前頁へ  ホームへ  次頁へ
政治の研究No.71
地域振興券、雑考

 昨年から繰り返し批判を受けつつ、ついに実現してしまった天下の愚策、地域振興券。3月末までに全ての自治体で配布が終わり、流通期間は6か月であるものの、都市部では50%近くが回収されているそうです。ざっと3,500億円分が使われた様子ですが、残念ながら目立った回復基調を見せてはいないようです。いろいろあって整理が着きませんので、思い付くままに書き連ねてみます。

 まずは制度の意義から。当初は国民全員に配布すると公約していた公明党でしたが、自民党との妥協の結果、社会的弱者に限定して配布されることになりました。ところが、手続設定の不備から、比較的恵まれた老人に配布されたり、事実を偽って申請しても確認する手段が無かったりで、自治体によってチグハグを生じました。統一的な基準を整備しなかった政府の責任です。また子供に関しては、年齢で足切りを設けたほかは一律支給でしたので、高所得層にも同額配られるなど問題を残しました。こうした問題は発生することが予想されていたものの、黙認されるべきことです。マスメディアによって洗いざらい紹介されたことで、貰えなかった世帯での不満が募りました。
 つぎに制度の変質です。地域振興という建前から発行自治体のみで使用可能とした結果、いくつかの不公平を生じました。例えば、大手流通では一定期間利用できないよう制限して地場商店街を保護した自治体があり、むしろ割高な商品を買わされたとするケース、積極的に利用させるために利用額面と同額の買い物券を手渡して実質2倍の使い手を持たせたケース、振興券利用客に限定して抽選で高額当選金や旅行券をプレゼントしたケース、などがあり、振興券を受け取れなかった顧客に愛想を尽かされる結果を生じた商店街もありました。結局、意味もなく独自性を打ち出そうと競争したことが原因であるようです。
 そして制度の効果です。地域振興券の利用は、使い勝手の悪い大手流通よりも地場小売店で使われていると専ら言われています。それはそれで地域振興の名に相応しいのですが、必ずしも景気浮揚にはなっていない様子です。消費者は利口ですから、衝動買いよりも、生活必需品の購入に使ったのです。ある雑誌記事によれば、配布直後は20%程度の売上げ増ながら、その後は前年並みの売上げで、大手流通はむしろ前年比マイナスであったそうです。景気浮揚どころか景気刺激にも繋がらなかった様子です。ある自治体では水道・電気代などの公共料金支払いにまで利用を認め、意義をはき違えた例もありました。結局は複雑な手法を採用し、配布・回収のコストまで含めると莫大な費用を要した地域振興券で潤ったのはごくわずかだったようです。

 さて、当の公明党ですが、今回の事実をどう受け止めているのでしょうか。公明党のHPには制度のQ&Aがあって興味深く読むことができます。どの政党も景気対策を打ち出せない中で公明党は第一に打ち出した、と大風呂敷を広げていますが、きちんと検証をするのでしょうか。また今年度以降も継続的に実施すると言っているようですが、振興券を受け取れない世帯や、減税ほどのメリットを受け取れなかった世帯からは、バラマキに対する怒り・不満が強まりそうです。
 また一応は恩恵に浴した地場小売店などからも不満の声が聞こえてきます。わざわざ特定事業者に登録しポスターまで貼ったのに利用総額が1万円に満たず、一定額の割り戻しを掲げた途端に対象者でない顧客が離れたなどと怨嗟の声も聞かれます。その反対に、予想以上に振興券の利用があったものの自治体側が換金に応じられず、掛け売りが負担になっている例もあるそうです(自治省が改善を促しています)。小売店の支持さえも得られなくなると最悪です。

 また自民党はどう受け止めているでしょうか。公明党の公約に協力したにも関わらず、現状では目立った恩恵を受けていない様子です。何より愚策を強行した張本人である以上、いずれは十分に検証した結果を公開して欲しいと思います。政権与党としての義務を果たしてくれることを望みます。金融機関やゼネコンを救済するために多額の血税を導入した自民党、国民への人気取りに配ったつもりが逆効果なんてことは回避して欲しく思います。東京都知事選での敗北の原因もよく分析してみて欲しいと思います。

