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経済の研究No.186
デビットカードのリスク

 都銀のICカード導入が、具体化してきたようです。早ければ今年中にも実現したいようですが、キャッシュカードは提携金融機関でも利用できる必要があるため、仮にICカード対応のキャッシュカードが導入されても、磁気ストライプを併用した移行カードに成るものと見られます。
 導入2年目になるデビッドカードは、目立った不正利用が報告されていませんが、クレジットカード以上にセキュリティに問題がある現実からして、相当額の被害が出ているとみるべきではないでしょうか。ICカード化でセキュリティ向上を目指すとしていますが、果たして実現するのかどうか・・。

■ カード被害のリスク
 いわゆるカード被害という場合は、クレジットカードの被害が最も多いです。かつては、キャッシュカードの被害も目立ちましたが、キャッシュカード内に暗証番号を記録していたのを廃止したことや、ATM等の監視カメラが整備されたことで、目立った被害は少ないです。
 クレジットカードで見るならば、紛失・盗難80%、変造・偽造20%という割合になるそうです(日本:1998年、総額200億円)。そして世界的には、紛失・盗難40%、変造・偽造20%、詐取30%などと成っています(調査年不明、総額1,600億円)。年々変造・偽造の件数も増加する傾向にあり、情報機器の発達により技術精度が向上しているそうです(一時期はホログラムが効果的でしたが、近頃は生カードと呼ばれる、未刻印の真正カードが流用されるなどしています)。

 以前のキャッシュカードであれば、ATMとCD以外では利用が無いため、変造・偽造のリスクは少なかったものの、完全に閉め出せていません。中でも、磁気ストライプ内のチェックデジットが欧米よりも甘いと言われています。デビットカードの機能が現行キャッシュカードに自動付与された結果、キャッシュカードが不特定商店で利用できるようになり、紛失や盗難、変造や偽造のリスクは高まっています。

■ スキミング
 近頃のカード犯罪で一番に問題視されているのが、スキミングです。磁気カードのストライプに書き込まれる情報を盗み出し、別カードに書き込むことで、電子的に等価なカードを作ることができます。その盗み出す手法の主流が、スキミングです。
 以前は、レストランなどで工作員が潜り込み、正規のカード処理に並行して、持参した装置にカード情報を読みとる手法がありました。装置はハンディタイプで、カードをスライドさせるだけで、磁気ストライプの情報を全てメモリに蓄積するものでした。中国系マフィアが組織的に行っており、週刊誌等で派手に紹介されました。さらに荒っぽいものは、ガソリンスタンドに侵入して、カードリーダーに装置を埋め込む手法がありました。メモリ部分だけなら小型化が可能であり、協力者も不要です。

 スキミングしたデータは、生カードに書き込まれて、カード表面にカード番号を刻印するなどの細工がされます。近頃では、ホログラムの偽造が容易になっていることがあり、正規品を横流しする業者もあるようです。日本では、生カードの保持が犯罪に当たりませんでしたが、2000年から保持のみで犯罪が成立するように成りました。イタチごっこですが、一定の効果はありそうです。
 日本人は店員を信用しすぎる傾向にあるので、百貨店などで店員がカードを持ったまま別フロアへ行っていても無頓着です。逆に店員も本人確認を十分行わない分けですが、店側が何のリスクも負っていないことに理由があります。ここにスキミングの温床があるのだと思います。一時期は写真入りカードなども流行りましたが、日本での価値は無さそうです。

■ デビットカードのリスク
 これまで銀行のキャッシュカードを他人に預けるという機会は少なかったのですが、デビットカードの普及により、リスクが高まっています。銀行ATMは信用できますが、ショップのカウンターに置いてあるリーダーを信用するのは危険です。リーダーとレジスターの間に何か怪しい装置があっても分かりませんので、以前よりもスキミングが簡単です。何よりも暗証番号とセットでデータを盗まれてしまいます。
 キャッシュカードの場合は、その手間の割に得られる金額が不定(当該口座にどれだけの残高があるか不明のため)であり、クレジットカードよりも割に合わないと言われてきました。ところが、2000年の統計によれば、デビットカードの利用者は高額の買い物に利用している傾向がはっきり出ており、比較的富裕層が利用していると思われます。そうであれば、手間を掛ける価値があるという分けです。
 加えて、キャッシュカードのカード番号と暗証番号が分かれば、残高照会を行うことも可能です。近頃のバンキングネットワークを利用すれば、セキュリティの弱い銀行で偽造カードを使った照会が簡単です。暗証番号を頻繁に変える預金者は少ないですから、数百件のデータが集まるのを待ってから、ゴソッと引き出してドロンすることも可能です。

 キャッシュカードの盗難等による被害は、金融機関によって何ら補償されない点に注意が必要です。優良客を対象に補償を付ける金融機関が出てきましたが、免責条件や補償上限額などで予期せぬ損失が生じる可能性が高いです。電子決済が進めば進むほど、足が着かぬよう現金を抜き出す手法は、簡単になります。

