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政治の研究No.102
お金持ち減税、反対!

 自自公連立で圧倒的多数となった与党を率いる小渕首相。今度は、相続税減税なんだそうです。「税金が足りない〜」とぼやきつつ赤字国債ばっかり当てにしている政府・与党が、気前よく減税しようというのですから、そこには必ずウラがありますね。下手をすれば相続税減税と抱き合わせで、何かの税金が増税に成りそうです。もちろん減税が享受できる人と、増税がのし掛かる人は別人ですけど。

 第二次世界大戦に負けた日本は、GHQ進駐によって、平和と平等の国に生まれ変わったはずです。経済は資本主義だけれど、社会は平和平等主義とでも申しましょうか、理想の国に変わったはずなのです。国民主権、農地解放、財閥解体、戦犯の公職追放・・・次々に打ち出された政策のお陰で社会は変わったはずです(こんだけ書くと変なレッテルを貼られるかな)。
 まあ、ともかく。その象徴の一つが、富の再配分でしょうかね。「三代相続すると先祖の財産は消えて無くなる」なんて言ったそうです。でもこの表現は正しくないのですよね。二代目と三代目が遊んでいたら無くなりますが、普通は二代目も三代目も何かしら財産を遺すはずです。すくなくとも先祖伝来の資産があるだけ有利なんですからね。むしろ能力を受け継ぐわけでもない配偶者や子供達が、単に血筋だけで財産を相続できるシステムの方が可笑しいのです。
 だからこそ、高い相続税を取るのです(というとオーバーでしょうね)。親が子に遺せるのは「教養」と「教育」と「常識」だけです。それが正しい意味での財産であります。しかし、何もかも奪うのは酷いでしょう。そこで多い人は多いなりに、少ない人は少ない人なりに、相続の際に控除という枠が与えられているのですね。最高税率である70%が適用されるのは20億円以上ですが、何と控除分とは別に6億円が残るのです。一体、6億円も不就労所得を貰って何が不満だというのでしょう。

 日本で「金持ちは高給取りの人間」だと思われがちですが、あまり正しくありません。年収1億円貰う人は、それなりに経費を使います。飲食だって我々サラリーマン並みで済ませられませんし、衣服も住居もそれなりのものが必要です。交際費も使いますし、ストレス解消にも相応の出費が必要ですね。クリエイティブな仕事なら、なおさらでしょう。役職を私物化して蓄財する不良取締役でもしない限り、手元に残せる金は知れています。
 「本当の金持ちは最初から資産を持っている人間」です。土地が有れば地代が、住宅やビルが有れば賃料が、株が有れば配当が、預金があれば金利が・・・黙っていても入ります。これらの収入は所得税と違って累進制でありません。また資産家は、会計のプロなどを雇って日頃から減税に気を使っています。金さえあれば、法の抜け道も見つけやすいというものです。
 それでは、その金持ちって、どうして金持ちなのでしょうか。農地解放や財閥解体をくぐり抜けて資産を守った人が居ます。戦後の混乱期に闇市で儲けたり、焼け跡の不法占拠で儲けた人もあります。高速道路や新幹線のお陰で屑地が大金に化けた成金もあります。ただ持っていた土地や株が高度成長に伴うインフレやバブルで大化けした人もあります。
 もちろん起業に成功して一代で財を成した人もありますが、それはほんの一握りです。世の中を跋扈しているお金持ちは、偶然にただ乗りしたか、どこかで悪いことに手を染めたか、したはずです(多分に偏見であります)。

 冗談はさておき、高度成長の最中に土地や株式を持っていて一財産成した人がいる一方で、それらを手放して大損した人も居るわけです。闇市にせよ、不法占拠にせよ、農地解放にせよ、得をした人があれば、損をした人もあります。また目には見えませんが、インフレやバブルで膨らんだ財産というのは、勝手に膨らむわけではなく、誰かが膨らませたのです。インフレであれば働いただけ生活が潤うはずが潤わなかった労働者があり、バブルであれば後始末に巨額の税金を使われてしまって怒りに震える納税者があるわけです。仮に起業に成功して一財産成した人でも、現実には自分の労働分以上の財産を得ているはずです。それは労働者や消費者からの搾取という形で・・・。
 そうした労働者や納税者や消費者の立場で考えれば、財産を獲得した本人はともかく、その相続人が引き続き獲得することは好ましくないわけです。現在のところ、資産から税金を大きく巻き上げる手段がない以上、相続税という形で奪って、再配分するしか方法がありません。現実には、相続税として奪った国税が、国民に平等に再配分されていませんが・・・常日頃お金持ちを優遇していることもあり、相続税ぐらいは手数料として徴収しましょう。

