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経済の研究No.154
商工ローンを潰すな!

 商工ローンの問題は、第147回商工ローンだけが悪者か?」を書きました。時期的に出遅れたことと、タイトル的に受け入れがたいことから、債務者や保証人の方々からのアクセスは少なかったようです。現在までに補足が15個に成りましたので、少し観点を整理して書いてみたいと思います。

■ 訴訟の行方
 もう1年以上も前から社会問題化していながら、高株価を背景に躍進を続けてきた日栄と商工ファンドですが、未だに組織としての違法性を示されないままに、経営危機に貧しています。これまでに公開された、融資・回収の手口から見ると行儀の悪い企業だということは分かるのですが、なぜ警察の手入れが入るまで、こんな会社が上場企業で在り続けられたのか疑問を感じます。
 訴訟に関しては、専ら日栄と商工ファンドが攻めて、判決がこれに荷担する判例が多かったようです。しかしここ数か月の訴訟では、全く逆転しています。読者のご意見として紹介しましたように、商工ローンの法務管理は結構しっかりしていました。現在社会問題化しているのは、その強引な回収手法の一点に集約されるはずです。
 しかし最近の判例では、アンチ商工ローンの姿勢が明確になり、担保手形の差し替え融資は一本貸しと認定するだとか、訴訟継続中の手形の取立禁止を仮処分だとか、グレーゾーン部分の金利の一方的カットだとか、強引な判決が目立ちます。これらの判決は過去の判例に照らしたモノでなく、いかに地裁レベルの判決であるとしても、世論の尻馬に乗りすぎた感があります。
 また大阪高裁などが和解による強引なねじ伏せを行っている、とも報道されています。一旦和解させれば裁判所の判断責任が回避されるため、訴訟継続の不利を説いて、債務者に有利な和解をさせているようです。加えて、近頃は慰謝料を請求する訴訟が相次いでいますが、実際のところどれだけの精神的損害を受けたかの認定が難しいはずですが、これが通り始めると日栄は吹き飛ぶことでしょう。
 ブームに乗った安易な判決を連発するのではなく、とりあえず典型的な事件を最高裁で取り上げて、大法廷でこれまでの判例を一括否定するのが先決でしょう。返済をきちんと履行しない債務者や連帯保証人が慰謝料を受け取り、手形の支払いを免除され、これまで認められた債権が消えて無くなるような判決は、日本の企業間信用を崩壊させかねません。

■ 金融当局と銀行の責任は?
 上述のレポートで書いたのですが、結局金融当局も、商工ローンへ融資していた銀行も、責任を問われていません。
 これまで腹立たしいほど弱腰で、合法な商取引をしているからと放任していた金融監督庁。司直の手が入るや、アッという間に規制に動いて正義の味方を気取っています。同様に付け届けを受けていた議員も多いはずの国会でも、道義的責任とやらで責任追及の喚問を行っています。社会問題化するまで放置していた自らの責任を問われないように、徹底的な責任転嫁を行っている感があります。
 また貸金業界にも圧力を加えたようで、日栄の松田社長を全国貸金業協会連合会の会長職から引きずり下ろし、貸金業法の改正案を自主的に纏めて提出するなど、「良い子ちゃん」を演じています。たしかに不当な高利を得ていたことは正しくなく、当HPでも批判していたことですが、業界自ら態度を豹変させるのもいかがなものでしょうか。胴元である銀行や、金融当局や、政治家の圧力があったものでしょうね。
 そして銀行です。たしかに苛められすぎた面はあります。彼らはある意味で真っ当な融資をしていたわけで、それを批判するのも決して良い筋ではありませんでした。しかし銀行が批判されるべきは、商工ローンに融資していたことではないのです。自ら零細な商工業者への融資を打ち切ってきたことを批判されるべきなのです。銀行が自己本位な貸し渋りを行ったからこそ、商工ローンに喘ぐ商工業者が増えたのです。
 信託銀行協会は、唐突に商工ローンとの絶縁宣言とも取れる声明を出し、新規融資の打ち切りを発表しました。普通銀行に比べると信託銀行の関与が深かったことに危機感を持ったのでしょうが、商工ローンのどこが融資に不適切だと言うのでしょう。また商工ローンへの融資打ち切りは良いとしても、信託銀行自ら商工業者救済に動くわけでも無いですよね。
 メーンと目された第一勧銀も、世論に押し切られる形です。最後まで融資を続けていればババを引きかねないため、もう中腰であるようです。金融当局による圧力も強まっている様子で、これからの動向が注目されます。このまま日栄や商工ファンドを潰してしまって大丈夫なのでしょうか?

