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政治の研究No.100
二千円札に未来はあるのか

 第100回のコラムを記念して、「千年紀みれにあむ)」ネタを書きましょう。

 再選を遂げ内閣改造も終えて絶好調のはずの小渕首相。改造発表の当日に東海村で放射能漏れ騒動が発生して、急遽計画を繰り延べました。これまで地道に原子力の浸透を図ってきたというのに、大幅に信用を失いました。これでエネルギー問題が大きな壁に直面してしまった分けで、新たな政策課題を抱えてしまいました。真空総理は、どう動きますでしょうか。
 小渕新内閣の支持率は大きく低下しているという世論調査の結果が出ています。これで年内の国会解散は難しくなったと観られています。また、党内でも年内解散に反対している一派があるという噂ですが、その理由が勤続10年から資格が付く国会議員互助年金(65歳から死ぬまで毎年410万円の支給が受けられる。あとは在職年数に応じて積み増し)がチャラに成るのを怖れる人が多いからというので、少し頭が痛いところです。

 とにかく目先を変えようということで打ち上げられたのが、二千円札発行の構想です。発表当初は記念紙幣と噂されましたが、どうやら普通紙幣に加えるという話になっています。「2000年だから2000円札」という安直な発想ですが、その出所は小渕首相その人ではないそうです。
 噂を総合すると、西武パルコが毎年制作するカレンダーの駄洒落コピーで「2000円札が出回っているのでご注意ください」(ニセ円札と掛けてあるようです)というのが優秀賞を取り、その審査員達が盛り上がって・・・あちこちに働きかけたそうです。その1人が堺屋経企庁長官と個人的な付き合いがあって意見具申し、民主党の鳩山さんほかにも説いて回ったそうです。また大蔵省印刷局がミレニアム事業の一環として記念硬貨を計画していたとも云い、この辺りから首相の耳に届いたのだとか(週刊新潮10/21号)。
 小渕首相の親分だった竹下元首相は、大蔵大臣時代の昭和57年に現在の新デザイン札を発行していますが、その際通し番号1番の記念札を貰ったそうです。小渕首相がそれに二番煎じて新札発行に踏み切ったという噂(週刊文春10/21号)も紹介されています。それなら二万円札の方が良いですのにねぇ。

 さて、新札発行による経済効果を強調しているそうです。まず、印刷業界やレジスターメーカーやATMメーカーが潤います。加えてソフトウェア産業もですね。しかし、これらの業界は現在でもまずまずの業績である上、先頃の消費税引き上げや2000年問題などで恩恵を被っている幸せな業界です。
 一方で、レジスターを買わされる流通業界や、ATMを一新させられる金融機関には、有り難迷惑です。これを機会に一新する口実ができるものの、コスト削減に取り組んでいる現状では重い負担です。新札の影響で経営破綻など・・・笑うに笑えないでしょう。救われる業界に属する人間と、救われない業界に属する人間では後者の方が多いです。
 ところで、レジスターの中身をよくご覧になったことがありますか? 紙幣用のスペースには、普通千円札、五千円札、一万円札が入るように成っています。しかし通常はストック用の筒状コインや小物があって、一万円札は別に収納する場合が多々あります。そこへ二千円札を収納するとすると大変です。下手をするとレジスターを一回り大きくしなくてはいけません。受取拒否はできませんものね。
 消費者にとっても迷惑の方が先立つでしょう。たしかに一万円札での買い物では釣り札が少なくて済みますが、問題はそのサイズです。すでに三種の札はサイズが似通っており、二千円札だけ目立つサイズには作れません(現在、三種の紙幣は縦が同じ長さで、横が5ミリずつ違うそうです。二千円札は千円札と五千円札の中間の長さにするのでしょうか?)。慣れないウチは・・・ミスが増えることが考えられます。また自動販売機などは当面対応できないと思われますし、識別の段階で誤動作する可能性が高いので、当然に高価でデリケートな機械になり、コスト増加分を負担させられる割に、巻き込まれるマシントラブルも増えそうです。

