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政治の研究No.81
通信傍受は盗聴です

 通信傍受法案が参議院で議論されています。おそらく成立するでしょうね。マスメディアは通信傍受法案を盗聴法案と呼んでキャンペーンを張っていますが、何となくピントが外れていると思いませんか? 彼らは表現の自由と通信の秘密を保証した憲法第21条を楯にとっていますが、今回の法案では通信傍受の対象が、薬物・銃器・集団密航・組織的殺人行為の4つの重要犯罪に絞られたのですから、論点が外れているようです。
 もちろんキャンペーンを張ることは必要でしょう。一度法律が成立してしまうと、対象とする犯罪の枠を拡げることは簡単ですし、これまで以上に捜査当局に対する協力がメディアに求められる可能性は否定できませんから。ですから、論点を絞り直してキャンペーンをして戴きたいと思うのです。
 また「盗聴法案」と呼び換えたのもどうかと思います。メディアなんですから、法案の名称は正しく報道しましょうよ。

 ところで野中官房長官は、「通信傍受法案を盗聴法案と呼んではイカン」と怒ったそうです。しかし、どう言い繕っても通信傍受は盗聴です。町中の会話ならともかく、通信上の会話は立派な私財です。中には有用な情報がびっしり詰まっています。当事者に無断で私財を横取りするのですから、立派な窃盗であります。
 今回の立法趣旨は、窃盗によって盗んできた情報を公に使えるようにするということです。つまり盗聴したという事実の罪を問わないというだけの話です。また誤解があると思いますが、通信傍受法案の成立によって、治安当局が盗聴を始められるようになるのではありません。これまでも非合法で行われてきた盗聴が、これからは合法化する上に、犯罪立件の証拠に使えるように成るというだけのことです。プライバシーの保護は、すでに反古にされていたのですよ。
 われわれとしては、どういう防護手段があるでしょうか。そうですね、電話で危ない話はしないことです。メールでヤバイ話を書かないことです。日頃から尾行されないように気を配り、交友関係を探られないことです。犯罪者でなくとも、プライバシーを覗かれないように日々努力が必要でしょう。その周到さが裏目に出て警察にマークされるかも知れませんが。

 メンズウォーカー7月20日号に、元FBI捜査官のA.サンブ氏が「犯罪と無関係な会話を盗聴することなどありえない。FBIの盗聴捜査には厳しい条件がついている」とコメントした記事が掲載されています。確かにFBIではそうなんでしょうね。捜査官が越権行為をすれば処罰の対象に成るそうですし、上司も含めて解雇の対象になり、賠償責任も自分で負わなくてはいけないのだそうです。だから、自信を持って断言をできるのでしょうね。
 しかし日本の警察機構、とくに公安部は信用がおけません。ずっと昔から盗聴をしてきた実績と、組織ぐるみの犯罪である故に盗聴を行った者の責任は問わないシステムと、があるのですから。上記の記事は警察関係者の発言として「傍受中に窃盗や詐欺などの別の犯罪に関わる容疑者を発見した場合の対処はどうするか?」というコメントも掲載しています。本来なら傍受の内容は証拠にならないので諦めるというべきでしょうが、たぶん別件で逮捕して自白させるという手を使うでしょう。
 通信傍受法案の成立によって、重要犯罪に盗聴の合法化が図られます。しかし坂本弁護士一家を殺害したオウム教団が、果たして電話で詳細な内容を語ったと思えません。電話を使ったとしても隠語や暗号を使われると、盗聴も無益です。治安当局は、会話の中で掴んだネタを題材にして犯罪の糸口を掴むことに躍起になるでしょう。それこそプライベートな会話の内容を片端から聞き集めて、盗聴の対象を拡げてでも犯罪の気配を探ろうとするはずです。

 治安当局の皆さんにも言い分はおありでしょう。確かに難しい事件が多いですし、マンパワーも限られています。それでも盗聴という卑劣な手段に寄りかかった捜査をして欲しくありません。結果的に治安当局は国民からの信用を落とすだけに終わると思います。口で何と言おうとも、プライバシー保護は守られていると信じる国民は、不在になるでしょう。
 必要なことは、責任明確化と情報公開です。違法な捜査を行った捜査官は氏名を公開した上で処分の対象とすること、組織ぐるみで捜査の失敗を隠さないこと、被害者には謝罪し賠償も行うこと、立件についても結果だけでなく経過をオープンにすること、必要に応じて盗聴内容の全てを関係者に公開すること、ぐらいは守って欲しいと思います。それと法案ではオマケですが、立会人の立場を重要視し、そのアドバイスに忠実に従うことも必要でしょう。
 我々国民も治安当局の在り方はチェックすることにしましょう。チェックしてこそ、我々のプライバシーも守られます。結びとして、もう一度。誰が何と言い訳をしようが、通信傍受は盗聴という犯罪です。法律によって合法化されても犯罪は犯罪です。忘れないようにしましょうね。

99.07.15

補足1
 社民党の保坂展人議員の通話が盗聴されたという事件が話題になっています。議員と新聞記者が通話した内容が、匿名の人物からの投書で明らかになったという事件です。議員は携帯電話を使ったためまず盗聴は不可能で、記者クラブの固定電話が盗聴されたのではないかと騒いでいます。
 しかし時期的なものといい、相手がマスコミというのと、場所が記者クラブというのが、いささか狂言くさいのが気になります。本当に匿名の人物が実在するのなら名乗り出て欲しいと思いますが・・・どうなんでしょうか。

99.07.18

補足2
 米国FBIが、捜査に強力な通信傍受システムが使っていたことが明るみに出て、問題になっているようです。捜査対象になったのは、ハッカー事件4件や麻薬事件3件などで、テロやスパイ関連でも使われたようです。手続きは正当であったようですが、問題は使われたシステムにあるとのことです。
 このシステムは、インターネットのプロバイダーのネットワークに設置し、通信内容と記録を傍受するというもので、1999年10月〜2000年8月の期間に24件以上で使用したそうです。これは捜査対象外の情報も盗み読みできるため、法律家や市民団体が使用しないよう抗議しているそうです。
 この事件の面白いところは、この事実が米国情報公開法に基づいて市民が入手した文書に含まれていたことです。さすがは米国です。日本では、公開対象外にされてしまうことでしょう。

01.05.04
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