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政治の研究No.120
改憲議論、大いに為すべし

 選挙シーズンのタブーは、「増税」と「改憲」であるそうです。

 増税は有権者に受けが悪いので、選挙中は減税連呼になります。当選すれば勝手に増税に踏み切るので公約違反も甚だしいですが、それでも毎回同じ議論を繰り返しています。こういうウソツキ候補は落選させたいのですが、その他の候補に有力な選択肢が見当たらないこともママあります。小選挙区制度は、候補者の選択肢を狭める意味でも、中選挙区制度より悪制度です。
 そして改憲ですか。「改憲=第9条改正=戦争への道」と連想されるために、どうしても選挙公約に挙げたがらない候補が多いです。そもそも避けているのが現状で、果たして国会で改憲について議論を行うことまで付託されたと言えるのかどうか、疑問を感じます。今回は、改憲議論がテーマです。

 現行の日本国憲法が施行されたのは、1947年5月3日です。すでに53年という時間が過ぎていますが、この間何も手が入れられていないのは奇異なことです。憲章のようなものであれば別ですが、憲法は最高法規であって国法の根幹ですから、実体に合わない部分は随時手を入れて行くべきものです。
 例えば、プライバシー保護や環境権など新しい国民の権利は憲法に追加されるべきでしょう。また大蔵支配の源泉である予算や、三割自治と揶揄される地方自治など、見直すべきことは沢山あります。三権の中で弱体な司法の権限拡大、宗教の在り方、元首の規定、在日外国人問題・・・数多くの課題があります。
 これら多くの問題や課題は、長い政治の歴史の中で生じてくる時代の要請、制度上の矛盾、諸外国の動静などいくつも条件が根底にあるでしょうか。また憲法制定がGHQ主導で進められたことや突貫であったことも考慮されるべきでしょう。いかに根幹で最高法規であっても、時代に応じて修正されることは必要です。憲法は第96条において、改正を定義しているのですから、議論は当然にされるべきでしょう。

 もちろんながら、第9条の改正も検討する必要があります。日本は本当に永世中立を堅持するのか、しないのか。日本は国軍を持つのか、持たないのか。日本は自衛権のみを保持するのか、一定条件下で対外戦争をするのか。「交戦権」とはどこまでを呼ぶのか。「正義と秩序を基調とする国際平和」とは具体的にどういうものか。これらを明確に記述するべきなのです。
 日本には自衛隊という鬼っ子があります。憲法上は存在しない国軍、憲法上は持たないはずの交戦権、欧米主導で決められる正義と秩序、これらを代表する存在が自衛隊です。今回の省庁改編で防衛省構想もあったようですが、まず存在を憲法で明確にしておくべきです。国軍を持つのであれば、現状の脆弱な文民統制をどうするのか、なし崩しの戦争を防止するシステム構築はどうするのか、適正な命令系統と規模はどう整備するのか、まず議論が必要です。

 とくに野党は憲法改正に強い拒否反応を示しています。護憲を看板にして頑なに会議のテーブルに座ることを拒んでいます。果たしてそれが、日本国民にとって良い行動なのでしょうか? 議論そのものに着手せず、国民を無関心に据え置くことが、果たして正しい民主政治でしょうか。自民党主導の第9条改憲に反対であるのなら、まず野党としての改憲案を提示し、大いに議論を白熱させるべきです。
 国民は、自公保による圧倒的多数の大与党政治を望んではいません。大与党時代が、どれだけ有権者を軽んじる悪政を招いてきたか、古手の国民なら知っていることです。しかし野党が賢明なる有権者の意志を注ぎうる受け皿と成れないのなら、それは大与党へと流れざるを得ません。
 まず論点を生み出すこと、それに野党としての明解な案を提示すること、公明かつ公正に論議する場を設けること、広く有権者の意見を募り反映すること、やるべきことは沢山あります。

 せっかくの21世紀が目前です。そろそろ日本の政治の在り方全てを見直す時期ではないでしょうか。その第一段階として、まず改憲議論を、大いに為して欲しいところです。

00.06.17

補足1
 改憲論議といえば、2000年1月に設置された「衆院憲法調査会」に言及するべきでした。衆議院・参議院に設置された新調査会は新世紀にふさわしい憲法のあり方を議論する場であります。憲法全般を見直すことを目指しているものの、肝心な部分については政党間のほか政党内でも対立や不一致が目立つ模様で、収拾が着いていません。
 争いの少ないテーマから入るのが賢明でしょうが、くれぐれも多くの課題を積み残さないよう、広い視野で改憲論議を展開してほしいところです。今回の衆議院選挙ではあまり改憲をテーマにした候補が目立たなかったようですが・・・。

00.06.24

補足2
 補足1の憲法調査会は、憲法の条文構成に沿った論点整理として、中間報告を出しました。最終報告の目処は設置から5年後のため、あと2年以上先になる見込みです。この中間報告は、国会の委員会や調査会が作成する報告書等の中では、最初に憲法を扱ったものになるとのことです。いかに長い期間、改憲議論を逃げていたか分かります。
 注目の憲法九条については改憲意見が多数を占めたそうです。現時点では、与党自民党に加え、民主党にも賛同者が多いために、改憲を憚る必要が無くなっている状況です。国民世論でも「護憲」を強く訴える勢力は後退しているようです。やや危険を感じるのは、憲法改正の手続要件そのものを緩めたいという意見があることです。国法の根幹であるだけに、安易に多数決で決まるような手続要件は導入すべきでないと思います。
 今後の行方に、注目していきたいと考えています。

02.11.30
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