■ だれが商工業者を支えるか?
 日栄と商工ファンドは、商工ローン専業(定義は第147回の補足14を参照)のなかでも超大手です。融資残高で中堅以下を大きく引き離しています。仮にこの2社が自己破産したり、一定期間の業務停止を受けた場合、多数の商工業者がパンクすることは間違いありません。商工ローン幹部の話として、ざっと8万社が商工ローンの顧客であるそうです。そのうち6〜7万社が専業2社の顧客です。
 このうち資金的に行き詰まっていて「破綻予備軍」であるのが約半数だそうで、3万社ぐらいが遠からず破綻するのでしょう。この予備軍は、おそらく金利が大幅に切り下げられても破綻します。これまでは、高金利を課していたので、多少の破綻リスクを被っても商工ローンは利益が出ていました。仮に15%前後の金利で融資すると成れば、こんな多数の破綻予備軍を抱えることはできません。これからも増えてくる破綻予備軍を救う貸金業者は不在になります。破綻予備軍とすれば、最後の砦に当たる商工ローンがなくなることは、起死回生の見込みを失うことでもあります。
 エコノミストのコメントでは、「破綻予備軍の経営破綻は止むなし」という論調です。しかし、残る5万社近くはどうなるでしょう。残る貸金業者も低利融資では零細業者相手の旨味がありません。これから相次いで手を引く可能性があります。担保や保証人の取り方にしても、日栄や商工ファンドの訴訟が一巡しないと難しいです。いつ自分が被告になるか、全く分かりませんから。とするならば、当面の資金繰りさえあれば救われる5万社も破綻します。当然ながら5万社もの企業間信用が崩壊すれば、連鎖倒産も含めて、少なく見積もっても10万社は消えて無くなるでしょう
 起業だ、ベンチャーだという気風も吹き飛ぶのは間違いありません。信用保証制度を活用して延命処置を受けている中小企業も粉砕されることでしょう。政府保証の30兆円は焦げ付き、そのまま巨大な不況・・・と成るでしょう。本気で専業2社を潰すのであれば、まず5万社の受け皿を作る必要があります。同時に3万社の破綻予備軍を紛れ込ませないファイアーウォールも必要です。受け皿の議論なしに、専業2社を追いつめることは禁物です。

■ 政府で支えては行けない
 今年ほどモラルハザードに関する議論が盛り上がったことはありません。しかし政府は長銀の外資売却を含め、不透明な銀行救済をしてきました。間接的にゼネコンや流通を救い、中小企業も支えたことになりますが、明かな市場経済の否定です。とりあえず専業2社への行政処分は来年に持ち越しました。しかしクロ判定を下すのは間違いないでしょう。これに銀行の融資引き揚げと訴訟集中が追い打ちを掛ければ、少なくとも日栄は破綻します。
 商工ファンドも、長年積み上げてきた法務テクを否定され始め、高い回収率を誇ってきたノウハウも無用の長物になりそうです。外資の資金引き揚げも噂されていますし、日栄の道連れになる可能性が高そうです。さくら銀行や三和銀行が消費者金融業への参入を打ち出しましたが、彼らが商工ローンの受け皿には成れません。在来の貸金業者には受け皿になる資金さえありません。金利の旨味を削られた外資が、積極的に参入する可能性も、望み薄です。
 では、政府が公的資金で救済しますか? それはダメです。商工ローンで資金調達しているような企業の多くは、何かしら企業経営に問題を抱えています。企業努力の不足、経営理念の欠如、放漫経営、取引関係の縮小・破綻・・・そんな企業を纏めて救済することは、今の信用保証制度に輪を掛けて、企業間信用の不安を煽るだけです。これだけは絶対にしてはいけないことです。喩え、政治家にとって最大の票田に成る可能性が高いとしてもです。

