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経済の研究No.76
消費税還元セール、あれこれ

 政府が景気対策の方法論に終始し、有効な戦略を打ち出せない状況が続いています。消費税減税政治の研究第48回を参照)や商品券支給構想同第41回)の是非を議論している間に、大手スーパーが消費税還元セールで消費マインドを引き出す実験をしました。現在の段階では、まずまず成功であったようです。

 同セールを打ち出したのは、イトーヨーカ堂でした。10月に横浜ベイスターズの優勝記念セールを実施した同社は、セールをすれば集客も売上げも上がることを再認識したそうです。現在、経済が沈滞気味の北海道で試験的に消費税還元セールを6日間実施て盛況を収めたことに自信を深め、11月11日から5日間限定の全国セールに踏み切ったものです。この情報を受けてジャスコが追随し、ダイエーも手法は違うものの、同日からセールを実施しました。結論から言えば大成功です。この成功にあわてたスーパー各社は後追いセールを次々に打ち出しています。
 消費税還元を謳いますが、本当は消費税相当額にあたる5%の還元、つまり単なる5%割引セールです。しかし、ネーミングの冴えと消費者のニーズを先取りした企画力とで、確実な成果を積み上げました。イトーヨーカ堂はセブンイレブンを含むグループ11社で実施し、期間中の実績は、来客数が4〜5割増、売上げが4〜6割増だったそうです(本体各店の実績)。課税前の合計金額から5%値引きしただけで、実際は課税をしていましたが、消費者も承知の上です。日程・手法とも同じにしたジャスコは、売上げが4〜5割増とイトーヨーカ堂をやや下回りましたが、成功は大きかったようです。
 ダイエーは10日間開催と欲張ったことが災いして、1日当たりの来客数と売上げは3割増に留まった見込みです。同社の場合は使い勝手の悪さがあり、消費者の理解を集められなかったようです。第1に1万円ごとに500円の金券で返したこと、に問題があります。複数枚のレシートやグループ他店のレシートを合算するようにしましたが、1回の引き替え毎に端数が切り捨てられたことと、サービスカウンターへレシートを持ち込む手間があったことで敬遠されました。また金券は商品券と同様に使い勝手の悪いものです。第2に期間の設定の拙さ、があります。最終日の20日は金曜日でした。他社は日曜日でセールを打ち切り、休日の駆け込み需要を集めましたが、ダイエーは最終日の盛り上がりに欠けたようです。第3に社長が表向き良いコメントをしなかったこと、があります。他社のセールに批判的だったという噂が流されたほどでしたので、従業員の士気も不足気味に感じました(福岡、東京ともに)。

 ところで5%は誰が負担するのでしょうか。国が負担するわけには行きませんから、各社の負担かと考えましたが、怪しいようです。今回のセールは突発的なものですが、セールには違いありません。すでに卸業者には「セール期間中の仕入れ分は、5%値引きして貰いたい」などと協力の強要をしていると聞こえてきます。消費者の味方を気取った割にはセコい話です。不良在庫もかなり捌けたでありましょうから、しわ寄せを納入業者のみに強いるのは不当でしょう。とくに今回の急なセールは、打ち出したスーパー側の責任のはずですが・・・これからのボーナス商戦、歳末商戦を控えているだけに、一方的に新たな協力要請を求めるかも知れないとも聞いています(1円納入とかはダメですよ)。
 また話は違いますが、自民党税制調査会が「消費税還元の看板は不当である」とコメントしたそうです。税を商売に使うと問題だとか、消費者に誤認させるのは宜しくないとか、虚偽・誇大広告だとか、本質的でない意見が出されたようです。予め打診を受けたという公正取引委員会は、5%値引きが本物なら問題がないと回答したそうです。自分達で景気回復に良案を打ち出せないにも関わらず、他人のアイデアには横やりを入れるとは・・・やはり政治家や高級官僚は現場、国民生活をご存じ無い、ですね。

