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経済の研究No.187
国債デフォルトは遠くない

#N3月期末の日経平均終値は、13,000Pをわずかに超えられませんでした。政府は、金庫株構想など政治支援を連呼したものの効果がなく、3月15日に11,433Pまで崩れました。もはや金融体制を歪めることでは経済は回復しないことに気づくべきでしょう。経済原理に反して、日本銀行は金融の量的緩和を断行しました。実質ゼロ金利が再来し、これを歓迎した株式市場は、連日の急反発で応えました(21日に913P上昇、26日に648P上昇)。年度末を目前に一息ついた企業が多いのは事実ですが、何ら救いに成りません。

■ 政治家は、経済を知っているのか?
 宮澤財務大臣の口癖は、事実かどうかは分かりませんが、「素人さんはそう言われますが…」であるそうです。自らを経済プロと自任しての発言でしょうが、首相時代を含めて、目立って良い業績はありません。素人と見下げていた人たちの懸念通りに経済が悪化していく中で、何ら有効な方策を打ち出すでもなく、ただただ模様眺めです。
 「株式市場や国債市場が悪化すると、経済はどうなるか?」という問いに、我々素人は「悪化する」と応えるでしょう。「相場は生き物ですから」では答えにも成りません。上がったり下がったりするのは当然としても、日本経済の要に座る人が、下がるのを傍観するのはいかがなものでしょうか。バブルの真っ最中であればともかく、今はデフレ懸念の政治不況真っ只中です。リップサービスだけでもするのが、政治家でしょう。

 株式不況はどうすれば乗り切れるのか。多くの投資家に株式を買わせて、相場を底上げするしかありません。かつてはPKOと称して嵩上げを図りましたが、外資を儲けさせただけで、火達磨に成りました。公的資金が被ったダメージは巨大でした(第23回株価PKOの敗戦」ほか参照)。昨年のITバブルにおいても、金融改革を行うでもなく傷口を拡げるばかりでした。金庫株の導入・銀行保有株の公的投信化・源泉課税の存続・株式の相続税免除等々まぬけな政策提起が目立ちます。
 果たして政治家は、経済を知っているのでしょうか。政治が相場に顔を出し、制度を歪めるほどに、株式市場は低迷することを、多分知らないのでしょう。無駄に税金を使うほど国債の信用度が低下し、巨大なデフォルト不況の足音が近づいていることも、きっと知らないのでしょう。

■ 銀行に株式・国債を持たせないこと
 公的資金を銀行に注入した折、銀行には株式投資の禁止を強いるべきでした。いつかも書きましたが、米国では銀行による株式投資を禁じています。日本では銀行による企業支配を禁じているだけです(実態は支配していますが)。相変わらずの高値買い安値売りを続け、自ら株式で体力を失い続ける銀行を、厳しく縛る必要があります。2000年のITバブルのおかげで短い春を謳歌しましたが、再び株式の含み損が重圧に成っています。株式投資から足を洗えたのは、横浜銀行など数行だけです。学習能力がありません。
 銀行は、なぜ株式投資に走るのでしょうか。持合株式こそ処分する方向に来ていますが、依然としてドラスティックな改革が進んでいません。連年簿価の洗い換えを進めた結果として、含み益は消え含み損が負担です。この低金利だからこそ株式投資というのは、個人投資家と同じレベルです。銀行が個人投資家と同じ投資しかできないのであれば、間接金融が無用に成ります。機関投資家としての銀行は、個人よりも投資上手であるべきなのです。

 株式保有で多くの企業を支配下に置いて利益が上がったのは、もう昔話です。傘下企業に資金を貸しだして美味しい思いができたのは、バブルまでです。企業が系列を無視してまで資金調達に動き、なおかつ調達量を大幅に絞り込んでいる現状では、無意味です。さらに企業向け債権が不良化しつつある中で、もう系列だメーンだという議論も虚しい限りです。どうせ保有するのなら、健全な未上場企業に絞るべきでしょう。
 近頃の銀行による株式取得は、後ろ向きです。不振企業が債務超過になるのを回避するため、資本注入に応じているだけです。傾いた土台に充填剤を注ぎ込んでも、その土台が重すぎて無駄に成りかねません。ようやく充填剤の注入先も選別しているようですが、手遅れという声も聞こえています。その銀行に充填した公的資金は、専ら国債に化けているそうです。運用効率化のため、国債を持たせないことも重要です。

