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政治の研究No.90
萬国共通語待望論

 ポーランド生まれの眼科医ザメンホフは、度々周辺の強国に踏み荒らされる祖国を見て、国家間の対立は言語の不統一に問題があると考えました。そこで彼は萬国共通語として新言語エスペラント語を創設し、普及に務めました。
 しかし基礎語が1,900語余りと限定的であることから実用の域には達せず、世界100カ国以上に多数の賛同者を集めながらも、萬国共通語の座は与えられていません。熱心な普及賛同者がいる一方で、多数の拒否者があるという事実もあります。その最たる理由は、賛同者の多くが民族解放・反差別・平和思想など思想的結束を強めており、諸国政府から危険視されていることです。
 とはいえ、エスペラント言語は極めて価値の高い言語体系です。使う文字は28の基本アルファベットのみで、ゲルマン・ラテンなどヨーロッパの基本言語から共通性の高いものを中心に抽出し、時性変化なども例外を認めず普遍的、子母音の読みも例外を認めず素直です。非常に学びやすい言語体系だといえます。

 言語の不統一が戦争を招いてきたと言うことは、一面で真理でしょう。しかし同言語を用いていても、国家が違えば戦争は行われるのであります。言語が統一されれば、文化や慣習を共有することも可能になり、互いを理解して誤解を無くす方向に進むであろうことは期待されます。
 また今は情報社会です。情報がネットを飛び交う時代に、互いが使う文字さえ異なり、文法ルールが異なれば、誤解を生むばかりです。コンピュータ言語は英語を基調とした言語に統一されましたが、まだまだ越えがたい壁があります。
 国際会議などにおいては通訳者が介在しますが、通訳者の意訳が挟まったり細かいニュアンスが伝わらなかったり、と問題があります。また通訳者を使うと多大なコストを要します。町中では簡易翻訳機が使われますが、その性能は機械翻訳どまりで日常会話の用は為しません。近頃日独米英語を1〜2秒の遅れでオンサイト翻訳が可能な機械が開発されたと聞きますが、やはりコストの問題は解決しません。

 いずれは地球の国家も集約されていく必要が出ると思います。人口問題、食糧問題、災害問題など1国家単位では対応できない諸問題が出てきます。いつまでも現在の国家という枠組みに閉じこもるだけでは、立ち行かない時代が来ます。その場合、やはり言語の壁が大きく立ちふさがるでしょう。
 いま現実的な事例としてEUがあります。経済での統一が図られつつある段階ですが、遠からず政治の統一も図られるでしょう。その場合、少なくともEU全域で共有する共通語が求められます。英語・仏語・独語あたりを核にしたエスペラント語のような新言語になると思われます。通貨問題と同様に各国の言語は残し、政治や経済の場では新言語を使い、子供達の教育にも取り組んでいくような長期的な展望が持たれるでしょう。
 EUの新言語が定着すれば、米国を除く英語圏・仏語圏・西語圏などが新言語に倣うでしょう。あとは露語圏が加われば世界最大の言語体系に成ります。東南アジア諸国も何らかの統一言語を模索することでしょう。経済上の優位性を選択してEU新言語に同調するかも知れません。

 さて、日本ではどうなるでしょうか。英語教育をEU新言語に切り替えるでしょうか。あるいは米国に義理立てして米語を教え続けるかも知れません。しかしEU新言語の方が、学生には受け入れられるでしょう。動詞の活用や、形容詞・副詞の変化などに例外がなくなり、経験則に従った複雑な発音からも解放されます。おかしなスラングや古語などに振り回される必要もなくなり、ずっと言語学習が体系的に理解しやすいものになると思います。
 かくいう私は、英語が苦手です。不規則活用や不規則変化に悩まされた口です。また米国人が日本で英語を振り回すことに抵抗感を感じていることも一因です。しかしEUが分かりやすい新言語を開発・導入してくれるなら歓迎しましょう。日本語には日本語の良さがあり伝統があります。しかし、そればかりに目がいくと世界全体の動きに出遅れます。日本語は国語研究者に任せて新言語に乗り換える方が、後世の日本人にとっても得だと思うのです。
 複数の言語を覚えるためだけに無用な知識と時間を費やしてしまいます。複数の言語が使えると言うだけでエリートだと信じられています。そんな時代はそろそろ終わりにしてみませんか。ポン太は、有用なる萬国共通語の出現と普及を待望します。

99.08.08
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