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政治の研究No.117
ストーカー規制法、成立

 警察不祥事の問題は、ようやく下火に成りました。マスメディアにしては珍しく、息の長い警察バッシングを続けていましたが、ある種のガス抜きの手伝いをしていた感があります。ズルズルと不祥事が明るみに出るよりも、短期に出せるだけ吐き出したというのが真相ではないでしょうか。

 さて、そんな信用失墜中の警察機構に、また新しい武器が手渡されることに成りました。通称、ストーカー規制法です。これまでのストーカー行為は、迷惑防止条例違反で摘発するか、せいぜい職務質問や任意事情聴取を求める程度であったかと思います。ストーカー行為にも色々あり、実害を生じていない段階では「民事不介入の原則」に抵触する危険が大きかったためです。
 しかし、国会は駆け足でストーカー規制法を立法化してしまいました。昨年は通信傍受法児童ポルノ規制法がそれぞれ立法化され、警察は強引かつ主観的な捜査手段を手に入れました。今回のストーカー規制はさらに安直に犯罪者を創り出す危険があります。ストーカー規制法は必要ですが、立法化される過程で必ず問題のすり替え、大義名分による反対派制圧を成し遂げてしまう政府・与党って何なのでしょうか。

 日本では、未だに世間体を気にする体質が色濃く残っています。単なる言いがかりであったとしても、警察に事情聴取を受けるだけで、回復できない不信感を世間に抱かれます。また弁護士の活用が十分でなく(法曹人口が少ないことも一因ですが)、被疑者として取り調べを受ける段階で弁護人の弁護を受けられず、捜査当局の強引な威圧に曝されます。やりもしない犯行の自白、ありもしない犯意の自供、捏造される調書・・・唯一の歯止めが民事不介入だったのですが。
 今回のストーカー規制法は、11月にも施行されます。一応は親告罪(被害者本人による告訴が必要要件)と説明されていましたが、警察による「仮命令」が出せるという危険な部分があります。つまり被害者は特定できないが、被疑者の行為が著しくストーカー行為に類似していると「主観的に」判断した場合、警告を発して公安委員会名での禁止命令が下せるというものです。好ましからざる人物にストーカーのレッテルを安易に貼ることができます
 禁止命令に従わなかった場合、通常のあるいは加重の罰則を加えることができるのですが、捜査当局の在り方が変わらない限り冤罪を生む可能性は否定できません。一応は公安委員会による「聴聞」の機会が与えられていますが、現状の公安委員会の形成スタイルが続く限り、捜査当局の報告を鵜呑みにするのは間違いなく、極めて危険です。公安委員会に代わる公正な中立機関の設立を望みます。

 幸いというべきか、当然と言うべきか、ストーキング(ストーカーの異常な行為)についての定義は法律に盛り込まれました。つきまとい・待ち伏せ、面会や交際の強要、無言電話やいたずらFAXなどとありますが、あくまで例示であり捜査当局による拡大解釈の余地が残されています。また恋愛感情や好悪感情からくる動機を認定することと成っていますが、被疑者の感情を主観的に当局が認定する問題があることや、被害者の証言が全て正しいとされ、被疑者が事実を開陳する機会を封じ込める問題も多々指摘されています。
 またストーキングについては、その行為を禁止または拒絶されるほどにエスカレートする傾向があると言われており、本物のストーカー事件では、警察の介入が事態を悪化させる危険も指摘されています。だからといって、ストーキングと疑わしい初期段階で警察が積極的に介入することも問題があります。警察には犯罪予防の役割があるものの、それは消極的予防であって、積極的予防であってはならないとされています。警察官による職権濫用の無いことを祈ります。