 肝心の経済効果を検証します。たしかに印刷業界は一時的に潤いますが、それも最初だけでしょう。全体の紙幣流通額は変わらない建前とすると、むしろ千円札の発行枚数が抑えられて恒常的にはマイナスに成る可能性があります。また識別性向上や偽造防止のために、より高度な技術を開発するなどにも費用が嵩みます。
 ATMやレジスター機器の会社は結構潤うでしょうが、特需で多くの注文を受けてしまった場合、それを捌くのが大変になります。ミスを抑えるべく新技術開発が必要ですが、来年7月という期限があるため、完璧は期しがたいところです。もしも大量に作った機械に致命的欠陥があれば・・・巨額の自己負担がのし掛かります。また採用増など事業拡大して対応した場合、特需が終われば水膨れ体質を生じてしまいます。業界の健全な成長に役立つかどうか・・・。
 個人消費にしても二千円札が増えたこと自体では大きな変化は無いでしょう。千円札が廃止されれば別ですが、単純に券種が増えるだけで消費が増えるとは思えません。いっそ千円玉を作るもよし、とりあえず千円札は無くして五百円硬貨で代用するもよし、最小紙幣を切り上げれば少しは消費拡大になるかも知れませんが、どうなのでしょうか。千円札が無くなればレジスターの問題も半分解決します。

 とはいえ、結構安直に決められた政策ですね。どんなに贔屓目に見ても記念事業以外の何物でもないです。外国には20$札など2の付く紙幣が流通していると説明していますが、日本でも昔は二十円札とかあったのに消えてしまいましたよね。むしろ二万円札の方がメリットが大きいと思いますが、そっちの方はどうなりますか。
 早稲田大学OBの小渕首相は、大隈重信デザインの二万円札のアイデアも暖めているという噂があります(週刊新潮10/21。一万円の福沢さんがトップでは困るらしい)。どうせなら同時に実施しないと・・・再び関係業界に大きな負担を強いてしまいます。二万円札ができれば現金輸送の面などで負担が半分になると歓迎されそうですが、インフレを助長しかねないとの慎重論も強いようです。いっそデノミまで現行のままで行けないものでしょうか。

 時代は、電子マネーを指向してもいるのですよ・・・小渕首相。

補足1
 「二」がつく国内通貨は、二十円札が2種、二百円札が4種、二百円金貨が3種だそうです。このうち戦後は、二百円札の1種のみです。海外通貨では、アメリカの二十ドル札、イギリスの二十ポンド札、フランスの二百フラン札・・・など沢山あるそうです。ちなみに台湾もミレニアム記念の二千台湾ドル札を発行するとのことです。(以上の券種と数値は、AERA99/10/25の記事から引用)
 また政府が二万円札や十万円札の発行に消極的であるのは、偽造を懸念するからだそうです。しかし現在一万円札の発行原価は10円・・・もう少しコストを掛けて偽造防止に配慮しても良いのではないでしょうか。
 高額紙幣は、一般商店などでは釣銭の準備負担や、釣銭詐欺懸念があるため、導入は苦しいでしょう。しかし、ホログラムを付けるなど高度な偽造防止技術を施した特殊紙幣として利用を限定するのなら、発行する価値も出てくると思います。

99.10.19

補足2
 スーパーなどでは積極的に二千円札を使わず、自然体で望む方針だとの話です。やはりレジスターのトレーを変更することは困難であり、二千円札は適宜受け入れて、必要に応じて釣り銭に渡すということです。位置づけとしては現行の五千円札に近い扱いで、それほど厄介には考えていないとのことです。
 ジュースやタバコの自動販売機などは、敢えて二千円札に対応することはせず、現行の千円札受入のままで対応したいとのことです。対応するための費用が過大であるわりに効果が薄いとの予測があるそうで、新型機については一部で検討するとの声も聞かれます。「高額紙幣しか持たない人は、最寄りの商店かコンビニで買って下さい」ということですね。
 JRの券売機は、高額紙幣対応機のみ二千円札に対応する意向だそうです。千円札が残る以上は、旧型機は千円札対応のままで十分との判断が働いているようで、高額紙幣対応機と窓口でフォローしていけるとの判断のようです。
 こうして見ると、新券発行による特需というのは、金融機関のATMやCD、行員用システムなどぐらいで、専ら金融機関への負担が増大しそうです。金融機関は現在のところ新システムの設計に四苦八苦しており、そこへ来年導入の二千円札などというシロモノが加わって、頭の痛いことでしょう。二千円札へ対応することが遅れると金融機関としての信用に悪影響を及ぼすでしょうが、地方銀行など旧型機の多い小規模金融機関には死活問題かも・・・首相のお茶目な判断が金融機関を苛めてしまいます。