■ 不良銀行は、一回潰れた方がいい
 明日、さくら銀行と住友銀行が合併し、新銀行が誕生します。生き残り組の一角を占めると見られますが、他の生き残り組の動向も定かでありません。不良債権処理を積み増し、去年の楽観から一転して、悲観のウェートが高まっています。生き残り組の選に漏れた銀行は、これからどうなるでしょうか。大和銀行、三井中央信託にイエローランプが点っています。地銀でも危ない銀行の名前が囁かれています。
 政府は、再度の公的資金注入の道を探っています。一部の都銀を除いて、自力で返済できる銀行は少ないです。政府出資への配当が滞れば、実質国有化することになる銀行が沢山あります。実質国有化して破綻すれば、さらに公的資金で穴埋めですが・・それは避けなくては行けません。政府が支えれば支えるほど、国債の信用度が低下し、それを大量に抱える銀行の体質悪化に成ります。外資による資金引き上げも加速するでしょう。

 危ない銀行は、一回潰した方が良いと思います。潰れそうな銀行があるからペイオフの導入ができないのであれば、潰れそうな銀行は全て潰した方が良いのです。全て潰して公的処理をし、預金は全て保護して精算するのが一策です。そして破綻銀行を束ねて、立派な国営銀行を作るべきでしょう。ペイオフを導入し、金融不安を払拭することが先決です。
 このまま支えていると、米国の経済破綻が先に来ます。ソフトランディングの道を探っていますが、予想以上に険しい様相を見せています。財政赤字こそ収縮しましたが、本格不況が訪れて財政出動となれば、また逆戻りです。日本の財政赤字は全く改善せず拡大する一方ですから、米国のインパクトが先では、打つ手が無くなります。金融システムの透明化を推進し、十分な準備を進める必要があります。

■ 国債デフォルトは遠くない
#N末の日本国の債務残高が522兆円に達したそうです。国債・借入金・政府短期証券の合計ですが、1999年末から9.3%も増加しています。中でも国債は11.3%増加して373兆円であり、尋常な水準にありません。加えて、政府保証債務の残高は、515兆円であるそうです。これで景気は底を打ったと信じられるはずがありません。
 これから本格的な金融不況が訪れるのは、間違いありません。さらなる財政出動を強いられることになりますが、その先には国債1,000兆円への道があるばかりです。政策的に高率のインフレを誘導するのでない限り、国債1,000兆円を返済することは叶いません。不況化で税収増は期待できませんし、消費税ほかを引き上げれば、不況はさらに深刻化するでしょう。
 果たして国債1,000兆円は可能でしょうか? 今の373兆円の国債でさえ、長期債は敬遠されて引受先がありません。相続税の課税対象外とするのを条件に、無利子国債の導入を考えているようですが、流動性のない無利子国債を買う投資家があるでしょうか。節税対策に体よく利用されて終わるだけでしょう。銀行に抱かせるのも限界に来ています。そもそも注入した公的資金で国債を買っても、無意味なのですから。
 国債の引受先が無くなれば、国の財政は破綻です。政府がパンクするわけには行きませんので、デフォルト宣言でしょうか。南米では当たり前でも、日本では赦されないはずです。赦されなくても、デフォルトせざるを得ない時が遠からずやって来ます。財政規模を縮小し地道に返済を続けることは、もう無理な段階に来ているのです。不良自治体の整理、特殊法人等の解体・・成すべきことが成せずに、一層の悪化が懸念されます。

■ むすび
 長期国債の金利は、長期金利に連動しています。長期金利が上昇すると、企業の設備投資に悪影響があります。家計の住宅ローンにも打撃を与えます。しかし、結果的にはデフレからインフレに転じるでしょう。今の政治家に実現手腕があると思えませんが、将来のインフレを約束することで、景気を上向けるしか方策は無いようです。
 国債金利ばかりでなく、あらゆる政策をインフレ方向に切る必要があります。郵貯や銀行の金利は上昇させず、積極的に貯蓄よりも投資に誘導する必要があります(国債だけは高利補償)。銀行に対しては、政府補償での日銀融資を積極的に行い、必要があればバブル再来まで持っていくことです(ただし、銀行は儲けてはいけない。そのための国営化なのです)。経済の法則には反しますが、長期金利の上昇でしか日本の危機は救えないと思います。

 気が付けば国民だけが損を被っていたというのは、良くある話です。富裕層だけが潤うのでなく、全国民が潤うインフレ化政策を立ち上げるべきなのです。そのためには、政官財の癒着の根絶、金融システムの透明性担保、公正で明朗な低利融資、成すべき問題は沢山あります。損して得を取らせるのは、本当の政治だと思いますが、いかがでしょうか。そんな度胸と指導力のある政治家が居ないことが、現在の閉塞感の元凶なのだと思います。