■ 経営陣入れ換えで対応
 できることは専業2社を一種の公的管理に移管することです。日栄の松田社長、商工ファンドの大島社長を退任させ、財界関係から有力な人物を経営陣に送り込むことです。大手消費者金融から人材を迎えても良いでしょう。とりあえず融資はそのまま継続し、新規融資には制限を設け、金利も適正な水準に引き下げることです。
 しかし、問題は残っています。今回強引な取立が問題になりましたが、これが最大の問題です。読者の方はお気づきだと思いますが、多くの債務者はマジメに返済を続けてきましたし、今でも続けています。中には破綻して連帯保証人に尻を拭わせた債務者もあります。厳しい取立にあったと訴訟を提起している債務者は、どちらかというと質の悪い債務者が多いです。金利に関しては、高利と知って借りています。融通手形と知って自己手形を切っています。元利の返済に応じないから厳しい取立に合っています。それでいて破綻するでもない。しかも訴訟提起で延命を図っています。
 全てがそうだとは言えません。しかし今の泡沫訴訟の多くは確信犯的な債務者が多いはずです。たとえ金利の引き下げが実現したとして、確信犯的な債務者は返済に応じないでしょう。専業2社を実質的に公的管理下に置いたとして、誰かが取立をしないと始まりません。金利を引き下げた上に確信犯が増えると、貸金業は成り立ちません。審査の段階で撥ねることも難しい以上、どうするか考える必要があります。
 また、貸金業界全体もこれからピンチです。日栄の問題では大きくクローズアップされていませんが、厳しい取立回収に励んでいたのは、日栄本体でないのです。あくまで別法人の日本信用保証です。日本信用保証の回収方法が不味かったとして、日栄が行政処分を受けるのは問題でしょう? なぜなら、現在立ち上げ中のサービサーとは日本信用保証そのものだからです。せっかくサービサーに売却した不良債権が回収できないとすれば、貸金業の未来は暗いモノになりそうです。
 だからこそ、貸金業界の雄である大手消費者金融が、専業2社に乗り込んで上手く立ち回る必要があるのです。手に負えないようなら、専業2社の企業分割など大胆な方法を採用しても良いでしょう。懲罰的意味合いも加わりますから、理解は得られやすいかも知れません。世論や金融当局や銀行に任せておくことは業界の危機ですよ。

■ むすび
 以上、勢いで書いてしまいました。結論だけ確認すると、松田社長や大島社長個人はどうあれ、専業2社を潰しては行けません。当然ながら、商工ローンという業態も残さなくてはダメです。そして商工ローンを健全な業態に転換することです。必須の条件は、その主導権は業界としての貸金業界が握ることです。貸金業界にとっても重大な転機に成るだけに、冷静な判断と積極果敢な対応を期待しています。
 合わせて、金融当局と銀行の責任をクローズアップしましょう。このまま手を拱いていると、彼らのエゴだけで日本の商工業者は軒並み潰れます。彼らに受け皿機能が期待できない以上は、貸金業界と手を携えて、これからの商工金融のあり方を論じていく必要があります。読者の皆さま、くれぐれも感情論やマスコミ世論に追従することは慎みましょう。

99.12.25

補足1
 前回の手形取引と現金取引を絡める予定だったのですが、論理構成上、盛り込めませんでした。新しいレポートも視野に入れていきます。

99.12.25

補足2
 外資の動向ばかりがクローズアップされていましたが、農林系金融機関の存在は見過ごせません。日栄の9月末借入金リストによれば、10億円以上融資している9県信連で計289億円、全信連で22.5億円です。商工ファンドの7月末借入金リストによれば、同じく10億円以上融資している12県信連で計228億円です。多少の引き揚げを始めているかも知れませんが、この巨額の残高には要注意です。
 農林系といえば、これまでの金融機関破綻で必ず名の上がってきたスポンサーです。もし仮に商工ローン専業2社が債務超過に転落して破綻する場合、またも農林系の負担が大きいことを理由に、何らかの優遇措置が発動される可能性があります。どうも農林系は脇が甘いので気になるところです。

99.12.29

補足3
 最近教えて貰った話を書きます。今回の商工ローン問題でクローズアップされたのは連帯保証人の問題です。債権者は債務者でなく、連帯保証人に対して全額弁済を求めることができます。債務者がパンクした場合に連帯保証人が全額弁済するのは当然なのですが、債務者が夜逃げした場合でも全額弁済をせざるを得ません。本来は連帯保証人が債務者を捕まえて、弁済債務の返済を迫ることができますが、夜逃げしてしまえば捕まえられません。
 さてここで、もしも商工ローンの担当者と債務者が結託をし、根保証目一杯まで夜逃げ資金を貸していた場合、商工ローンの担当者は責任を問われるのでしょうか。担当者としては、債権額が膨らんでも連帯保証人が居る限り取りはぐれません。利益も膨らみますし、債務者からは感謝もされます。年明けにはそんな事例が増えそうだと友人は言うのですが・・・。
 ところで根保証について十分な説明がなかったことで、連帯保証人としての責務を逃れようする訴訟が増えてきています。今のアンチ商工ローンの風潮では、どうやら連帯保証人の主張が通りそうですが、これは商工ローンにとって丸損です。その後夜逃げ中の債務者がノコノコと出てきたら・・・どうなるのでしょうかね。担当者が貸して逃がして呉れたのだから、公序良俗に反する融資契約は存在しない・・・なんて債務者は抗弁をしたりして。