 ともあれ、無事に消費税還元セールは終わり、まずまず成功を収めたことは良いことです。とくにコメや酒、冷凍食品など買いだめ品を消費者が仕入れたようですが、家電など高額商品も売れてホクホクではないでしょうか。セールに便乗し損なった競合スーパーや個人商店は売上げ低迷を嘆いたと言いますが、これからセールをすれば取り返せるかも知れませんね。イトーヨーカ堂の話では、セール後の客足はセール前よりも多く、企業努力が評価された・・・と見ているようです。年内にもう一度ぐらいやって欲しいですね。

98.11.23

補足1
 今回のセールは体力のある大手小売りが、弱小業者を相手に体力勝負を仕掛けたと見ることができます。本文中ではダイエーの失策を指摘していますが、ダイエーとしての精一杯が今回の結果だったのかも知れません。大手同士でも体力勝負となれば財務体質の悪いところは淘汰されることになります。今回着けてしまったミソを挽回できるようなアイデアをダイエーや、これから追随するスーパーが打ち出していくことを期待します。また、百貨店ももう少し努力をして欲しいところですね。小売業界全体が元気になれば、逃げた消費者や消費マインドも帰ってくるかも知れません。さあ、年末だ、勝負!勝負!

98.11.23

補足2
 ダイエーのセールは「生活応援セール」という名前です。前半は30%、後半は40%の売上げ増だったことを発表しました。またその後の三連休の売上げも二桁増と若干好調だったと発表しています。とくにイトーヨーカ堂がセールを見送った北海道と、競合他社の少ない中国・四国地方での売上げが大きかったと言うことです。またお歳暮を早くに申し込んだ場合に優遇する「早期優待特典」は一定の効果を上げ、前年比170%増の売上げを記録しているそうです。やはり工夫次第でまだまだ購買力を掘り起こせるということでしょうか。

98.11.24

補足3
 今回は後手に回ったジャスコが「生活防衛キャンペーン」を展開します。11月28日〜12月6日の9日間に5,000円の買い物毎に1,000円の買物割引券を配布する。割引券は12月7日から12月31日の買い物に使用でき、3,000円につき1,000円の割引に成る。合わせて8,000円の商品が7,000円で買える計算です。割引率は12.5%とかなりお得です。ジャスコ側にも二度来店させるメリットがあります。しかも二度ともお客さまには喜ばれます。見事に歳末セールを乗り切れるでしょうか・・・?

98.11.26

補足4
 値引き合戦が本格化してきました。イトーヨーカ堂は8日から13日まで7%割引セールを実施します。回数と割引率での競争になると、スーパー各社の体力勝負になるだけに、歓迎ばかりはできません。ところでイトーヨーカ堂・・・高額商品まで7%割り引いても利益は確保できるのでしょうか。できるのであれば今まで随分と高い買い物をさせてきたことになります。もちろん卸業者などににも販売協力という名の下に損失負担をさせるのだと思いますが。

98.12.08

補足5
 本文中「5%の割引」とありますが、正しくは「5.25%の割引」だというご指摘を読者から受けました。同様に「7%の割引」は「7.35%の割引」です。ご指摘くださったのはイトーヨーカ堂の生鮮食品担当者の方(女性)でした。ちなみに生鮮食品は粗利が少ないそうで、売上げが6割ほど伸びないと大痛手だそうです。少なくとも生鮮食品売場では卸を泣かせていないので、大変だというコメントをいただきました。
 ところで年末年始も値引き合戦が続いています。イトーヨーカ堂は年始に衣料品20%引きセールを敢行(1月6日まで)し、セブンイレブンは正月3ヶ日の食品全品10%引き(おでんを含む)を展開しました。ダイエーは5%の商品券バックに加えて、一部店舗で10%バックを実施しました。さらにローソンでは総額1万円お得な新春クーポンを配布しています。大手同士の値引き合戦が熾烈に成っています。ちなみにダイエーは全店で元日から営業を開始し、ついに掟破りの総力戦を始めています。従業員は大変なことでしょう。

99.01.04
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