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政治の研究No.179
日本民族は、単一民族?(2)

 前回からの続きです。本コラムだけを読んでのご意見は、無用に願います。

 観光資源としての「琉球」はありますが、琉球人という言い方も、すでに過去のものです。独自の伝統文化を守っていこうという人々は当然に多いですが、「我々は琉球人であって、日本人でない」という人は多いでしょうか? 個人レベルで主張することはあっても、部族レベルで主張するとは聞きません。逆に、「彼ら琉球人は、日本人でない」という部族があるとも聞きません(当人でなく他人が言うのは、一種の差別であり、危険な考え方だと思います)。
 同じく、観光資源としての「アイヌ」はありますが、自らアイヌであることを主張し日本への帰属を拒むアイヌ部族があるとは聞きません。そもそもアイヌも歴史的には混血を重ね、関東や東北に盤踞した「蝦夷民」の多くが今の日本人のルーツを形成しています。いわゆる日本人とアイヌとの種族的な違いはそもそも小さく、日本人でないとする意義は少ないように思います。逆に、「彼らアイヌは、日本人でない」という部族があるとも聞きません。

 少し論理が飛躍しましたが、「共通の出自・言語・宗教・生活様式・居住地などをもつ」の要件を考えましょう。実は「民族」に関する解釈では、様々な違いがあると言われます。とくに「共通の出自」について、種族的な考え方を採用すると、上記した前提が崩れます。つまり、民族の捉え方が大きく違ってきます。
 多くの種族は混血が進んだために、古来からの純血種族というのは希少価値が出るほどです。例えば、日本には大陸北方系、大陸南方系、南洋系の異なる種族が流入して、混血を繰り返しました。もはや種族で分類したところで意味がありません。その度合いに違いはありますが、いわゆる漢民族も韓民族も、同様の混血を繰り返しています。モンゴロイドに代表されるモンゴル民族も、北方系・南方系・西方系で種族が異なったと言われます。モンゴル帝国の誕生により、種族の混在化と文化の画一化が進み、同族化が進んだようです。
 混血することにより両種族を取り込んだ新しい「民族」が産まれると考える方が、現実的だと思います。その民族を形成する各種族の長所が取り込まれ、新たな種族が誕生するという考えでも良いと思います。その新たな種族性が「共通の出自」であると考えれば、上記した前提から外れません。

 つまり、日本民族を「日本列島に移住してきた諸種族のうち、言語・宗教・生活様式・居住地を共有するようになった集団」と定義するならば、すでに単一民族と成り得たと思います。これが、今回の結論です。


 ただし、ここで一言。今回のコラムは、あくまで民族論です。マイノリティの存在を否定するものでは、ありません。日本国内には、在日外国人も大勢あります。日本国籍の取得の有無を問わず、多くの外国人が暮らしています。しかし、日本国家の中において、その社会的規範に沿った生活をする限りにおいては、それは異分子ではありません。ただ、彼らの存在を含めて、日本は複数民族国家だと主張するのは変ですので、除外しております。
 また、そもそも民族という捉え方をするのは、その集団を社会的にどう捉えるかを考えるための便法です。その便法により、人間的に差別や区別を加えるためのものでは無いはずです。よって、国民性などを論じるに当たっては、マイノリティを除外して論じることは許されるでしょうし、個人又は少数人が相容れないとしても、そこを考慮する必要性は無いと考えます。
 もし仮に、日本に「琉球人」や「アイヌ」や「関東に住む人」や「九州に住む人」が別々の民族であって、日本も複数民族国家であると結論づけたとしましょう。そしてその結論を、世界の国々に声高に主張してみたら、大恥を掻くのではないでしょうか。「おまえ達は、本当の複数民族国家の難しさを理解しているのか? 平和ボケ日本人!!」と言われるのではないかと・・。

03.04.12

補足1
 最近の主な民族間・部族間対立の事件を、参考までに列記しておきます。これと同等規模の民族間・部族間対立が日本で発生する懸念があるのであれば、上記した読者の方のご意見も真剣に考える必要があります。

 パレスチナ問題(1948年)、スリランカ紛争(1956年)、キプロス紛争(1963年)、北アイルランド独立運動(1969年)、東ティモール独立運動(1975年)、カナダ・ケベック州独立運動(1976年)、ニューカレドニア独立運動(1979年)、ペルー反政府運動(1980年)、クルド民族紛争(1983年)、チベット独立運動(1987年)、ブルンジ民族紛争(1988年)、ミャンマー反政府運動(1988年)、コソボ紛争(1988年)、ルワンダ内戦(1989年)、ボスニア・ヘルチェゴビナ紛争(1991年)、マケドニア問題(1991年)、メキシコ先住民問題(1994年)
※括弧年は問題が表面化した時期。すでに終息を見た紛争も含む。
※出典は、集英社「imidas2000」。近年の情報は、追って追加します。

03.03.19
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