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政治の研究No.31
自 由 と 民 主

 故・佐藤栄作元首相の夫人のご発言だったと記憶しています。今の政党政治について「民主党には自由が無く、自由党に民主がない」とコメントしていました。もちろん党の在り方を党名で皮肉ったものです。民主党は大所帯となったものの野党内派閥で行動の自由がありません。対する自由党はワンマン党首のトップダウンで民主(議民主権か?)がありません。とはいえ、民主党には民主が、自由党には自由があると言っていないところがミソでもあります。

 自由民主党(以下、自民党)には自由も民主もありますか? という問いに応えられなければ、目クソが耳クソを笑うと成ってしまいます。先頃の総裁選挙では派閥を離脱して立候補した梶山氏が100名以上の支持を集めました。旧派閥の論理で縛られない議員が増えたと言うことで自由は増したかも知れません。また派閥横断的な政策研究会というのが乱立して、その勢力を党執行部が無視できなくなりました。彼らの意見を取り込まなくては政策が通らなく成っています。つまり民主も増したかも知れません。小渕総裁が閣僚を選ぶに当たって、総裁枠と称した派閥外ポストを獲得しました。これも党内で自由や民主が増した証左となるかも知れません。しかし民主党勢力の強大化という外圧もあり、一時的な自由と民主であるかも知れません。
 しかし党内で自由度が高まるということは、タガが弛み結束力が弱まるということです。強力なリーダーシップを奮う人物が不在で、個々人の好き放題を許す結果にも成っています。金融機関の救済問題で議論をかき回したり、海外で放言をしたり、と問題議員が出始めています。これら議員に「注意」以上の処罰を加えられない執行部は弱腰と批判されることでしょう。かつては党議党則に違反する行動をしたものは即刻除名処分でありました。党籍剥奪となれば自派を率いることもできません。新党結成というのもどうかと思います。しかし問題議員が率いるグループを処分できない理由が現在の自民党にはあります。先の参議院選挙の敗北と民主党の躍進です。
 現在のところ、10人単位の離反者が出ると自民党は衆議院でも過半数割れを生じます。20人単位の本会議欠席でも自民党案は否決される危険があります。是が非でも野党側へ所属議員を追いやりたくないのです。マスコミ各社の世論調査によれば、自民党支持者と民主党支持者は、ほぼ同率であるそうです。現職の強みを活かしたとしても自民党225議席程度が限界と言われ、地滑り効果を生じれば200議席を切る危険もあるそうです。そんな情勢ですから、野党が提出する内閣不信任案に同調しないように反主流派を取り込む必要を生じています。逆に言えば、10人単位のグループが自民党の主導権を握る余地があります。多数決を建前とすれば多数派にこそパワーがありますが、現状では少数派にこそ多数派を動かすパワーがあることに成ります。吉田内閣時代の鳩山派、福田・大平内閣時代の三木派、自社さ連合時代のさきがけ、などが同様の存在でした。衆議院を解散して反主流派の公認はせず、主流派だけで過半数を制すれば政権は安定しますが、これが難しいのが日本の政治でもあります。

 しかし政争を繰り広げる自由、法案を通さない自由、が罷り通る国会では困ります。小田原評定的な党内民主でも困ります。ともかく大人の政治を行い、現在の日本が直面している危機的状況の打開を図って欲しいものだと考えています。

98.08.20
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