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政治の研究No.64
児童ポルノ規制法は   
    平成の治安維持法

 児童ポルノ規制法案(仮称)が今国会で審議され、どうやら法制化される見通しです。すでにネット上でいろいろ取り上げられていますが、ポン太はポン太なりに考えてみたいと思います。なお、警鐘を鳴らす意味で、かなり極論を展開しますので、その点は含んだ上でお読みください。

 まず、児童ポルノ規制法案とは何でしょうか。財団法人・日本ユニセフ協会の要望に基づき、超党派女性議員が中心となり作成した議員立法法案です。したがって内容は過激で、在来法と矛盾する点もあるようです。第1に18歳未満の「児童」を保護することを目的とし、第2に「児童」の「衣服の全部または一部を脱いだ児童の姿態であって、性的好奇心をそそる」写真・ビデオテープ・図画など(以下、児童ポルノ)を規制するものであり、第3に所持を含めて広範な禁止行為を定め、第4に罰則も設ける点に特徴を有します。平たく言えば児童売春と児童ポルノの頒布を禁じることを目的としています。
 つぎに、問題点を列記しましょう。(1)在来法を厳格適用すれば解決するであろう問題に新たな法律で対処しようとしていること、(2)罰則を含めてその適用が極めて重いこと、(3)児童の定義が日常用語と乖離する18歳未満であり、明らかに認識に逸脱があること、(4)「性的好奇心をそそる」の客観的定義ができないこと、(5)「図画」が果たして児童保護と関係有るのか明瞭でないこと、(6)単なる「所持」を禁止対象としていること、などです。

 順を追って検討します。(1)は良いとしましょう。(2)は感情論優先で立法されるようなので、大いに議論されなくてはいけません。が、法律の専門家に委ねることにしましょう。(3)は明らかに「児童」というイメージを膨らませるもので、法律像自身を歪めるものです。ます15歳未満が妥当だと思いますし、それでも児童という表現はいかがなものかと思います。(4)は定義が全くナンセンスです。容疑者が性的好奇心をそそられたかどうかを客観的に確かめることはできませんし、法廷で立証することもできません。まして「衣服の全部または一部を脱いだ」とは、例えば靴下や手袋を外した手足だけでも「性的好奇心をそそる」と言われれば反論できないことになります。我が子の水着姿や浴衣姿まで児童ポルノと認定されると大変な話です。(5)は対象が実在しないにも関わらず、児童保護を目的として処罰されることになります。図画の存在が児童売春の引き金になっているとは思われず、性的犯罪を助長しているとも断定できません。また図画の認定も曖昧で、かなりの主観的判断が加わることと思われます。そもそも図画からモデルの年齢を推測できるのかどうか疑問が残ります。(6)所持するだけで犯罪が成立するのは銃刀と麻薬だけです。果たして児童ポルノを同レベルに規制する必要性はあるのでしょうか。もっと先に規制すべき物は沢山あるはずです。

 それはともかく、なぜ平成の治安維持法だと呼んでいるのかを説明しましょう。現在のところ、(6)の「所持」については罰則規定がありません。しかし3年後には罰則(懲役・罰金)を導入する意向だと言います。これはつまり、児童ポルノ所持の疑いだけで職務質問や家宅捜索ができると言うことです。そして別件逮捕の口実にも使えるということです。
 例えば、児童ポルノ販売の疑いと言うことで暴力団事務所を家宅捜索し、偶然銃刀や麻薬が見つかれば逮捕ができます。児童ポルノ所持の疑いで民間住宅を家宅捜索し、警察に協力的でない人間に威圧を加えることも可能です。有罪にしたければ、家宅捜索時に押収した雑誌やビデオテープから強引に「性的好奇心をそそる」児童のワンショットを発見すればよいのです。一方的に児童ポルノを送りつけて警察に密告することもできますね。これを治安維持法の再来と言わずして何と言いましょうか。
 また、政府の意向に逆らうマスメディアを脅迫する材料にもなります。マスメディアは過去にいろいろな素材を報道してきました。当然、愛くるしい子供の映像や、きわどい高校生のセクシーショットなどを記録として所持しているはずです(海外の子供達が半裸でフィルムに映っていることもありますね)。その分量は余りにも多く、正確に把握している者は居ないでしょう。となれば、新聞社や放送局の家宅捜索をすれば、必ず「所持」に抵触するはずです。それを避けるには全ての記録を廃棄するしかありません。あるいは政府の言いなりになるしか選択肢は無いわけです。児童ポルノ規制を名分とした言論統制が可能になるわけですね。
 当然ながら、放送番組や公演を検閲することができます。検閲官が不適当と判断すれば、シーンのカットや放送禁止や公演中止を申し渡すことが可能になります。インターネットのホームページも検閲し、不適当なページの削除を求めることも可能です。情報発信者の個人情報を提出させることも可能になります。場合によっては、小包ほか郵便物の検閲も可能になるでしょう。郵便物に児童ポルノが含まれていると主観的に判断すれば足りるからです。国民のプライバシーは守られなくなります。検閲により児童ポルノが発見されなくて当然のこと、発見されれば罰則を適用するだけのことです。事実上のやり放題が罷り通ります。

