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経済の研究No.69
異議あり! 長銀国有化

#N10月23日、日本長期信用銀行(以下、長銀)の経営陣は、金融機能再生緊急措置法(以下、金融再生法)に基づく特別公的管理への適用を申請しました。これに伴い預金保険機構が強制的に長銀株式を取得して完全管理下に置くことになります。預金保険機構の子会社化することであり、正しくは国有化ではありませんが、間接的に国家保有になることから便宜上国有化であるとして議論したいと思います。これに伴い、長銀経営陣は全員退陣し、新たに選任される経営陣によって経営再建が図られることになります。巷ではいろいろ議論が成されていますので、少し検証してみたいと思います。

 そもそも民間会社の国有化は我が国では前例がないように思います。民間会社の国策会社化はありましたが、事実上民間の資産をかすめ取る以上、資本主義・民主主義の原則に反しています。それに反してまで何故国有化しなければ成らないのか、と申しますと日本金融システムの護持という大義名分があるためです。
 我が国の国有企業は、いわゆる三公社(現在のJT,NTT,JR)と郵便の4事業に限定されてきました。いずれの事業も独占又は寡占事業でありながら、充分な収益を上げられませんでしたが、三公社は民営化したことにより民活力を生かした経営効率化を図りつつあります。もともと国有事業は収益の上がる事業であっては成らないはずです。国有企業が収益を上げるということは官業により民業を圧迫することに成ります。だからといって赤字を出すことも許されないことです。どうしても官業である必要があるのなら、所定の国庫支出を受けた上で収支トントンとすることが必要です。
 全ての銀行を国有化するのなら話は別ですが、特定の銀行のみ国有化することは異常事態です。利益を生むことは他の民間銀行を圧迫することになり、赤字を垂れ流すことは税金の無駄遣いであります。まして破綻銀行の国有化は後者となる可能性が高く、長銀国有化を正当化する理由が見つからないままに国有化を決めたことには問題があります。政府・自民党の考えでは、一時国有にして健全化させた上で再び民間に戻すということですが、その健全化ができなかった場合はどうするかという議論はされていません。国有企業が破綻すれば全損失は国税で埋め合わせることになりますから第二の国鉄清算事業団に成る可能があります。それを避けるためには余程の経営のプロを登用しなくては成らないはずですが、その点の配慮も全くありません。まず健全化する可能性は無く、持参金付きでの他行との合併と成るでしょう。
 国有化の話は、破綻銀行への資本注入に反対の民主党と、是が非でも資本注入したい自民党との対決の中で産み落とされた折衷案でした。折衷案ですから国有化の是非について充分な議論が行われたわけではありませんし、金融再生関連法案の国会通過を最優先したために具体的な詰めも行われていません。それまでの3か月を無為に過ごしたことも問題ながら、法案通過直後に閉会してしまった国会には失望を感じます。結局は何も決まらないうちに法が施行され、ドタバタの中で長銀が特別法的管理を申請してしまいました。一体これからどうなるのでしょうか。

%の金融再生法適用申請に基づき、政府は長銀に対し「第36条に基づく特別公的管理の開始」を即日決定しました。これにより100%の株式が強制的に預金保険機構の保有に切り替えられることになります。なぜ100%保有する必要があるのか発表されませんでしたが、問題はその取得方法にもあります。株式会社の合併や清算など重要問題は株主総会において承認を受けなくてはいけませんが、今回の特別公的管理の開始に関しては臨時株主総会が開かれないうちに決められてしまいました。しかも株主は無条件で株主たる地位を奪われます。
 一応、株式は相応の対価で買い取ることになっていますが、その査定は買い主たる政府側の手によるだけで、その内訳の公表がありませんから妥当かどうかも分かりません。買い取り価格が提示されたとしても額面50円には遠く及ばないでしょう。先の山一證券の場合でもそうでしたが、日本の金融機関は政府・大蔵省(今は金融監督庁ですね)の言いなりで株主を全く無視しています。株主としては特別公的管理に移行することに何のメリットもないのですから、むしろ会社清算を求める権利もあるはずです。政府があくまで特別公的管理に移したいので有れば、株式市場でTOB(株式公開買付)を実施して株券を買い集めるべきなのです。
 金融監督庁は23日になって「長銀の自己資本は1,600億円残っているが、有価証券含み損5,000億円を考慮すれば3,400億円の債務超過である」と発表しました。同庁が長銀検査を始めて3か月以上の時間がありましたが、これまでも査定内容が公表されませんでした。都銀に比べて融資先が少ない長銀の資産査定は1か月あれば十分との話もあり、最終報告どころか中間報告も出さなかったことは意味不明です。その過程で政府からは「長銀は債務超過でない」とのコメントが出され、それを否定も肯定もしなかったにも関わらず、国有化が決まったとたんに債務超過を発表しました。政府は早期に発表することで長銀が行き詰まることを怖れたのでしょうが、発表を渋ることによって長銀が崖っぷちにまで追い込まれたことは事実で、原価法計算で資本超過であったのなら早い段階でそう発表するべきでは無かったかと思います。

 長銀の株価が暴落したことと、長銀の格付けが引き下げられたことは、いずれも政府の後手後手に回る対応が原因でした。急に救済合併を発表したかと思うと、なかなか救済先を見つけられない。やっと救済先が決まったら情報開示が遅れて合併の目処が付かない。債務超過という風説が流されても、対抗するだけの明確な情報を開示できない。資金調達が困難になっても明確な手が打てない。資本注入か国有化かの選択でもリーダーシップを発揮できない。国有化と決めても詳細を詰められない。長銀問題を解決できないから株式市場の低迷や貸し渋りを解消できない。
 その「ない」尽くしだった政府の無為無策が長銀の自己資本減少と有価証券含み損を拡大させたのでした。同時に監督官庁である金融監督庁も有効な手を打つことができませんでした。そんな政府や金融監督庁が主体になって果たして長銀の経営健全化が可能であるのか大いに疑問があります。

 異議あり! 先行きの見えない長銀国有化なら、即刻中止するべきだ!
 国有化を強行するのなら、健全化作業ではなく清算作業に取り組め!
 これ以上の無為無策で国税の無駄遣いをされるのはお断りだ!!!

98.10.23

補足1
 ちょっと見落としを補足します。長銀は始めから破綻処理である36条申請をしたのだと誤解していましたが、一応は破綻前処理である37条申請をしたのだそうです。破綻前と認定されれば有価証券含み損の算定は不要で、自己資本相当での買い取りに成るようでありました。破綻となれば金融監督庁の主張する自己資本マイナスと認定されることになります。
 しかし37条の適用のみで申請したのかどうか分かりませんが、それを36条で認定するのはやや強引な気がします。しかも即日受理、即日決定という手法も強引でした。要するに政府決定に異議を挟ませない、というところでしょうか。

98.10.24
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