■ ICカードは万全か?
 ICカード技術を使えば、安全度が増します。しかし、世の中には十数億枚もの磁気ストライプカードが流通しています。全てをICカードで置き換えるのは、至難の業です。CDやATMの共同利用が進んでいる現状では、冒頭のように磁気ストライプとICカードの併用が進むばかりでしょう。ICカード専用化を勧めることは、顧客離れを招きかねません。
 また、ハードウェアやソフトウェアへの負担も膨大です。ATMやCDは当然ですが、カード加盟店の持つカードリーダー装置の改造費用も負担です。クレジットカードのCATは権利関係が複雑なものも多く、デビットカードのリーダー装置も全国に蒔いたばかりです。当面は、IC/磁気ストライプ両用にするなど余計な負担が掛かりそうです。生保カード・証券カードも潜在的な利用枚数が多いので、業界を越えての調整が必要なようです。

 仮に調整が順調に終わったとして、ICカードのセキュリティは信用できるのでしょうか? ICカード化すれば、書き込める情報量が飛躍的に増え、書き換えも自由になります。しかし、今日の電子テクノロジーの急成長を考慮すると、万全はあり得ません。何でも書き込めることは、何でも盗み出せることであります。情報の流出を回避することと、怪しい情報の流入を防止することに、十分な対応が求められます。普及を前提にしたローテクを採用されると、ICカードへの信頼感が大きく揺らぎかねません。

■ むすび
 行政ICカードの導入が具体化しています。行政ICカードは導入優先で進んでいるため、セキュリティやプライバシーには十分な配慮がされないようだと言われています。免許証機能・保険証機能の取り込みなども言われており、これに郵貯機能が組み込まれるようだと、我々のプライバシーは危機的状況に曝されます。それ以上に、ひとたび犯罪に巻き込まれた場合の被害は、致命的になる危険があります(第180回家計プライバシーの無くなる日」を参照)。
 金融機関は口座管理料の徴収などに動いています。休眠口座を潰して、不良顧客を追放し優良顧客に絞り込んでから、サービス充実を図るつもりのようです。それを十分に待ってから、技術的な安全性も担保したICカードの導入を図るべきではないでしょうか。2001年に導入するのは時期尚早、無用な費用負担と混乱を招くだけだと思います。

01.03.31

補足1
 デビットカードとなったキャッシュカードは、約4億枚であるそうです。普及を優先したために、セキュリティの甘い金融機関のカードも使えるようになり、当然ながら認証におけるセキュリティは低いです。業界の目論見は当たり、利用可能な店は急増していますが、そのために加盟店の管理が十分でないと言われます。何よりも、個人タクシーにまでデビットカード対応車両が出ている現状で、端末の改造や流用が全くないとは言えません。
 デビットカード用の端末は、申し訳けにカバーの付いているタイプもありますが、テンキーが剥き出しで、レジに並んでいる人から暗証番号が丸見えです。スキミングばかりでなく、キャッシュカードの盗難にも注意が必要ですが、これへの対策は不十分です。暗証番号を10桁にするなどの対策も現実的でなく、無用なシステム改造費が発生するばかりです。
 デビットカードは消費者に大きな恵みをもたらしたとされますが、どれほどの大きさなのでしょうか。クレジットカードの利用できなかった店舗で利用できることは魅力ですが、加盟店の支払手数料が安いからと言う理由に過ぎず、一部店舗を除いては際立った利点がありません。銀行口座を危機に曝すだけのメリットは得られていないような機がします。

01.03.31

補足2
 日本クレジットカード協会は、加盟197社が導入するICカードの読取端末の統一規格を決定したそうです。ICカードの国際標準規格「EMV」に準拠し、国内外のクレジットカードに対応するというもので、セキュリティ面での配慮は普及のために犠牲となるようです。スケジュールでは、2003年を目処に導入を開始し、2008年を磁気カードからの切替目標とするそうです。銀行系ICカードは先行するものの、クレジットカードのATM利用を前提とすると、2008年まではセキュリティを向上できないようです。

01.04.22

補足3
 補足2の補足です。国内クレジットカードの大手であるUCカードと三井住友カードは、2001年3月から順次切替を進め、2005年完了を目指すそうです。JCBカードも2006年目処であるそうです。ICカードの最大の利点に、偽造カードの撲滅を上げており、合わせてリアルタイムのポイントサービスも検討中であるそうです。またICカードの利用による決済時間の大幅短縮も、ウリになるそうです。
 ちなみに、2000年の不正カード使用のうち、45%(金額ベース)が偽造カードによる被害であるそうです。1997年は6%程度だったので、偽造カードの躍進が目立ちます。

01.06.03

補足4
 日本デビットかd−お推進協議会は、デビットカードを利用して小売店のレジから現金を引き出す「キャッシュアウト」のサービスを検討し始めたそうです。カード偽造への懸念からICカード化を優先するようですが、これによりデビットカードの普及には弾みがつく可能性が大きいです。関連コラムとして、第143回コンビニ・バンキング」もご参照下さい。

02.01.14
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