 この法案の汚いところは、治安維持法並みの危険な法案であるにも関わらず、児童保護の名目に包まれていることです。法案に反対する市民や議員に対しては、児童保護に批判的であるという個人攻撃が可能で、児童嗜好者であるとのレッテルを貼ることもできます。ユニセフをバックに持ち、国際的正義を振りかざしていることも気になります。誰が考え出したものか、巧妙な法案です。
 児童保護は絶対に必要です。しかし社会規範により拘束力を生み出すべきで、法律によって規制するようなことは邪道です。従来法を活用しても対応できる以上、こんな異端な法律を制定する意義はないはずです。イメージ先行で主観的判断の余地が大きい刑事特別法の制定には反対します。一旦法制化されれば、上述のようにどのように悪用されるか分かりません。「悪法でも法」ですが、できることなら悪法の成立は阻止したいと思います。読者の皆様のご理解とご協力をお願いします。

 最後に法案提出者と賛成者のみなさん。あなた方も当然に政敵に貶められるかも知れませんよ。男性にロリコンが居るように、女性にはショタコンが居ます。あなた方にその気がなくても「客観的な証拠」と「主観的な認定」が揃えば、立派な犯罪者に仕立て上げられるのです。人ごとでは無いと言うことを自覚して下さい。治安維持法の成立に寄与した人物として歴史に名を残したいですか?

99.03.23

補足1
法案全文・提出者・賛成者の姓名は、ネット上でご覧になれます。
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/6380/hoan_1.html
また、関係ホームページのリストは、同じサイトにあります。
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/6380/info_1.html

99.03.24

補足2
 3月31日、法案は参議院へ提出されました。売春は3年以下の懲役または100万円以下の罰金、ポルノ商品の製造・販売は3年以下の懲役または300万円以下の罰金と成るそうです。また所持禁止は法案に盛り込まず、絵に関してもコミックなどは除外するなど、反対派の意見を考慮した法案となる模様です。ただし、海外での日本人の行為をも処罰の対象とするなど、いろいろ問題は拡大しそうです。
 また4月1日に改正風営法(風俗営業適正化法)が施行され、ネット上でのポルノ画像の有料提供を「映像送信型性風俗営業」と位置づけて規制の対象に加えることになりました。無届け営業の場合は30万円以下の罰金、プロバイダーへの努力義務、など検閲の一歩手前まで法制化されています。

99.04.01

補足3
 児童ポルノ規制法案の提唱者が日本を去ってしまいます。提唱していたのは六本木のフランシスカン・チャペル・センターの助人司祭だったジャック・ラポイント氏。日本における児童ポルノの放任主義に呆れ、主に欧米人少女を魔の手が救い出すために運動を始めたと言います。在日外国人の署名を14,000人分も集めて衆参両院議長や小渕首相に訴えたと言います。努力が実って国会への法案提出に漕ぎ着けたものの、国会議員先生は行きすぎた法案を作成・・・先行きは不透明です。ところでラポイント氏は4月末日を以て転任先のアメリカへ旅立たれるそうです。熱心さは分かりますが、もう少し方法を考えて欲しかった・・・。

99.04.23

補足4
′獅P日にスピード施行された「児童売春・児童ポルノ禁止法」によって、11月から相次いで逮捕者が出ています。施行前から海外を中心にポルノサイトの摘発が相次ぎ、ニュース化したものでも逮捕者は3人に成りました。しかし、施行前から内定調査を進めていたことは間違いなく、そろそろ治安当局によるインターネットへの介入は激しくなりそうです。
 本当にポルノサイトに限って情報収集をしているのであれば良いですが、プロバイダから無関係なサイトの管理者情報などを「蒐集」している可能性もありそうで心配です。ネットの匿名性が保証されないと、いつどんな口実に使われるか分かりません。読者のみなさんも気を付けましょう。すでにネットの匿名性は失われたも同然です。

99.11.26
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