の中、ついに第三セクター精算に動く自治体が増えています。明確な見通しのないままに着手した大規模事業が相次いで行き詰まり、それを自治体財政で支えることが困難と成っていることが理由です。面子に拘っている余裕が失われたというのが本当でしょう。
#Nに精算が決まった第三セクターは26件と多数でしたが、2000年は33件となり史上最悪を塗り替えました(1997年は10件、1998年は25件)。未だ全国に8,400件の第三セクターがあるため、氷山の一角という見方もあります。現在行き詰まっているのは、本来の趣旨に外れたレジャー事業が中心であります。
 むつ小川原開発(東京)が1,852億円、武尊レクレーション(群馬)が118億円、アジアパーク(熊本)が31億円、ヘルシーパーク久山(福岡)が27億円、青森第一林業(青森)が17億円、沖縄マリンジェット観光(沖縄)が16億円、と成っています。以上の数字は、東京商工リサーチの調査によるものです。
 少ないながら成功している事業、成功しつつある事業もあることから、今後も選別を進めて淘汰すべきでしょう。

01.01.20
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