99.12.29

補足4
 東京都民銀行が1999年4月から始めている「スモールローン」が軌道に乗っているそうなので、ご紹介します。同ローンは担保・保証人が不要で、申し込みの翌日融資が可能という商品です。一見の客でも同様に扱う点でウェルカムなサービスです。米国で使われる自動審査システムでふるい分けし、必要に応じて企業訪問やヒアリングを実施して判断するそうです。金額は50〜500万円と比較的少額で、返済期間も6か月以内と短期ですが、融資利率は9%に据え置かれているのが特長です。以上、週刊読売00/01/23号記事を参照しました。
%で10%の金利が付く「トイチ」や、30%の金利が付く「トーサン」など悪徳な金融業者が蔓延る中で、零細企業には朗報でしょう。追随してくれる銀行が増えることに期待したいです。最大のキーは小口顧客を数多く得て、統計的にリスク軽減を図ることです。ノウハウの積み上げも重要なファクターですね。

00.01.10

補足5
 結局のところ、日栄に対する処分は業務停止処分に留まりました。金融監督庁と近畿財務局は、2月7日から本社を含む全支店に7日間の全業務停止、さらに問題の東京支店と千葉支店は90日間の全業務停止の処分を発しました。全業務は停止であるものの、既存債務の借換は認める形になり、中小・零細企業の当面の資金繰りはスムーズに行きそうです。
 結局はうやむやのうちに日栄の法人責任を問うてしまったことは問題ですが、比較的小さい処分で済んだことは幸いでしょう。企業信用の低下と、業績の低迷は確実になり、松田社長の引責辞任を求める声も高まっているそうで、少しは行儀の良いローン会社に脱皮できるでしょうか。
 また商工ローンには明確な処分が下されていません。先手を打って反省の意志表示を始めているようですが、いずれ何らかの処分が出されないと片手落ちになります。問題は両社の今後です。第三者の保証人が取れなくなったことや、債務者の開き直りを許してしまう形に成ったため、今後は小口融資に専念することに成るでしょう。資金調達が苦しくなることもあり、零細企業にとっては不幸にも資金需要を満たしてくれない存在に変わりそうです。
 ここまで来ても、商工ローンに変わる零細企業向けの融資機関が登場せず、これから倒産が相次ぐ状況を生じそうです。政府の特別保証を受けた中小企業でも相次いで万歳を始めており、新たな構造不況を呼び込みかねません。

00.02.13

補足6
 日経ビジネス2000/01/24号が、面白いデータを乗せています。1999年度中に商工ローンの融資残高が、日栄の融資残高を追い越すだろうとの予想です。確かに行政処分の下された日栄は、これまでの融資・回収手法を大きく見直す必要があることから、業績を一時的に落としそうです。しかし商工ファンドもそれだけの資金需要を求められるのか、また応じられるのかに不安があり、見込み通りかどうか疑問を感じます。しかし、上限金利が10%近く引き下げられたことを受け、ダメージを受けて撤退するのは中小のローン業者だろうとのことです。やはり規模の強みで日栄や商工ローンが伸びるのは間違いなさそうです。必要で有れば、看板の掛け替えなどがされるでしょうが・・・先行者の強みですね。

00.02.13

補足7
 日栄の2000年3月期の決算が発表されました。単体業績は、250億円黒字という予想から40億円黒字に縮小しました。子会社日本信用保証への引当金として300億円を計上した影響が大きく、そこには一連の訴訟問題による未回収債権の急増があります。その日本信用保証は、330億円の大幅赤字に転落したため、連結決算は150億円の赤字(前期は331億円の黒字)と成りました。
 融資残高は3,920億円へと18%も縮小しましたが、銀行が新規融資に応じなくなったことや、市場から直接金融で調達する手段も閉ざされたことが原因です。2001年3月には資金調達で僥倖がない限りさらに200億円以上縮小しそうだとのことです。新規顧客の開拓はままならず、実質金利の大幅引き下げなどの要因も働いて、ダメージは一層膨らみそうです。
 目下、商工ファンドのバッシングが始まっており、日栄の1人負けという状態ではなさそうですが、倒産企業が増えている現状で商工ローンの弱体化は必ずしも望ましいと言えません。

00.05.05
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