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経済の研究No.67
売り手口 と 買い手口

 株式の売買で注意することはたくさんありますが、その一つに手口があります。株価は原則として企業の業績を映すと言いますが、正確には将来の業績を映していると言います。これから業績が悪化すると思われる企業銘柄は売り叩かれ、回復すると見られた企業銘柄は買い集められます。そして我々シロウトには分からない情報も基にして株価は上下していますが、その情報は真偽の怪しいモノでいっぱいです。その情報自身が掴めなくても、何らかの情報が流れているかどうか、その情報に市場が注目しているかどうか、手口を見れば分かります。
 手口とは「株式の売り手・買い手に関する情報の総称」です。誰が(証券会社)いつに(時刻)何を(銘柄)どれだけ(数量)どうしたか(売った・買った)という情報です。昔なら証券取引所の伝票をかき集めるでしょうが、今はコンピュータ取引が主流ですから、ディーラーの端末に一発で表示できます。現在時刻の売買指し値の一覧と現在時刻までに取り引きされた証券会社別の取引数量が多いモノから順に表示されます。これを手掛かりにして、様々な情報を引き出せばシロウトにも相場の動きが掴めるようになります。証券会社の窓口でお願いすれば、電話かファクシミリで手口情報を教えてくれるはずです。一度試してみられると良いでしょう。

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 当該銘柄の売買数量が平常数量(四季報などに月平均や変動グラフが掲載されています)よりも多ければ、その銘柄は何かの理由で注目されているはずです。前日の夕刊、当日の朝刊、当日の夕刊初刷りなど各新聞に掲載されている情報、市場内の噂などが要因となっているはずです。その場合は手口の売り手・買い手の証券会社に注目してみましょう。
 特定の証券会社が大口の売りと買いに現れていればクロス取引の可能性が高く、自己売買なら利益・損失の確定売買で、仲介売買なら一方の大口株主の持株を他方の機関投資家へ株式移転を行った売買だと成ります(この場合は一過性のモノで心配はありません)。特定の証券会社が毎日継続的に 買っている場合は、ファンドへの銘柄組み入れの場合もありますが、何らかの情報を掴んでいる可能性があります。大手証券の大口買いならたぶん買っても大丈夫です。逆に継続的に売っている場合は注意が必要です。一過性の場合もありますが大抵は企業業績の下方修正などが出る可能性があります(外資系証券の場合は要注意です)。売りも買いも手口がバラバラであれば大きく株価が変動しない限り、双方とも個別の思惑で動いているだけなので問題は少ないかと思います。

 とはいえ、手口は誰にでも分かるものです。何かを仕掛けようとすれば目眩ましを使うのも常套手段です。一つの証券会社を使ってバレそうなときは複数の証券会社を使ったり、日頃は取引のない証券会社を使ったりします。とくに持合株式の放出は露骨にすると株価に影響するので、外資系証券などを使っていました(これを黒い目の外人と呼んでいます。外人で目の黒い人もいますが、つまり日本人が外人を装うという意味です)。一般論として外資系証券は口が堅く、どんなことがあっても取引情報を漏らすことはありませんが、国内証券の場合は結構漏れてきます。社内での風通しが良すぎるものか社員間での情報交換を通して外部に情報が漏れてきているようです(だからといって窓口担当者に訊いて教えてくれるわけではありませんが)。

 また仕手筋の動きも手口を見れば分かります。銘柄は限定されますが、仕手系機関投資家が動き始めますと関係の深い証券会社の名前が頻繁に見え始めます。おそらく担保か情報提供の便宜を図ってくれるためか中小証券会社を使っているようですが、「仕手筋が動いているぞ」と投資家たちに知らせる狙いもあるのかも知れません。
 仕手筋の絡んだ銘柄は値動きが粗く、場合によっては多額の利益を短期間に得ることが可能ですが、ふいに値崩れが起きることがあって大やけどを負うことが少なくありません。また監督当局の規制(信用規制や数量規制)が入ることも多いのが特徴です。手を出す場合は売値を予め決めておいて高値を狙わないこと、大崩れしたときに難平できる資金を手元に確保しておくこと、でしょうか。一時期は沈静化していましたが、最近また同じ銘柄を使って活動を始めているようです。

 最後にいわゆるボードの話をしましょう。手口には取引が成立した情報の他に、現在の指し値情報も掲載されています。この指し値情報は昔風の言い方でボードとか板(いた)とか呼んでいます。これを見れば売り株数と買い株数のどちらが多いのか、それは大口なのか小口の集合体なのか、成行取引が多いか少ないか、などが分かります。
 毎日眺めていますと、同じ指し値で頑固に動かない注文、ジリジリ値を上げている買い注文、ジリジリ値を下げている売り注文、攻防ラインを示すような桁外れに多い買い注文などなど楽しい動きが見えてきます。さらに威圧的な引け成り注文などもあり、売買成立前に消えてしまうお化け注文などもあります。虚実を織り込んだ駆け引きを楽しんでみて下さい。

98.10.15

補足1
 個人投資家にとって、株式投資はギャンブルです。ギャンブルには入念な情報収集と分析が必要です。有価証券報告書四季報会社情報株価チャート表を購入し、さらに経済誌を読みましょう。そして生きた情報である手口を手に入れましょう。短波放送でもある程度の情報を得ることができます。短波放送では寄り付き前の売買注文状況や、大口注文(目安として10万株ですが、毎日の取引高や銘柄の時価総額により変動します)の数量と証券会社名がアナウンスされます。

98.10.15
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