99.05.02

補足1
 その他をいくつか書きます。東京都では、風俗店での利用を認めた特定区と、認めなかった特定区とで温度差が見られたようです。実際の問題から言えば、同一区内の住民しか利用できませんから利用された金額は知れているのでしょうが、どちらが景気浮揚に役立つ考え方かを検証するべきですね。
 東京都の大手量販店が振興券に釣り銭を出すと公言して物議を醸しました。結局は特定事業者の登録取り消しをちらつかされて諦めましたが、地場小売店では釣り銭を出した店もあったことでしょう。制度の趣旨をいくら強調したところで、運用そのものに問題を内包していたのですから、仕方がありません。
 政令指定都市では回収した振興券の保管場所に四苦八苦しているそうです。自治省が回収振興券の保管を義務づけたためで、余裕スペースの少ない庁舎内を振興券入り段ボールが積み上がっているのだそうです。高額券のみに限定しておけば負担は軽かったはずですが・・・。

99.05.02

補足2
 日本経済新聞が興味深いアンケート調査の結果を紹介しています。購入動機では、「元々買う予定だった」が60.7%、「買うのが早まった」が9.3%、「予算を増やして買った」が9.8%、「時期も早め、予算も増やした」が6.8%、「予定外のものを買った」が13.4%です。予算を増やしたの定義があいまいですが、多めに見積もっても30%程度が消費の増加に結びついた様子です。これを大きな成果と見るかどうかは・・・読者の皆様にお任せします。
 購入品目では、衣料品がトップ(これは毎日新聞でも同じ)、食料品、家庭用雑貨、がん具、本・CDの順になっていますが、高額商品が出てこないのが気になるところです。以下、家電製品、外食が続きますが・・・シェアはかなり低いです。
 「生活の助けになる」と答えた人は76.1%、「税金の無駄遣いだった」と答えた人は49.5%、「景気対策として効果がない」と答えた人は50.7%でした。非対象世帯に限定すると「税金の…」が71.9%、「景気対策…」が69.9%と手厳しく、振興券政策が不公平感を募らせる結果になったことを示しています。

99.05.03

補足3
 書き落としていましたが、自治省は地域振興券のデザインコンクールを開きます。外郭団体の地域活性化センターに委託して行わせるもので、地域名所、人気アニメキャラ、キャッチフレーズなどを盛り込んでお祭りムードを盛り上げているみたいです。しかしコンクールを開いて外郭に金を落とす意味にどんな必要性があるのでしょう。
 該当数は分かりませんが、高齢者への振興券配布については郵便局のみ許可されました。それもわざわざ配達記録か簡易郵便を使わせるというもので、民間を閉め出しておいて旨味のある商売をしています。今回は郵送を含める配布費用(実費)は国庫負担のため、振興券の郵送を決めた自治体もあったそうです(1月24日という古い記事のため、実態は不明ですが・・・)。

99.05.07

補足4
 事例は具体的にという要望がありました。まず風俗店やスナックでの利用を禁止した特別区は台東区(区域内に吉原)、可能としたのは新宿区(同・歌舞伎町)です。懸賞金を導入したのは、埼玉県川口市。商店街の負担で特賞50万円1本、特別賞1万円ほかで、9月には目玉として別に100万円1本を導入する予定でしたが、公正取引委員会の指導で、特賞10万円5本、目玉を30万円1本に減額しました(景品表示法の限度額が30万円であるため)。振興券に懸賞の半券を付けたのは千葉県野田市で、商店街商品券10万円が最高です。また商店街イベントなどに100万円程度の予算を付けたのは滋賀県・佐賀県です。
 支給対象外の住民に一律1万円を配ったのは北海道泊村です(その原資はもちろん地方交付金)。また本来は受給資格のない、地方税を納付する高齢者や軽度障害者にも振興券2万円を配ったのは三重県名張市です。変わったところでは、半額分だけ隣接自治体で利用を認めた長野県平谷村、自己自治体にない業種店に限って隣接市での利用を認めた福井県河野村などもあります。大手スーパーでの利用に制約を付けたのは東京都葛飾区です。
 振興券の利用に対して、独自の商品券等を割り戻したのは多くの商店街で見られます。このうち全国チェーンで対応したのは、例えばファミレス・ジョナサンで50%、コンビニ・ファミリーマートで5%などあります。本文でも書きましたが100%割り戻したのは、静岡県三島市です。

99.05.07
前頁へ  ホームへ  次頁へ