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政治の研究No.80
パーソナルコードの時代

 いよいよパーソナルコードの時代がやってきます。プライバシー擁護の議論の中で、長い間導入が見送られてきた総背番号制でしたが、その実施形態を変えて成立しそうです。それは住民基本台帳法改正案と呼ばれています。

 全国の地方自治体では住民票の電子データ化に着手してきました。紙データに比べて保存性が良く、検索等も容易であり、交付が省力化されるということで導入が進んだものです。各自治体は各自入札でシステムを導入してきたため、これまでデータフォーマットの共通化などは図られてきませんでした。
 改正案が施行されると、従来はマチマチだったIDコードが10桁に統一されると同時に、これが個人のパーソナルコードに成ります。表記項目や表記書式も統一されるでしょう。パーソナルコードである以上、転居・婚姻等によってもコードは変わりません(本人が要望した場合、変えられるとの規程はできるそうです)。どこの市町村でも住民票の交付が受けられるほか、転出入の手続が簡便になるとメリットが上げられています。
 また希望者にはパーソナルコードなどを記録したICカードを配布するとのことであり、これまで身分証明書としての価値が高かった運転免許証や健康保険証の提示に代えることができます。将来的には、運転免許番号や健康保険番号などがパーソナルコードに統合されるのでしょう。

 さて、こうして見るとパーソナルコードがバラ色の制度のように見えます。でも、運転免許番号や健康保険番号などがパーソナルコードに統合されると、ネットワークを介して即座に過去の違反や病気・怪我のデータが把握されてしまいます。電子マネーなどがICカードに組み込まれると、家計状況や消費動向なども即座に分かります。あるいは日常の行動範囲や行動パターンも把握されてしまいます。消費者金融の垂涎の的にも成りそうです。
 もちろんプライバシー保護を理由に、ある程度の情報保護は行われるはずです。建前上、収集された情報は本人以外に公開しないと言うでしょう。しかし本人は全ての情報が閲覧できているのか分かりませんし、違う目的に使用されていても知る方法が与えられません。
 行政に悪意が無くとも、パーソナルコードという統一コードを使用するデータベースが次々にオンラインで接続されれば、自ずとネットワークを介したデータの交換や蓄積・集約化が進むはずです。行政さえ知らない領域でデータの活用が成される可能性が大きいと言えます。

 パーソナルコードの普及は、一般国民に何ら不利益を生じません。犯罪者など行政にマークされた人間にとっては、行動が逐一監視される恐ろしい存在になります。雲隠れも夜逃げもできません。
 しかし、何かの偶然で誤ったデータがデータベースに追加された場合、一般国民も狙われる可能性があります。単純な入力ミスか、意図的なデータ操作か、システム上のバグか、原因不明のまま要注意人物として睨まれる可能性があります。不幸なことに当人はその事実を知らないままに・・・です。
 パーソナルコードによって一元化されたデータは、莫大な利益を生む道具になります。甘い管理体制をくぐり抜けて流出したデータは、どのように悪用されるか分かりません。NTT社員が顧客情報を持ち出した事件、ハッカーによりデータベースに侵入された事件、ウィルスによりデータの改竄・破壊が行われた事件、こうした事件が大きな被害を招く可能性は存在します。

 パーソナルコード導入は近い将来に必要となります。そろそろ不揃いなデータベースシステムを統合化していく必要があるでしょう。ただし、セキュリティの甘い現状では時期尚早だと思います。データを扱う人間のモラルが確立されていませんし、充分な罰則規定も設けられていません。また管理される側の国民に危機意識が持たれておらず、何らかのトラブルに巻き込まれた場合の対処方法も知らされていません。
 政治家が導入を急ぐのは、国民をとにかく管理したいという考えが先立っているのでしょう。実際に集めたパーソナルデータをどう運用するつもりなのか知りませんが、集めたい知りたいという気持ちが強いようです。導入の理由付けは二の次で、実施に際して発生するであろう諸問題も当面は黙認するつもりなのでしょう。しかしオンライン・ネットワークは怪物です。一旦取り込まれてしまったデータが無事に帰ってくる保証はありません。問題が発生してから慌てふためいても何の助けにならないのです。

 導入を決めるのは結構ですが、じっくりと腰を据えて、問題点の洗い出しや対策の検討を進めて欲しいところです。自自公連合による数の力に酔いしれて、取り返しの着かない失敗が生まれませんよう、願うばかりです。

99.06.21

補足1
 国税庁はパーソナルコードの導入によって所得がガラス張りに成ることを狙っているようです。しかし、本人でないパーソナルコードが使われてしまうと全く使いものに成りません。浮浪者からパーソナルコードを買い取ったり、所有者を殺したりして別人に成りすましたりということも起こり得ます。怪しい資金は一層アングラ化してしまうだけだと思います。金を持つ人間ほど知恵が回ります。金のない人間ほど正直でバカを見るシステムになりそうです。

99.06.21

補足2
 もしも政治家がパーソナルデータを覗く手段を持ったとしたら、彼らは何に使うでしょうか。対立候補のあら探し、支持者が投票したかどうかのチェック、政治資金を提供してくれそうな相手の調査、他人の弱みを利用した阿漕な資金稼ぎ・・・考えただけでも頭が痛くなりそうです。

99.06.21

補足3
 国民総背番号制の議論が沸き起こったのは1995年3月の自治省が住民基本台帳のネットワーク研究に関する中間報告を出したことが始まりだそうです。この報告には生涯不変の統一番号導入、民間利用の可能性想定などが盛り込まれていましたが、その後、ネットワーク情報はパーソナルコードと氏名など4情報に限定、対象は16省庁の92事務に限定、民間利用禁止、関与する公務員と電算業務委託業者の守秘義務・重罰適用などを盛り込み自治省は改正試案を提示しています。
 守秘義務と重罰適用に関しては、その効力に疑問が残る問題と、情報漏洩の際に現状回復を図る手段がないという問題があります。5月には京都府宇治市で住民票データが名簿販売業者へ流出した事件が発覚していますし、ネットワーク上からは簡単に大量のデータを引き出せるという問題があります。

99.06.30

補足4
 政府は、2003年からの配布が決まっている住民基本台帳法に基づくICカードに、健康保険証や国民年金・介護保険などの機能を加える方針を示しました。各省庁がバラバラにカードを発行するとせっかくの利便性が損なわれるとの判断によるものです。自治体サービスとの統合も視野に入れるものの、盗難等による情報の漏洩や偽造、成りすまし行為等に警戒を示してもいるようです。安全対策や本人確認のセキュリティを向上させる必要性が提言されています。

01.01.13
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