前頁へ  ホームへ  次頁へ
経済の研究No.191
マンション投資にご用心

 不況の真っ只中ですが、マンションの購入需要は比較的堅調でした。一つには、不況の長期化を見込んで、政策的な低利融資が長期間続くと考えられること、金利が急上昇する局面ではインフレも同時進行すると考えられること、供給過剰気味で割安感が出ていること、などが理由であるとされます。加えて、租税面など政策的に住宅取得を奨励してきた効果もあり、昨年のマンションの購入が進んだ理由であるようです。

■ さすがに供給過剰
 建設会社が手持ち住宅用地の処分を進めるために、急ピッチで住宅の建設を進めています。どれだけ安値処分になるとしても、住宅部分では一定の工賃と利益が見込めるため、争うようにマンションを建設しています。首都圏では、その勢いが止まらずに、前年同月比で見たマンションの新規着工戸数はプラスが続いています。発売戸数では波があるものの、月間で概ね5,000〜10,000戸の範囲にあります。こうしたバラツキがあるのは、不動産会社が若干の販売量調整をしていることと関係があるそうです。しかし、前年同月比を上回る住宅供給が続けば、いずれ調整も難しくなります。
 幸いにして、購入戸数は概ね安定しているようですが、それでも低下傾向にあるのは間違いないそうです。安定していると言っても、新規発売戸数の約2割は定常的に売れ残るそうで、その後に値引き販売をしたとしても、在庫となるマンション戸数は増える一方です。一部は賃貸に回されますが、そのまま塩漬けにされるものも多い現状にあります。マンションの販売価格については、銀行の担保査定の関係があるために、あまり大きな利潤を載せられませんが、塩漬けや値引きされる戸数分のロスは上乗せされるでしょう。供給過剰では、このロスも見逃せません。

 マンションと同様に、一戸建ての供給量も増加しています。一戸建てとは名ばかりで、狭い敷地に幾棟も立てられる首都圏の一戸建ては、割安でも中古では価値が無くなる廉価版住宅が多いです。近頃ではマンション1室並みの低価格で供給するものもあり、マンションと顧客の奪い合いを演じています。首都圏では新規需要があるだけマシですが、郊外では販売を諦める住宅まであり、塩漬け住宅が増えているそうです。
 さらに苦しいのは、賃貸です。バブル期に建設したマンション・一戸建てでは、月々の家賃設定が高く、少し郊外で新築を購入した場合の住宅ローンの方が安くなるケースが目立ち、賃貸契約の手軽さも手伝って、ゴースト化が進んでいるそうです。ある賃貸情報誌によれば、不動産屋に登録されない賃貸住宅が、戸数ベースで登録される賃貸住宅の3倍以上に達しているそうです。賃貸住宅の不良化も進んでおり、家主の収入減少によりメンテナンス費が捻出できず、さらに商品価値が下がるという悪循環に陥っているようです。

■ マンションの投資勧誘
 こうした事態を打開しようと、マンション販売には熱が籠もります。電話帳や様々な名簿を頼りに、無差別な電話勧誘が続けられています。当然ながら、資金力が足りない人に高額なマンションを勧めるケースも増え、2001年に入ってからは住宅金融公庫の融資が受けられない顧客が増加しているそうです。勧誘の空振りが増えているということでもあります。

 やむを得ず、すでに住宅を取得している富裕層を対象にして、マンション投資の勧誘に力を入れる不動産屋も増えています。新築マンションに住みたいという学生や独身者のニーズは多く、ワンルーム型を中心に富裕層に購入させて賃貸化しようというわけです。現在のように、銀行金利が1%に届かない状況では、マンションを購入して賃貸することによるリターンは、魅力です。巧くすれば10年程度で投資額を回収し、その後も家賃収入を得ることができます。いや、できると勧めるわけです。
 しかし、一度賃貸させてしまうと、そのマンションは中古です。周囲で新築マンションができてしまえば、それよりも安値で賃貸させるよりなく、10年以上も同額の家賃が得られる保証はありません。さらに、空室になれば収入は得られず、維持費ばかりが嵩みます。マンション投資の場合は、販売会社の系列の管理会社が管理を行い、諸経費は家主の負担になります。共益費・修繕積立金・家賃収納代行等々の名目で多額の費用を請求され、投資額を回収するという旨味は減殺されます。
 かといって自力でマンション賃貸をするのはリスクが増し、先述のように塩漬けとなっては、全く無意味な投資になります。