01.01.31

補足1
 唯一の救いは、円相場の改善でしょうか。1ドル125円51銭で引けたお陰で、対外資産は膨張しているはずです。輸出企業も潤う水準だと思いますが、さらに円安に触れるかどうかで、来期への影響を及ぼしそうです。外貨預金なども利益が出ている状況ですから、個人資金が引き続き海外へ出ていく傾向が顕著に成るかも知れません。国民には投資よりも消費を拡大して欲しいのが、政治家の本音ではないでしょうか。
 国内株式市場の好転が望めない中で、国民が積極的投資に向かうとは思えません。低利を承知で銀行預金になるのが、一番に価値のない資金運用であることは、国民も良く知っていると思います。しかし昨年は、IT銘柄や投資信託で痛い目に遭わせたばかりですし、行政の無為無策や金融の不透明さには呆れているでしょう。

01.03.31

補足2
 日銀の調査によると、都市銀行の保有株式は、2000年9月末の簿価ベースで、自己資本の1.7倍にも達していることが判明しました。都市銀行の保有株式は28兆円、自己資本は16.7兆円です。また、信託銀行の保有株式は7.2兆円、自己資本は3.6兆円であることも目立ちます。地方銀行は、全体では自己資本以下に抑制されており、第二地方銀行では金額規模が問題にならないほど小さく軽微と観られます。
 銀行5業態(都市銀行・信託銀行・長期信用銀行・地方銀行・第二地方銀行)の合計では、保有株式は46兆円。対する自己資本は32.2兆円であるそうで、全体でも自己資本の1.4倍にも膨らんでいます。いわゆる投資の範囲を逸脱しているのは、明かです。バブル後の銀行の業績は株式依存が大きく、とくに含み益を吐き出した後の大ブレが目立つ理由が、白日に曝されることに成りました。
 政府は、5年程度の時間を掛けて、段階的な目標を設定しての株式削減を促すとのことで、その代償として、銀行保有株式取得機構の設置による保有株受け皿機関を立ち上げる意向のようです。

01.04.21

補足3
 日本経済新聞2001/04/11朝刊に「銀行の株保有規制論議」と題する特集がありましたので、引用します。
 米国では「銀行は企業の持ち株保有を原則禁止。金融持株会社傘下の子会社保有は可能だが、自己資本の一定比率を上回る保有分は資本から差し引く」、独国・仏国では「1企業へ10%以上出資する「特定保有」は、自己資本の15%までに限定」、英国では「1企業への特定保有の総額が自己資本の60%を越えた場合などは、自己資本から超過分を差し引く」と成っています。こうして見ると米国突出して厳しい条件に成っています。
 対する日本は、「1企業への5%以上の出資は禁止。株式保有の総量規制なし」という状況で、前者は規制緩和する一方で、後者に規制導入する動きです。日本の場合5%ルールが形骸化しているとも言われますが、英独仏にいう特定保有に該当する企業がないために、欧州式の総量規制は意味が無く、独自の基準を定める必要がありそうです。
 政治的には、保有株の売却が一層加速ことによる株式のデフレスパイラルに踏み込むことは重要命題であり、またベンチャー育成の看板からベンチャー株式は参入しないなどの判断も働く模様です。いずれにせよ、自ら出資企業に株価上昇のための経営を促すでもなく、漫然と株式を保有する銀行の姿勢に問題が多いため、他力本願的な銀行の株式保有を辞めさせる意味でも、米国的な厳しい保有制限でも良いと思います。

01.04.21

補足4
 第001回この低金利でも銀行は助からない」の補足1に書きましたが、国内銀行の国債保有高が一年間で倍増しているそうです。1999年2月末で30.1兆円あった残高は、2000年2月で69.8兆円に達しており、現在の不良債権処理や持合株式処理の促進では、一層国債シフトが進むとのことです。かつてのような高利周りの国債は次々に償還または売却されており、予想利回りは年1%前後とのことです。
 現金で遊ばせるよりは良いとしても、本来積極的に投資に回すべき資金を国債で塩漬けしていることは大きな問題です。国の信用が大きく崩れれば原本割れやデフォルトもあり得るため、下手をすると大恐慌を招きかねません。その国債で銀行が救済されているというのは、皮肉です。タコが自分の足の切り身を大事に買っているようなものですから。
 長期金利の急上昇が起きた場合は、銀行による国債の乱売が置きかねず、大きな不安材料です。株式の保有高に制限を設けると同時に国債の保有高にも制限を設けるべきです。とはいえ、ダブつく国債を日本銀行が買い上げるのも問題の先送りでしかありませんね。

