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政治の研究No.86
住民投票の行方

 ある街で、新しい住民投票の試みが始まっています。来る7月11日から8月8日まで市民団体が中心となって実施するもので、事実上の世論調査です。自治体に住民投票条例の制定を要請して却下された対抗手段として実施される住民投票ですが、残念ながら実効性のほどは「?」であります。
 まず、国籍や年齢は不問、市外の人でも投票できます。住民でない人の票を集めることに意味があるのでしょうか。また有権者でない人の票も意味がありませんね。何のための住民投票なのでしょうか?? ちょっぴり不安があります。
 つぎに、無記名でも投票できます。ということは何度でも投票できますね。せめて1人1票の縛りがなくては、人気投票などと変わりがありません。原則有記名ということですが、これも住所氏名の摺り合わせや実在の確認はできませんし、市外の人でも可としている以上は確認するつもりもないでしょう。
 そして、常設・臨時の投票所を設置します。常設は良いのですが、臨時はサポーターが購入した投票グッズを使って集めるもので、そこで反対票の抜き取りなど不正が行われない保証はありません。そもそも反対の人には投票用紙を渡さないでしょうね。
 最後に、インターネットでも投票できます。日本語が読める人なら海外からでも投票できるのですね。もう世論調査でさえ無い感じです。市民団体はかなり盛り上がって取り組んでいますが、残念ながら試みだけに終わりそうです。盛り上がりを優先する余りに投票制度を完全に骨抜きにしましたね。どんな開票結果が出ても、行政は相手にしないことでしょう。

 私は、その街で生まれ、20年間育ちました。そこそこ先進的で開放的な街でしたから、今でも誇りに感じています。しかし、いつからか観光都市を看板に掲げ、無意味な公共事業に暴走するようになりました。本来はインフラ整備に回すべき予算を観光施設の建設に回し、あるいは地方債で借金を作ってまで大規模な埋立事業なども行いました。
 4年前、この公共事業天国に審判が下りました。災害対策を放置し、緊急システムの構築を放棄してきた行政のあり方が誤りであったことが、明らかになったのです。これにより財政の圧迫度は増し、住民に不信の判断を突きつけられもしました。しかし選挙では上手に立ち回り、再び公共事業へのめり込んでいます。財政の危機的状況はいっそう増していると言うのに、です。

 今回の住民投票に先だって行われた住民投票条例の誓願署名は、30万人を越える数に上ったそうです。しかし首長も議会も相手にしませんでした。30万人が条例を求めても、求めていない残りの人間の方が多いではないか、と。その通りですね。本来なら、30万人の不信任によって落選するはずの首長も議員も生き残っているのですから。
 あの30万人の署名は、選挙で言えば死票に成りました。今度の住民投票でも集まった票は全て死票に成るでしょう。単なる世論調査に終わるなら、すでにマスメディアが実施しており結果も公表しています。いずれも過半数が反対であるとの結果が出ていますが、それでも首長や議員は現職のままです。不思議ですね。
 日本というのは変わった国だと思います。日頃は政治への関心の高さなどを口にしますが、現実に選挙となると足を運びません。あるいは足を運んでも義理人情を優先して、本当に自分に必要な人物を選んでいないようです。どれだけの有権者が、個々の候補者の経歴や公約を判断理解して投票に臨んでいるのでしょうか。先の世論調査や誓願署名と選挙の結果がリンクしないという事実とも関連がありますね。

 それはともかく。新しい試みですから、住民投票の結果には注目しようと思っています。おそらく圧倒的に賛成が多いという結果に終わるのでしょう。「やるだけやったよね」で終わるのは簡単ですが、それは余りに空しいです。多数の住民を巻き込んで実施される以上、その結果をどう活かすかを考えて欲しいと思います。単なるガス抜きに使ったのでは行政の思うつぼでしょう。
 以前からの疑問なのですが、どうしてリコール運動はしないでしょうか。条例制定案が蹴飛ばされたとき、本当ならリコールを仕掛ける理由になったと思うのです。条例ができなかったから自分たちで住民投票をする、良いことのようでそうでもないような・・・ともかく行方を見守ります。

99.07.30

補足1
 本文で紹介した住民投票の集計結果が出ました。市内有権者とその他に分けて集計したところ、市内有権者は反対19万6,144票,賛成1万1,041票で、その他は反対11万5,354票,賛成4,481票だったということです。先の住民投票条例制定の直接請求では署名31万人分を集めましたが、市内有権者に限っては関心が薄れつつある状況を示したようです。あるいは私製住民投票に疑義を抱いたのかも知れません。この数字の低下は行政を喜ばせることになりそうで、市長は「今後とも市民のより一層の理解と協力を得られるよう努めていきたい」(反対者が減ったのは市民の理解と協力が増えた結果と言いたいようです)とコメントしたそうです(毎日新聞報道)。

99.08.19

補足2
 吉野川可動堰の可否を問う住民投票条例案が、徳島市議会で可決されました。2000年1月に実施し開票となりますが、投票率が50%未満であった場合は開票を行わないことを確認しました。全国でも初めての国家河川事業の是非を問う投票ですが、条件付き開票というのも異例です。やはり議会としては建設を望むと言うことなのでしょう。本文にも書きましたが、住民運動の声が有権者全体の声なのかどうかは重大なポイントです。有権者の関心が薄ければ、おのずと投票率も下がり、意味のない住民投票となるでしょう。
 今後も国家規模の事業見直しを求める住民投票が増えるかどうか、徳島市の住民投票の結果は注目される必要があります。

99.12.20

補足3
 補足2の続報です。1月23日に実施された住民投票は、投票率が過半数に達した上に反対票がその9割を占めるという一方的な結果に成りました。全有権者に対する絶対得票率では50%を若干下回ったものの、民意と議会の認識とが全く正反対であったことが知れました。可動堰推進派だった小池・徳島市長も反対に宗旨替えし、議会も大きく反対に傾く模様です。中山建設大臣も建設中止の方向で動く模様だと伝えられています。
 つまり住民投票はやってみるべきだと言うことですね。神戸市は結果的に空港建設の可否を問う住民投票を行いませんでしたが、行ってみればとても着工の決断が下せなかったかも知れません。見事に既成事実まで持ち込んだ笹山・神戸市長の手腕は見事ですが・・・。

00.02.12
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