 自己資金であればともかく、近頃は住宅ローンの無い投資家にローン購入を勧める業者も増えています。ローンで投資用マンションを購入した場合は、さらに金利分の負担も増し、単純に塩漬けという分けにも行きません。さもベテラン不動産屋という顔で勧誘するものの、免許取得から一度も更新していないような業者も暗躍しています。マンション投資は、自ら借金をしてまで行うものではないでしょう。
 千葉県のO社を相手にしてみましたが、そうしたリスクを十分に説明できませんでした。結局は「当社の扱い物件で3カ月以上空室だったマンションは無い」などと適当な説明しかできず、リスクを説明しないのではなく、説明する知識を持たないが正解であるようです。O社の場合は、創業13年目であるそうですが、そういう会社が10年後の約束をするのも変な話であります。

■ マンション投資のリスク
 マンション投資は、確かに魅力のある投資でしょう。それなりにメンテナンスに手を掛ければ20年、30年は保ちます。しかし、その間に著しい技術革新があると商品価値を失うので、どれだけ早期に投資資金を回収するかが重要です。繰り返しますが、借金をするのは無謀です。
 加えて、そのマンションがいつ完成したかも重要です。新築と称しても、長い間売れ残ったような新築は、人気のない不良在庫である可能性があります。近所でどういうマンションがあるか、すでに着工しているマンションはあるか、提示されている家賃は相場より高くないか、十分に調査する必要があります。自分がそのマンションに住むとして、いくらの家賃なら納得できるかという観点でも良いでしょう。不良在庫でも、割安ならペイする可能性があります。

 マンション投資を勧める企業の場合は、開発業者・販売業者・管理会社が別々であることが一般的です。新聞・雑誌でマンション投資を勧めている広告も多いですが、似たような社名が並んでいることが確認できます。加えて、建設会社も含めてグループ企業であることも多いです。それぞれの業者がグループ会社であれば、リスクが分散されるメリットもなく、ただただ搾取されるだけですので、注意しましょう。
 あるマンション管理会社では、管理組合として集めた修繕積立金を建設会社に流用し、スッカラカンという例がありました。建設会社が倒産してしまい、管理会社も連鎖倒産してしまいました。現在のところ行政が防止策を検討していますが、まだ有効性は分かりません。別のマンション管理会社では、毎年のように共益部分の修繕を繰り返し、必要もない修繕費を徴収した例もあります。あるいは管理人室と称して確保した部屋を社員向けに流用し、その家賃相当分を転嫁した例もあります。メンテが十分でないために住民が逃げ出して、一棟ゴースト化した例もあります。
 とくに投資用として購入したマンションでは、家主の目が行き届きません。管理会社の説明を鵜呑みにしていると、とんでもない事態を招く可能性があります。加えて、賃貸者の落ち度で住居を傷めてしまうこともあります。夜逃げをされるなどして、修繕費が敷金では捻出できないケースも目立ちます。管理会社としては維持費は家主が負担してくれるので支障なく、住民の入れ替わりが激しければ建設業者・開発業者・管理会社のいずれも儲かる仕組みです。注意が必要でしょう。

■ むすび
 とにかく不況です。家賃が継続的に入ると考えるのは楽観に過ぎます。最後は自分が住む覚悟ぐらいが必要かと思います。そうであれば、少し高くともファミリー用を購入してみるべきでしょう。利回りばかりに目が行ってしまうと、どうしても騙される結果になります。販売会社も騙すことが目的では無いでしょうが、ノーリスクで在庫圧縮を勧めたいのが本音ですから、根ほり葉ほり質問をするのがベターです。くれぐれも言いなりで購入しないでください。
 また、近い将来にインフレが訪れる可能性があります。インフレになれば不動産の価値は増大し、ローン返済の負担は減少します。しかし、10年程度の期間で見れば、インフレよりもデフレの方が現実的です。その間に、多額の出費を伴う事態が生じても、投資用マンションの売却額など知れています。余程の余裕資金が確保できる投資家でない限りは、手を出さない方が無難でしょう。