 現在のところ、確かに相続税は高いです。しかし、あくまで高いのは最高税率です。4億円以下なら50%ですし、さまざまな控除を組み合わせると・・・実効税率はかなり低いです。国税庁の調べでは、相続税を払う必要があるほどの財産を遺すのは、100人中5〜6人だそうです。しかも税率50%を越すような事例は希だと言います。ですから、最高税率を引き下げたとしても、国庫に入る金額としては大きく変わらないかも知れないようです。
 しかし税率が緩和されれば、確実に血脈だけで莫大な財産を相続する相続人が増えます。金持ちは金持ちというだけで庶民をバカにしますし、彼らが経営能力のないオーナーとして企業にのさばれば、企業に働く労働者には良い迷惑です。それで企業が傾いたら迷惑ですね。
 イギリスには貴族制度が残っていますが、莫大な財産が遺される場合もある一方で、その財産を遺されるのに相応しくない人物は排斥されます。一族が相続を認めても、上流階級が認めないと言うこともあります。上流階級に出入りできない当主など、家の恥に成るわけです。そんな制度がない日本では、金さえあれば尊敬され大事にされます。その金が親から相続しただけの財産で、その財産が労働者や納税者や消費者の血と汗の結晶であるとすれば、やはり許し難いですね。

 高い相続税だと中小企業の後継者が現れない、などと言っています。しかし多くの中小企業は、家を担保に入れ、知人や親戚を連帯保証人にし、身を粉にしてまで働いて事業を支えています。そんな苦労人が多い中で、誰が20億円もの財産を遺しますか? 後継者が現れない最大の理由は、そこまで働いても報われない社会システムにあります。もしも資金繰りなんて些末なことで悩まずに済み、事業だけに専念できれば、相応の財産が残り、後継者も育つでしょう。その意味での後継者は、血族に限りません。事業を嗣ぐにふさわしい人物が嗣げばよいのです。
 小細工は無用です。事業に関する用地・建て屋・資材については相続の対象から外せば良いのです。今時個人所有のままで巨額の事業資産を遺す人は居ないと思いますが・・・農家が農地を相続するのと同じですね。もちろん相続後の転用や転売には要チェックです。厳しい追徴を課しましょう。当然ながら住居や非事業不動産、持ち株などは普通の財産として課税すればよいのです。税率はそのままで良いでしょう。今の提案では、大企業でたくさん給与や退職金を掠めた人間に有利ですから、後継者となりうる人材が大企業へ逃げてしまいますよ。

 断固として、お金持ち減税に反対します! ・・・というのを「経済の研究」風に書けば、第148回中小企業 ≠ ベンチャー」となります。

99.11.03

補足1
 「高い相続税のせいで、住み慣れた家を手放さなくてはいけない」と金持ちは言いました。しかし、住み慣れた家を手放すのは、金持ちに限らないのです。父親が亡くなって社宅を追い出される家族があります。子供だけでは家賃が払えなくて、一軒家からアパート暮らしに移る庶民もあります。むしろ金持ちなら、家を担保にして税金を払うことができます。庶民にはそれさえも望めません。
 住み慣れた家に住み続けられるかどうかは、亡くなった人の財産に因るのでなく、自分の甲斐性に因るべきです。家を担保にした借金を、返済して行くだけの収入が得られない相続人には、その家に住み続ける資格がありません。
 父親の事業を相続できるかどうかは、亡くなった人の財産に因るのでなく、自分の甲斐性に因るべきです。株を担保にした借金を、返済して行くだけの収入が得られない相続人には、その事業を続ける資格がありません。
 世の中とは、そうであるべきです。それは資本主義か、社会主義か、は関係のない話です。