99.11.07

補足3
 なぜかデノミネーション(以下、デノミ)の話も並行して進んでいるそうです。政府・与党では、日銀・大蔵省のほか有識者を交えて、1/100デノミ(現在の100円が新1円に置き換わる)を具体的に検討しているそうですが、この場合、2000円札が極めて短命に終わる可能性が高くなってきました。
 そもそも2000円札が発行される予定枚数は、約1億枚とのことで、業界の予想よりもかなり少ないそうです。もしも不人気であったり、デノミの計画が具現化して、2001年以降の発行が打ち切られた場合、印刷業界も機械メーカーも得るところなく、コストの回収負担だけが重くのし掛かる危険があるそうです(2000円札が単発で終わってしまった場合、技術開発費を含むコストは回収できないだろうとのことです)。一体、誰のための2000円札発行なのでしょうか??
 また期待された新札のデザインは、いまだにラフデザインしか公開されておらず、正式デザインが発表されてから発行が始まるまで、半年の猶予さえない可能性が大きいとのことです。印刷業界も機械メーカーもイライラしながら成り行きを待っている状況だと伝えられています。
 現行の新紙幣に切り替わる際には3年近い猶予が持たれましたが、今回は多くを望むことができない環境にあります。いっそ2000円札は記念紙幣として発行し、流通枚数の抑制を考慮した方が良いのではないでしょうか。混乱状態のままでは、受取拒否や偽造紙幣の流通などリスクが大きすぎる気がします。

99.11.17

補足4
 日本の500円玉と素材と大きさが同じである、500ウォン硬貨による釣り銭詐欺が多発しているそうです。若干重い500ウォン硬貨は、ドリルで削ったり、片面を磨いたりすると、自販機で分別できないそうです。日銀は、2000年から意匠を複雑にし素材も若干違えた新硬貨を発行すると発表しました。
 しかし新硬貨は1億枚程度の予定で、現行硬貨の回収も視野に入れていません。そんな中途半端な施策で、どうやって釣り銭詐欺を防止するのでしょうか。現行硬貨が使えなくなる自販機が増えそうです。一番の解決策は500ウォン硬貨を500円玉と両替することです。
 近隣国の硬貨とそっくりな硬貨を作ったのは、誰の責任ですか? 民間に無用な出費を強いるのはいかがなものでしょう。

99.12.12

補足5
 補足4の補足です。韓国の500ウォン硬貨は、日本の500円玉より2か月遅れで発行されたそうです。間違いを訂正します。
 新500円玉の新しいデザインが決まりました。「500」の数字部分に特殊な彫り(潜像って言うそうです。一種の透かし)設けたのが特長であるそうで、素材も黄銅系を含んで若干軽くなったそうです。旧500円玉は順次新500円玉に置き換えて、最終的に改鋳に持ち込む予定だとのことです。またも韓国がマネをしたりして・・・。ちなみに500ウォンの価値は約50円なのだそうですね。
 偽造事件では総額3億円の被害が出ているとのことですが、改鋳に伴う費用からすると少な目との味方があります。日銀が500ウォンの偽造硬貨を500円で買い上げることにしては、どうなのでしょうか? 鉄道の券売機などでは500円玉の使用枚数に制限を設けたものもあったそうで、ジュースの自販機では500円玉の使用を全面禁止とした例もあるようです。やはり自販機での悪用が目立つだけに有効な打開策が求められます。
 しかし新旧の硬貨が入り乱れている間は、旧硬貨を使えない方向で調整が進むのでしょうか。消費者は旧硬貨での釣り銭を拒否できないだけに、不便なことですね。ところで、ニッセイ基礎研の試算では、経済効果はGDPの0.002%アップに留まるそうです。

本補足は日本経済新聞99/12/12の「エコノ探偵団」を参照しました
99.12.31

補足6
 偽造硬貨変造硬貨は別物だそうです。ご指摘を頂きました。
 偽造硬貨は材料から何から作りだしたもので、変造硬貨は既存硬貨を何らかの手段で作り変えたものだそうです。今回の500ウォン硬貨の場合は、変造硬貨ですね。補足5で参照した日経新聞の記事によれば、変造硬貨は1997年が15万枚、1998年が30万枚、1999年は70万枚に届きそうだとのことです。組織的に500ウォン硬貨が密輸されているようです。韓国政府が貿易のために輸出しているのだったりして・・・。

99.12.31

補足7
 ちょっと古いニュースですが、11月2日に千葉県市川市で500ウォン硬貨の変造工場が摘発されました。偽造パスポートで不法滞在していた中国人グループで、ドリルを使う方法と表面を研磨する方法で、日産2,000枚の変造硬貨を製造していたことが分かっています。同時に1万枚の変造硬貨が押収されました。変造硬貨は別の売人に売却されており、1枚300円で取り引きされていたとのことです。同様の変造工場が多数存在するのかも知れません。