 本来のマンション投資は、リスク軽減の意味でも複数戸の投資用マンションを購入できる人だけができる投資です。

01.11.11

補足1
 ネガティブな意見ばかりを書きました。利回り面で有利であることに、間違いはありません。要するに業者の口先に惑わされず、良い物件を投資物件として入手できるかどうかに鍵があります。正直に言いまして、販売会社や管理会社が同一グループである会社は、どれだけ会計上の云々を言われたとしても、信用してはダメです。経営主体が同じである限り、土壇場での不正はいくらでもあります。
 良い物件であれば、空室もほとんど発生せず、効率的に投資資金を回収することができます。マンションの場合は、自分だけの都合で外装リフォーム等が行えないデメリットがあり、他のオーナーの資力にも影響を受けますが、好景気へ転じていけば問題は少ないでしょう。インフレになれば、物件の資産価値は増しますし、家賃を引き上げることも可能です。ただし、転売は考えない方が無難です。家賃も余程のインフレでないと値上げできないことをご理解ください。結局は、どれだけ必要経費を圧縮して投資資本を回収するかです。

 私は、まだ一戸建てを投資物件とされることをお奨めします。いずれにしても、住宅は火災や水害でも棄損しますし、保険金では十分に充填されません。住宅ローンを組んでしまうと、もしもの災害へのリスクヘッジが全くありません。個人保険金で埋める方法もありますが、その保険金も経費として必要です。繰り返しますが、ローンを組んでまでマンション投資を行う必要は無いと考えます。

01.11.11

補足2
 新築マンションの販売実績低迷が、より鮮明化してきました。10月の首都圏での販売戸数実績は前年同月比24%減少、新規着工戸数は逆に2割増加という厳しい状況です。11月の販売戸数実績は19%減少に留まったそうです。ただし月間契約率は、10月の77.4%から71.8%へ低下し、販売の鈍化が一層際立ち始めています(直近のピークは2000年11月の85%でした)。
 また即日完売などを謳ってきた高級マンションも、実体は3割近いキャンセルに見舞われ、即日完売後に再度募集を掛けるなど厳しい現状であると報道されています。また売れ行きが好調なマンションでも、競争倍率が急速に低下して2倍に達しないケースも増えているそうです。間違っても、売れ残った物件を投資対象とされませんように、ご注意下さい。

01.12.29

補足3
 新築マンションの増加には歯止めが掛からず、地方部では売れ残りが顕著になっているようです。都市部では立地によっては即完売のケースも多いようですが、売り切るのは大変であるようです。これに加えて、中古マンションの流通量も増加気味であるそうで、新築との間で顧客の奪い合いが進んでいます。
 ローンが低利で組めるために依然人気があり、ささやかなブームが続いています。しかし不況からの出口は見えず、長期金利の動向次第が気になるところです。

02.03.09

補足4
 このところマンション市場を牽引してきた大規模・超高層タイプにも陰りが出ているそうです。中規模タイプの不人気から逃れるため、多くのデベロッパーがシフトしたことが原因だそうです。5,000万円を超える高額物件を購入できる富裕層の需要はほぼ満たしたのでしょう。しかし、新規竣工はまだまだ続きます。「新築」を名乗れるのは竣工から1年ぐらいだそうですが、1年を過ぎても「新築」を下ろさないケースも増えているそうです。
 また、同業者間で転売したり、子会社等が購入したりして、見せかけの在庫圧縮を進めているとも聞きます。20戸程度のマンションで期分け分譲しているケースも、苦しい販売実態を示しているそうですので、ご注意下さい。

 近頃では、都心の商業ビルを改装してマンションにする物件も出ているようです。改装コストが嵩むことや、ビルとしての寿命が縮んでいることがありますが、比較的割安で好立地の物件が多いそうです。投資物件であれば、新築に拘る必要は無いかと思います。

02.12.15
前頁へ  ホームへ  次頁へ