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政治の研究No.128
消費税率10%の愚かしさ

 「参院選挙で自民党が大勝すれば、消費税率を10%にしよう」という声があるようです。かつて、消費税を5%にアップしたのは、個人消費が回復しつつあった最中でした。景気回復の名目でばらまいた資金以上に国庫を潤したようですが、それでも不況の長期化を招いています。多くの金融機関を破綻に追い込んだ元凶は、この消費税アップにも原因があります。10%アップの議論を始めるだけで、さらなる消費冷え込みが日本経済に加える打撃が大きくなりそうです。

 税率だけで比較すると、日本の消費税が安すぎるという議論も、成り立ちます。しかし、食品や日用品にも高率の消費税が課せられている現状は、低所得者への重税であります。日本という国が、富の偏在のない公平な社会であれば、間接税シフトもやむを得ないと思います。しかし、現実には著しい富の偏在があり、政治は常に富を持つ者を守ってきました。未だに相続税での富裕層の優遇が真剣に議論されています。非課税の無利子国債、課税対象外の有価証券など、先進国と思えない間抜けな政策が上がっています。源泉分離課税の存続、総合課税の先送りも大きな問題です。
 かつて贅沢品に重税を課すという税制がありました。物品税がその代表格ですが、消費税導入とのバーターで機能していません。富の偏在を調整するのが日本国政府の役割であったはずですが、むしろ貧富格差を加速させる役割を担っています。たとえ自由主義経済(?)であっても、「公共の福祉」という題目を掲げている以上は、貧富格差の拡大を防止するべきなのです。

 消費税には、制度的な欠陥が多々あります。一つは、実質的な二重課税です。畜産物や果物などの輸入品には、価格調整の名の下に関税擬きが課せられています。国産米は依然として国費による下支えがあります。ビールやタバコ、ガソリンには高額の税金が課せられています。これらに一律同額の消費税を徴収するのは、明かな二重課税です。調整が必要でしょう。
 未納付金の問題もあります。消費者から預かったはずの消費税が、小売店や飲食店の運転資金に消えてしまい、正しく納付されていません。その金額は年々膨らんでおり、大きな問題になっています。消費税の流用や着服について、明確な罰則規定が無いことが原因です。刑事罰を含めた法整備が必要だと思います。安易な税率アップは、何の問題解決にも成りません。
 さらに不公平な配分の問題があります。国民消費に派生した税金であれば、それは発生地主義を貫くべきです。都市部で集めた消費税を地方部に配分している現状は、明らかに問題です。せめて地方における産業育成や過疎化防止に役立っていれば良いのですが、単なる分け取りに終わっている現状は、意味無しです(人口ン百人の村に、ン十億円の公共施設なんて、必要だと思えません)。国民の税に対するモチベーション低下は著しく、都市部行政のサービス低下が顕在化している現状では、ますます不満が募ります。

 消費税率アップの代償に、消費税を福祉に限定した目的税にしようという議論が繰り返されています。たしか5%アップの時も議論だけされたはずですが、実現していません。現在破綻しつつある年金制度や医療制度に振り向けるのであれば、まだ救いがあります。しかし、公共工事や国防強化が福祉だと言われかねないだけに、心配ですね。。。
 民主党が参院選で圧勝したところで、彼らが消費税アップを否定しない可能性も高いので、頭を抱えてしまいます。まず税金の使われ方を見直して、無駄や不正を排除する自助努力が先決だと思います。公共工事の乱発で経済を下支えしようという、今の国政のあり方を見直す必要がありそうです。

01.03.20

補足1
 第26回政治批判の前に、まず納税」というコラムを書いています。その補足にも記していますが、消費税の滞納額は年々膨らんでいます。1997年度の新規発生分だけで7,250億円であり、累積では2兆円近いそうです。消費税の総額は1997年度決算で51兆円(税率5%)なので、10%にすれば単純計算で100兆円にも成ります。滞納を放置すると、単純計算で年1.5兆円、累積で10兆円を超える日も遠くないかも知れません。
 厳密な消費税額を計算するためのインボイス制度導入を呼びかける声もありますが、これと滞納問題は別で、抜本的な益税防止対策を図ることは欠かせません。加えて、現在の消費税が占める国税全体での割合は約20%です。これを倍にすると政治家が無制限に国税を無駄遣いする懸念が大きく、いろいろ課題が大きいようです。
 ちなみに海外の消費税(類するものを含む)率は、スウェーデン25%、フランス20%など高額ですが、韓国10%、米国NY州8.25%、シンガポール3%などマチマチで、日本だけが安すぎると主張するのも変なのです。

01.06.03

補足2
 政府は、小泉内閣での税制改革において、益税解消を全体とした消費税率の引き上げを示唆しました。免税点制度などにメスを入れることになりますが、過大な滞納に対しては有効打が見つからないようです。
 国税庁では、今年から消費税滞納者に対してパソコンから督促電話を自動で発信(応対は職員が実施)するシステムを導入するそうです。その効果のほどは不明ですが、消費税滞納者の9割以上が500万円未満の滞納であるそうです。諄い督促に対しては、真面目に払おうとする滞納者もいくらか出るかも知れません。「無い袖は振れない」という滞納者も多いと思われますが。。。国税庁が公開した悪質なケースでは、数千万円単位の滞納税額を別法人に移転したり譲渡したりし、休業や経営難を装う確信犯もあるそうで、抜本的な対応策が必要です。

02.06.15

補足3
 政府は、増減税を組み合わせた税制改革を実施します。消費税に関しては、免税点制度や簡易課税制度による益税解消、消費税内税表示の義務づけなどを主眼に置いているようです。
 まず、以前から消費者の不満が大きい免税点制度は、徴収すれども納税せずの不公平が指摘されています。また、売上高2億円未満の事業者を対象とし、売上高の50〜90%(業種による)をみなし仕入額として消費税を算出する簡易課税制度は、粗利の大きい店ほど実質仕入額がみなし仕入額を下回り、納入を免除される益税を生じています。最後の消費税内税表示は、消費者の課税負担意識を薄れさせることが狙いであるようです。オープン価格商品はともかく、書籍やCDなど定価販売商品は消費税率引き上げ時の対応が面倒になりそうです。

 税収不足を解消する見込みが立たない中、さらなる乱費・浪費を目論む政府・与党としては、消費税率の引き上げを既定路線とし、「打出の小槌」による大幅な増税を目論んでいます。

02.12.31
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