01.04.22

補足5
 補足4の補足です。都市銀行のみで見た国債保有残高は、2001年3月末で40.1兆円に達しており、2000年3月期と比較して倍増しています。加えて1.6%近かった新発10年国債の利回りは1.3%を割り込む水準にあり、不効率なままです。大手企業が、相次いで社債調達など直接金融へのシフトを進めていることや、負債削減などで借入金の早期返済に動いていることが、大きなインパクトに成って来ているようです。
 かつてはオーバーローン(貸出超過)に悩んでいたはずの都銀ですが、不良債権拡大を懸念する余りに、ほとんどタンス預金並みに巨大資金を寝かせています。ちなみに、2001年3月末現在で最大の国債保有行は、住友銀行(10.7兆円)であるそうで、さくら銀も相当量保有していたため、全都銀の3割強を三井住友銀が保有していると見られます。

01.06.02

補足6
 日本経済新聞2001/05/26朝刊に、大手銀行の自己資本と保有株式の試算結果が紹介されています。2001年3月末の数字ですので、補足2の続きになります。
 大手銀行(グループ)の中では、みずほ6.2兆円、三井住友4.0兆円、UFJ3.8兆円、三菱東京3.8兆円、あさひ1.3兆円など巨大な自己資本が並びます。そして保有株式(簿価ベース)と、自己資本に対する倍率は、みずほ7.9兆円(1.27倍)、三井住友6.5兆円(1.62倍)、UFJ6.1兆円(1.54倍)、三菱東京5.9兆円(1.55倍)、あさひ1.7兆円(1.30倍)であるそうです。信託ほかを加えた大手銀行総計では、自己資本22.1兆円に対して、保有株式33.3兆円(1.5倍)になります。
#N度でも保有株式の売却を進めた結果、それなりに努力の成果が見て取れます。とくに売却額トップとなったUFJの健闘があります。しかし、簿価ベースでのインパクトは強く、今後は取引先との関係調整など面倒な相手が多く含まれる様子です(その多くは、引受先のない優良でない取引先が多いと推測されます)。自己資本の50%を保有上限値に設定すると、20兆円近い株式が放出されることに成ってしまいます。まだまだ安心できませんが、保有株式の圧縮努力を今後も続けて欲しいものです。

01.06.02

補足7
 米国の金融当局は、米国銀行が子会社を通じて保有する株式について、投資額の最大25%を親会社の自己資本から差し引く規制を導入するそうです。銀行本体や持株会社がノンバンク等を経由して株式を保有することによるリスクを軽減することが目的で、国際ルール化も視野に知れているそうです。
 邦銀も、補足6などの経緯を踏まえて、2001年11月の銀行株式保有制限法の時限立法化を図りました。これにより自己資本を超える株式保有が原則できなくなりましたが、米国の新規制が国際ルール化されると一層苦しい状況に追い込まれそうです。しかし結果的には銀行による企業支配が弱まる一方で、株価による銀行業績の大ブレも無くなるなど、市場にとっては良い効果をもたらしそうです。邦銀も早期に保有株式の整理に移行するべきでしょう。

02.01.14

補足8
 新発10年物国債利回り(長期金利)がズルズルと下がっています。2002年1月に1.4%程度でしたが、12月には1.0%を切りました。逆に、東証第1部予想平均配当利回り(株式配当利回り)が、ジリジリと上昇しています。2002年1月に1.2%程度でしたが、10月以降1.4%を上回っています。そして、8月2日に両者が逆転して以降、依然として株式配当利回りが長期金利を上回っています。これは過去に前提がない程長期であり、極めて異様な現象とされています。
 株価が20年ぶりの低水準ということが、利回りを押し上げている要因になっています。しかし、国債の人気が薄くなっているということが問題でもあり、これまで国債を買い漁ってきた大手銀行は、もっと企業に投資する方が効率的ということになります。現在の大手銀行は高値で掴んだ株式の含み損に喘いでいるものの、現在の水準で株式を買い増せば平均簿価も下がり、短期運用面では有利な局面です。
 これ以上、株価が下がらないという前提においてですが、現在は株価に振り回されない経営を目指しており株式売却を進めている最中でもありますので、大手銀行としては難しいでしょうか。持合株式や無配当株式の売却を進めるのは当然ながら、高利回り株式は新規購入しても何ら問題が無いと思います。

03.01.03
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