99.11.03

補足2
 読者の方から、すでに住民税や所得税を支払った残りの資産から取得した住宅なのに、相続税で再課税するのは「2重課税ではないか」とご意見を戴きました。
 少し誤解がありましたが、一応返答の要旨を言いますと、相続税は「被相続人の財産を相続人が受け取る際に必要なコスト」であるということです。普通、被相続人の財産は国に返されるのが基本で、被相続人が贈与の意志を遺した場合は贈与税を負担させた上で贈与を認め、被相続人に法定相続人が有った場合は相続税を負担させた上で相続を認めるというスタンスです。国は本来得られるはずだった被相続人の財産を相続税または贈与税で贖うという考えですね(専門家の方からはご批判もあるでしょうけれど)。
 たとえ配偶者や親や子の財産であったとしても、それが共有資産でない以上は当然に贈与または相続が発生するわけです。被相続人が汗水垂らして稼いだ小金でも、企業を私物化して得た悪財でも、同じに適用されるルールでしょう。
 ちなみに配偶者1人子2人の平均的な家庭では、2億円に掛かる相続税が448万円、3億円に掛かる相続税が2,399万円、5億円に掛かる相続税が6,170万円、20億円で4.6億円です。5億円と言えば立派な資産家ですが、それでも実効税率は12%で済みます。加えて住宅の場合、土地は路線価の80%、住宅は取得価額の50%が普通ですから、よほど現金で遺さない限り、実効税率はさらに下がります。

この補足の数値は、渡辺昌昭氏「暮らしの税金早わかり事典」(日本実業出版社)から引用
99.11.04

補足3
 相続税の最高税率を60%へ引き下げる方向で政府税制調査会が調整しているそうです。ただし、どこまで引き下げるかの答申はなく、引き下げる方向の明記に留まったとのことです。自民党の税制調査会は、60%引き下げの方向で動いていたものの、最終的に据え置きの方向で答申する模様です。しかし相続税延納の際の利子税を大幅に引き下げる隠し玉を持ち出し、結果として相続税延滞者に有利な方向へ持ち込んだようです。政府税調の今後の対応が注目されます。
 今回は据え置きの結論でも、再び引き下げ議論が起こるのは必死で、結局は体よく利子税も引き下げられる結果になるのでしょうか。金持ち優遇はどこまで続くのでしょうか。引き下げを公約した首相の面子は潰れますが、それなりにポイントを稼いだという結果でしょうか。
 なお、引き下げの当初の理念はどこにいったものか、最高税率を引き下げても減収額は小さい、今回見送ってもいずれ最高税率は引き下げられる、などと意味不明の税調委員の意見が飛び出しています。。。そんな理由で減税して良いのでしょうか。代替案として海外資産に対する課税を盛り込み不公平を解消するという意見もあるようですが、まず海外へ退避した資産への課税を優先するべきでは?

99.12.18

補足4
 贈与税の大幅引き下げが議論されているそうです。非課税枠60万円という相場が時世に合っていないという話ですが、自民党の500万円とか1,000万円とかいう暴論には賛成できません。確かに贈与税は相続税よりも高い累進に成っていますが、毎年分割して贈与できることを考えれば、必ずしも割高な課税であるとは思えません。
 まして年間1,000万円の贈与が非課税などになれば、金持ちの巨額資産がどんどん生前贈与で移転されてしまいます。被相続人が3人いるとして10年掛けて非課税移転できるのは3億円・・・まるまる相続税制がザルになるのは間違いありません。贈与の場合は血縁の制限もないので、例えば知人10人をトンネルに仕立てて再贈与を受けることにすれば、年間1億円の贈与を受けても非課税と言うことに成ってしまいます。
 仮に非課税枠60万円が時代に合わないとして、今の尺度に合う水準はいくらなのかという議論が必要でしょう。まず枠ありき税率ありきでは始まりません。総選挙前のねこ騙しだと思われますが、本気であるのならストップを掛ける必要がありますね。死亡贈与に限って税率を軽減するという話なら、あっても良いかも知れませんが。

00.05.05

補足5
 首相の諮問機関という位置づけになる政府税制調査会は、贈与税の非課税枠(基礎控除額)の見直し検討は必要とした上で、相続税との整合性を図っていくとの方針を示しています。また1975年以降に急速に引き上げてきた相続税の基礎控除額は引き下げの方向で見直すとしています。被相続人が3人のケースでは、1975年で3,200万円だった基礎控除額が1994年には8,000万円まで拡大しています。配偶者の特例もあることですし、この際に見直して欲しいところです。

00.05.05
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