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経済の研究No.68
債務超過は破綻ではない

 近頃の一般紙の報道には首を傾げたくなる内容が多いです。こんなに次々に不況不況を連呼してどんなメリットがあるのか、東証の株安や地価下落を喜んで記事を書いているが本当にそれで良いのでしょうか。株をやっている人間は金持ち、地価が下がれば家が買いやすくなるじゃないか、とでも考えているのでしょうか。株式は庶民だって持っていますし、住宅地の地価が下がれば担保割れする住宅ローンが気掛かりになります。
 事実を報道するのは良いのですが、無意味に特集記事を組んで不況を呼び込むのは止めて欲しいです。それ以上に大衆紙やゴシップ紙、それに週刊誌もですね。経済危機を書いて売れているのは、読者が記事を歓迎しているのではなく、誰もが不安心理を煽られ過ぎているから、ということに早く気付いて欲しいです(重複になりましたが、政治の研究第28回を参照してください)。

 最近気掛かりなものに「邦銀大手19行のうち9〜10行が債務超過である」とする報道があります。これは「灰色債権である第二分類の引当てを40%にしたら」、「現在の保有株式を時価で全部売却したら」という前提での話です。現在の第二分類債権への引当ては多くても5%と言われています。それを8倍も積み増すことが大変であることは言うまでもないでしょう。
 しかし引当金が40%も必要だという議論は、外資系アナリストが「日本の第二分類債権は40〜60%が実質破綻債権である」と決め込んでの話で、資金繰りに行き詰まる融資先が急増すれば見込み通りでしょうが、この不況を乗り越えれば第一分類に復活する融資先も少なくないと言われています。下手に引当金を積み増したりするよりも、貸し渋りを回避して潤沢な資金を市場に供給するべきなのです。
 また保有株式の全放出など論外で、そんなことをすれば日本市場のみならず世界中の株式市場が破綻してしまうでしょう。あくまで評価損が多いだけで、そうなった原因は外資系アナリストの身勝手なコメントにもあるわけですから語るに落ちるでしょう。彼らの言う債務超過は現在の不況が長続きした場合の話に過ぎず、不況から脱却すると自分達の存在価値を問われるために悲観論を展開しているものと見ています。もう少し建設的な分析や提案をして欲しいものです。一般紙もアナリストの話に惑わされず、地に足の着いた前向きな議論をしてください。経済誌は概ね良識のあるレベルで議論されているようです。

 本当に債務超過であるかどうかは、清算してみないと分かりません。仮に債務超過であるとしても、それが即座に破綻であるとは言えません。要するに今後債務超過から抜け出せるかどうかが問題ではないでしょうか。いつもの繰り言ですが、運用効率の悪い資産を処分して資金を確保し、その資金を元手にして運用効率を高めること、高すぎる人件費ほか運用コストを削減して体力強化を図ることが必要です。運用効率の悪い資産を処分する際の負担が大きいのであれば、公的資金の注入(正しくは政府による出資ですね)も良いですし、債務超過さえ容認すれば低利の日銀特融でも良いはずです。個人的には金利負担の大きい前者よりも、負担の小さい後者の方が望ましいと考えています。
 ただ現状での公的資金の注入はダメです。注入した分が取締役以下の高水準賃金の補填や退職金に化けたり、政治案件の処理に使われたりする危険があるためです。注入する以上は、人件費削減や、不採算業務からの撤退(店舗閉鎖も含む)、関連会社などに隠した焦付き債権の開示義務づけと、それに違約した場合に刑事責任を問うことと、私財の全額提供を行わせることが必要です。
 第65回ジャパンスタンダード」の補足にありますように、誓約書を全役員から取らなくてはいけませんね。誓約書の提出を拒む役員は解任させ、銀行ぐるみで応じない場合は金融監督庁の権限で業務停止もしくは強制清算を命じる強権発動も必要でしょう。成し崩しで資金を注入しても際限なく必要になるばかりですから、負の連鎖を断ち切るために30兆円でも100兆円でも注入するべきです。さらに言えば、銀行による企業支配などは時代錯誤も良いところです。銀行保有の全株式を担保に抑えておくことも必要かも知れません。
 いまだに危機意識を感じていない銀行頭取や役員たちはどうかしています。余程の切り札を持っていると信じているのか、生来の楽天家で国の救援を当てにしているのか知りませんが、エリート意識を捨て、ここまで経済を悪化させた自分達の身勝手さを得心し、行内の膿を吐き出す努力をして欲しいと思います。あと数年で退職して、退職金を手にできるご身分であるのは分かりますが、その退職金が危なくなっている以上は真剣に考えていただきたい。ご自分達の手に余るようなら退任した役員達の責任も問うて資金を回収してみてはどうでしょう。

 話が脱線しました。債務超過は破綻ではありませんが、高収益体質に変わることができなければ遠からず破綻します。これからは預金者による銀行の差別化も進むでしょう。インターバンク取引(銀行間で資金や通貨を相互融通する取引。デリバティブ取引も含む)も一層厳しさを増すでしょう。そうなってしまえば、いくら日銀特融で支えようにも意味が無くなります。銀行を国有化したところで優良顧客は他行へ逃げ、不良顧客のみが留まることになり、再生どころの話ではないでしょう。第二、第三の国鉄清算事業団に成るばかりの話です。この崖っぷちにおいて懸念材料を一掃し信用を回復することが必要急務です。この機会を逃すと破綻を回避するチャンスは永久に訪れないでしょう。

98.10.16

補足1
 さくら銀行の知り合いから聞いた話です。同行では人件費の圧縮のために、窓口業務の女性行員を派遣に置き換えているそうです。新規採用は抑制し、派遣子会社に転籍させられる行員もあると言いますし、出産のため退職した社員を再雇用するなどでコスト削減に取り組んでいるそうです。また制服を止めて私服勤務を認めることで固定費の削減にも務めていると聞いています。しかし男性行員は諸手当を削られているものの、ベースは削られていないそうです。相談役や顧問は削減されたそうですが役員が節制に務めているとも聞こえてこないとか言っています。リストラは弱いところだけに実施しているのですね。

98.10.16

補足2
 住友銀行は全支店を対象に個人客取引と法人取引を分離するのだそうです。窓口を個人取引(いわゆるリテール業務)に特化することできめ細かなサービスに対応するとともに、窓口運用の効率化を図るのだそうです。法人取引(いわゆるホールセール業務)は支店の二階など空中店舗に集約特化し対応を迅速にすると共にエキスパートにより顧客選別を進める狙いもあるようです。

98.10.16

補足3
 貸し渋りを止めさせるには自己資本比率を10%まで高めてやれば良いという議論が出ています。東海銀9.8%、興銀9.7%、東洋信託9.6%、三菱信託9.2%、三和銀9.1%は別格ですが、長銀を除く大手18行に全て注入しても12兆円で済むのだそうです。拓銀処理に要した費用は2兆円以上でした。これですっきりするのなら安いものだと考えるのは私だけでしょうか? でも隠している不安材料はいっぱいあるのでしょうね。それに株式評価損は株式市況が好転するまでは抱えたままでしょうし、公的資金で一息ついたなら手持ち資産の整理などは考えも及ばないのでしょうね。

98.10.16
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