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経済の研究No.05
倒 産 の 分 類

#Nの相次ぐ上場企業倒産は京樽から始まりました。その後建設会社の倒産が相次ぎ、ヤオハン、三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券、徳陽シティ銀行と大型倒産のオンパレードに成りました。ところが消滅した会社というのは意外に少ないのです。まず山一証券は自主廃業ということで社員の解雇まで行いましたが、北海道拓殖銀行と徳陽シティ銀行は従業員と店舗、健全資産の大半を競合他社へ譲渡して存続することと決まりました。またそれ以外の企業はいずれも存続し営業を続けています。
 この事実を分析する前に倒産の分類をしておきましょう。

1.破産倒産(不渡り倒産)
 本当の意味での倒産を言います。客観的には手形や小切手の当座引き落としが二度不渡り(残高不足により支払われないこと)を出して銀行取引停止処分となった時点を指します。不渡りの発生は全ての金融機関に通知されるため、新たな資金調達が事実上停止します。現金決済を続ける限り営業の継続は可能ですが、期限未到来の小切手や手形を保持する債権者からも取り付け騒ぎが起きるため、会社の再建はまず不可能です。資金はあるものの不渡りを出した場合は事故不渡りとして扱い、破産倒産とならないこともあります。

2.自己破産申請
 自己破産は破産倒産の一種ですが、先手を打って裁判所に破産を申請する方法です。企業の場合はギリギリまで資金繰りに奔走するのが一般的でしたが、最近では金融機関に早々と追加融資を打ち切りを宣言されるなどで、自己破産を申し出る例が多いようです。これまでは和議申請や会社更生法適用申請などもありましたが、全く事業継続の見通しが成り立たない場合は、自己破産するしかありません。破産法に基づいた手続が行われますが、資産整理を行った結果が「資産超過」であれば、私的整理(補足を参照)に切り替えられます。また自己破産の決定が出るまでは、申請を取り消して会社更生法の適用申請等に切り替えることも認められています。

3.和議申請(強制和議)
 正確には、倒産でありません。著しい金利負担や資金ショートの発生による倒産を回避するために、あらゆる債務の元金支払いを停止し、債権者に和議に応じるよう求めることを言います。裁判所が和議法に基づいた手続で調停を行います。企業側は金利減免や支払猶予などの和議案を提示しますが、債権者側の理解が得られない場合は、そのまま破産倒産となります。和議が認められる場合は、経営陣は留任できる確率が高いため、現経営陣が生き残りを賭けて申請することも少なくありません。そのために和議案を債権者が呑まないケースも多いのです。(和議成立には債権者の1/2以上、債権額の3/4以上の同意が必要です。)

4.会社更生法適用申請
 最近の大型企業倒産で一番に使われる手法です。裁判所が会社更生法に基づいた手続で適用申請の審査を行います。債権の減免や元利支払いの凍結などを行い、本業での営業継続により利益を上げ、その利益から20年や30年という長いスパンでの債務の分割返済などを行うことを目的としています。とりあえず従業員の雇用と関係会社の連鎖倒産をくい止める効果があり、支援金融機関や後援企業を得ることができれば、比較的会社再建も容易であります。しかし適用申請が認められなければ、破産倒産となります。

5.自主廃業
 手持ち資産を全て処分し、それをもって債務返済を行い、企業を全て消滅させることを言います。残り資産は出資者に比例配分することが原則ですが、従業員の雇用維持対策として、営業譲渡先などに残り資産を譲渡することもあります。本来は経営陣が出資者の意志に反した行動を取ることになるので、株式会社ではあり得るべきでないことですが、斜陽産業などにおいて事業展開が困難な場合に多く用いられています。原則として解散総会による解散決議が必要であります。なお、手持ち資産を全て処分しても債務返済が不可能な場合は、自主廃業は認められずに破産倒産となります。
#N11月の山一証券倒産では、大蔵省の意向で自主廃業に持ち込まれました。簿外債務を自己資産で処理できない場合は、自主廃業が行き詰まる可能性もあります。

6.会社清算(特別清算、商法整理)
 倒産ではありませんが、会社が消滅する意味で倒産に近いです。親会社が子会社を整理する場合に使われる手法でもあります。子会社の営業権を全て譲渡した上で、手持ち資産を使って債務を処理し、残り債務を営業権譲渡先に移管するか、親会社から資金譲渡を受けて清算します。親会社などは子会社整理損を早期に確定させることができ、損金処理をすることで法人税の支払い軽減を図ることができます。商法整理は、会社を継続させることができる再建型の変形でもあります。

 倒産企業が株式会社であった場合、株主は一番に割を喰う存在です。債務返済には優先順位があり、従業員の給与、有担保債務、無担保一般債務、無担保社債の順に返済されるためです。会社更生法適用や和議成立の場合、無担保債務や無担保社債の一部が削減される可能性があり、この場合は株主資本も削られるものの減資となって出資金の一部が残される余地もあります。したがって、株主には優先的にディスクローズを受ける権利がありますが、日本企業ではまだまだ遅れています。
 ただし大蔵省が相次ぐ金融機関の破綻に対して、第三者への無償資産譲渡などを繰り返しており、徳陽シティ銀行や北海道拓殖銀行の清算に当たっては、受け皿機関が丸儲けし、血税を支払う国民と株主が大きな割を喰うような事態を生んでいます。ともあれ、実質的なオーナーである株主の意向を無視する大蔵省の手法は極めて独善的であり、資本主義の見地からも許されません。しかし経営陣は大蔵省の命令を絶対とし、背任罪に問われないことと引き替えに超法規的処置に従っているのが現状です。不透明な行政指導と、株主軽視の実状を改善すべきでしょう。

98.02.10

補足1
 会社整理(つまり破綻会社の処理)は、私的整理法的整理があります。本文では法的整理について述べていますが、私的整理について補足します。当然ながら私的整理は倒産ではありません。債権者と債務者が話し合って再建に取り組むことを「内整理」、完全に清算することを「任意整理」と呼んでいます。当然ながら裁判所は介入しませんから、場合によってはトラブルの種になることもあります。上記「内整理」は広義の和議に含まれますので、一般に裁判所が介入する和議を強制和議と呼んで区別をします。

補足2
 自主廃業は実際のところ私的整理と法的整理の中間に位置します。形としては特別清算に入りますが、自主的な整理なので任意整理でもあります。ただ債務者が勝手に清算を決意した点で特別清算に近いのですが、お分かりのように不透明な処理なのです。

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