99.12.31

補足8
♂~札の発行が7月19日に決まったそうです。発行日までに1億枚、2000年度中に10億枚を印刷することになるそうです。今回は、500円玉ほかの偽造問題も上がっている関係で、偽造防止の技術をふんだんに盛り込むそうです。
 紙幣を上下に傾けると浮かび上がる「2000」や「NIPPON」の文字、角度で色の変わるラインなど、カラーコピーで模倣できないように精緻なものとするそうです。紙幣偽造は結局イタチごっこですが、十分なコストを掛ければ偽造しても割が合わないようにし向けることもできるので、良いテストケースに成りそうです。新500円玉も偽造防止の技術を大幅に盛り込むようですが、現行500円玉の使えない自動販売機が増えて非常に不便です。
 小渕さんも発行を前に退任してしまいましたが、果たして経済効果のほどはどうなるでしょうか。

00.05.03

補足9
♂~札の人気は今ひとつです。発行したものの、金融機関が回収しか行わなかった結果、日本銀行内にデッドストックされてしまいました。日本銀行は主要官庁に協力を呼びかけ、公務員給与の支払いに2000円札の利用を促すなどして、一定の実績は上げたようです。また日本銀行の支店窓口で、異例の2000円札両替を実施し、こちらも一定の成果があったようです。
 銀行ATMでは、都銀での入金対応機0台の寒い状態が続きましたが、ようやく対応機が増え始めています。しかし「2000円札対応機」と明記しなくてはダメなほどです。同様に新500円玉への対応も遅れており、消費者は大いに不便を強いられました。払い出し対応のATMは、さらに少なく、一部の地銀で話題作りに新型ATMを導入した程度でした。
 鉄道の券売機でも対応が遅れていましたが、JR東日本が2000年10月以降に対応を開始し、560駅700台体制を整えたようです(1駅平均1台ですね・・)。ジュース等の自販機では2000円札対応機はあるのでしょうか、情報がありません。新500円玉対応も遅れているものの、少しずつ対応機が増えている様子です。
 日本銀行では2000年の発行枚数を圧縮し、当面は普及に努める予定であるとか。小渕首相の忘れ形見も大変であるようです。いっそ、記念紙幣にして廃止するという案は、どうなのでしょうか・・?

01.01.27

補足10
 古いデータですが、補足9の補足データです。週刊新潮2000/10/19号によれば、調査時点で、2000円札の出入金可能であったのは、みちのく銀行のATM28台のみ。全国金融機関の14.4万台のATMやCDの台数に比較すると、あまりにも貧弱な数字です。また、調査時点では入金可能なものも三和銀行・京都中央信用金庫など数行ということで、日銀が発破を掛け始めて、何とか増加傾向にあるようです。
 同記事によれば、CDやATMを2000円札対応に改造する費用は、30〜50万円/台とのことです。そんなコストが必要であれば、新型機導入の際に検討したいと思うのも当然かも知れません。京都中央信用金庫は、全国トップの信金として改称したばかりです。話題性作りの意図もあってか、2000年内に全台(140→361台)へ対象を拡大した模様です。

01.02.17

補足11
#N末に持ち直したかに見えた2000円札の流通量ですが、12月の1億4,000万枚をピークにして、再び減退しているようです。2001年3月末は1億2,400万枚であり、日本銀行には6億枚が死蔵されている状態とのことです。都市銀行で2,000円札入金対応のATMは増えてきましたが出金対応でないため回収される一方であり、店頭窓口でも利用者に嫌われて出金に回されていないそうです。
 一方で新500円玉の流通は順調ですが、旧500円玉の回収が進まないため混乱は相変わらずであるそうです。新のみ対応、旧のみ対応、新旧両対応の販売機が混在し、消費者に不便を強いています。旧貨の早期回収と新貨への代謝が進むことに期待します。

01.04.21

補足12
#Nに一万円札、五千円札、千円札が一新されます。全国にある銀行系ATMが約15万台だそうですが、全てを新札対応に改造するだけで1500億円の特需になるそうです。中小金融機関では、すでに法定償却期間を過ぎて使っている旧型ATMも多く、これを機会にリプレースする必要があると言われます。メーカーは特需に沸きますが、金融機関としては迷惑な限りでしょう。
 二千円札は、ようやく払い出し可能なATMが増えてきたものの、流通量はサッパリです。五千円札を払い出せないATMも多い中で、随分な無駄を生じました。今度の新札も偽造防止を掲げているものの、良い迷惑になりそうです。いっそATM数の削減を行いたい、という声も聞こえてきます。コンビニATMが増える中で、個別金融機関のATMの役割は縮小しているのでしょうか。
 それよりは千円札を千円玉に変更するとか、五万円札や十万円札を発行するとか、金融機関にもメリットのある施策が重要だと思いますが、今回は単なる更新に終わりそうです。

02.12.31
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