 たしかにストーキングの被害に遭うことは、気味の悪いことです。私も経験がありますが、神経を逆撫でされると申しますか、ザリザリした感触が忍び寄ってくると申しますか、耐え難いものです。しかし私の経験からすれば、加害者当人は単にコミュニケーションの能力が不足しているだけであったり、思いこみの激しい性格であったりするだけかも知れません。同時に被害者側にもコミュニケーション能力が欠如していたり、激しい思いこみがある場合もあります。何でもないことに激しい嫌悪感や拒絶反応を示して、相手を逆上させた事例も多いと聞きます。
 むしろ社会的に、コミュニケーション能力の不足する人間に経験を積ませることや、常識感覚の不足する人間に世間的な常識を理解させることや、犯罪を助長するような映画やゲームの普及に歯止めを掛けること(検閲ではなく、興業者側の理解を得る努力をするべきです)、病んだ精神を回復させる公共カウンセラーを常備することなど、もっと先に行うべきことがあるような気がします。

 ともかく法は法です。成立した以上は、問題点を洗い出し、運用でカバーできるところは運用で補い、改正の必要なところは改正し、濫用を抑止する有効な方策を提案し、無用の民事介入問題を頻発させないよう、我々国民が議論を重ねていくことも必要だと思います。犯罪防止の第一歩は、健全なコミュニティの確立からです。規制法に頼らず、ストーキングそのものが発生しない社会作りを目指しましょう。

00.05.21

補足1
 我々はどうもストーカーの存在や、ストーキングについて大きな誤解を持っているようです。本来はストーキングになる行為をそう認識せず、ストーキングでない行為をそう認識していることがあるようです。知人達と意見交換をして、強く実感しました。我々がストーキングに対する認識を正しく改めなければ、ストーカーを無くしていくこと自体が難しくなりますね。
 ネットを検索していましたら、ダイアモンドアプリコット電話研究所・山崎はるか先生の分かりやすいレポートがありました。ぜひご一読ください。ストーカーの分類や、ストーキングへの正しい対処などが示されています。
 ストーカー概論http://www.nda.co.jp/Stalkers/

00.05.21

補足2
 幸いにも、私自身はまだストーカーと呼ばれたことはありません。クレーマーだとの批判は多いところですが・・・(笑)。他人のフリ見て我がフリを直せと申しますので、世間に誤解を与えないよう努力していこうと思います。

00.05.21

補足3
 「立法化される過程で必ず問題のすり替え、大義名分による反対派制圧を成し遂げ」る点について補足します。近頃は国民の権利を著しく狭めかねない法律が、安易に立法化されているように見えます。一番に多いのが、まず大義名分による反対意見の封じ込めです。
 ストーカー規制法では、ストーカー被害者の救済が大義名分ですが、警察に民事介入の口実を与えたいという政治要求が見え隠れしています。この政治要求が問題のすり替えなのですが、そのすり替えを論点にしようとしても、ストーカー規制に反対する人物というレッテルを貼られるのを怖れて、議論が沸き起こりません。
 同様に児童ポルノ規制法でも、警察による主観的裁量の余地が問題に成りましたが、国会では議論が尽くされませんでした。警察に大幅な裁量権を与えることは危険なことなのです。しかし、立法化を妨害する者は児童ポルノの擁護者というレッテルを貼られて激しい攻撃を受けました。
 政治家が目眩ましを多用するようになったことは危険なことです。我々国民は極力眩まされないように努力をし、かつ陥れられないように日夜自衛の手段を検討する必要があります。しかし、そうした国民のささやかな抵抗も、通信傍受法などで封殺されていくのでしょうかね。住み心地が悪くなりましたね、近頃のニッポン!

00.05.21

補足4
 警察庁の発表によると、法施行の2000年11月24日〜2001年2月28日までの3カ月で検挙・警告・禁止命令を受けた加害者は、274人に達したそうです。対する被害者は278人であったそうです。加害者の91%が男性、被害者の92%が女性ということで、一応当初目的の機能を果たしているようです。
 加害者のうち34人が逮捕、239人が警告処分です。同法適用外として、脅迫罪で42件、傷害罪で35件、不法住居侵入罪で28件、殺人未遂で5件などと成っています。

#Nの一年間のストーカー被害に関する相談は26,062件であり、1999年比の3.3倍に上っています。同法の施行により、積極的に警察に相談するようになったことが大きいということです。従来は、警察官が相談を取り合わない不祥事事件もあったため、全国の警察本部で担当課を新設した効果もあるとのことです。同法が濫用に至らないよう、当面は様子眺めを致しましょう。

01.05.04
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