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経済の研究No.77
悪用が進む信用保証協会

 信用保証協会(以下、協会)については、第45回やがて地銀は要らなくなる」の補足でご紹介しました。現在のところ、政府公認で協会制度が悪用されていることはご存じでしょうか。週刊エコノミストの11月24日号が特集記事を組んでいますが、以前からチラホラと話が出ています。

 今年の10月1日から中小企業金融安定化特別保証制度が始まりました。銀行が貸し渋るようになって資金調達に苦労する中小企業の救済を目的とし、信用保証協会が債務保証して金融機関から積極的に融資が受けられるようにするという制度です。とくに融資枠の拡大が特徴です。まず従来は有担保融資の上限が2億円と無担保融資の上限が3,500万円の合計2億3,500万円が上限でした。このうち無担保融資の上限を5,000万円に引き上げた上で、別枠として無担保融資枠を5,000万円追加するものです。単純な話として無担保融資枠が3倍に拡がった計算です。すでにご紹介しましたように、信用保証協会の債務保証には保証手数料が必要で、健全企業には縁のないものです。どちらかというと資金難に喘ぎ続けている企業が融資を受けるために細々と利用してきた制度です。
 今回の措置は、保証枠20兆円で実施期間2000年3月末まで特別に実施されるもので、金融機関の貸し渋りにあっている企業に保証を付けてくれるものです。貸し渋りの認定を受ける必要がありますが、現在はキャンペーン実施中のため「担保評価額が目減りし、新たな資金調達が困難になった」「新規取引では必要額を貸して貰えない」と貸し渋りを受けたことを申告すれば認定(中小企業信用保険法第2条第3項第2号に基づく認定)を受けることができるそうです。1週間ほど形式的な審査があるものの、過度の債務超過でなければ認定を受けられると言います。現在のところ、都内で認定が受けられなかったのは1%以下だそうです。
 認定書を持参すれば協会の債務保証を受け、晴れて金融機関から新規融資を受けることができます。この際、金融機関は貸し倒れの心配がないために喜んで融資をしてくれるそうです。さてここで問題が発生します。取引金融機関にうっかりと新規融資を申請してしまうと、新規融資のうちから既融資分を返済させられることがあるそうです。既融資分は保証がないためですが、本来の趣旨に反した行動であるのは言うまでもありません。運転資金に詰まった取引先にも制度の利用を進める金融機関の担当者がいると聞いています。結局のところ金融機関救済にしか成っていません。もちろん知恵のある経営者は日頃取引のない金融機関に融資を求めます。保証付きならどこでも貸してくれるためです。

 しかし会社を潰す予定でも無い限りは、新たな融資を受けることが可能でも、返済が負担です。有利子負債は膨みますし、金利はむしろ割高です。よほど経営のテコ入れをしなくては行き詰まるのも時間の問題です。そもそも本当に貸し渋りなのか、という問題があります。いくら金融機関がケチでも、長年の取引先を切る以上はそれなりの理由があるはずです。倒産の時間稼ぎのための資金を融通する金融機関はありません。しかし貸し渋りを受けたと主張すれば(多分に見解の相違はありますが)、例え運転資金や当座のつなぎ資金として借りるのであっても融資が受けられることになります。遠からず事業が行き詰まることを知って融資を受けに来る者が全体の1%以下とは信じられない数字です。その1%でさえも書類を再度作成してパスしている可能性があり、ほとんど善意・悪意を問わず信用を供与していると思われます。
 これはつまり遠からず協会が破綻することを意味します。保証付き債権を持つ金融機関は次々に協会へ債務履行を迫りますから、融資先の破綻が続くようであれば、協会の財源に巨大な穴が開きます。今回の措置は政府の政策ですから、赤字の補填は国税で成されるのでしょう。金融機関はリスク無く融資でき、協会も破綻の心配がない、そして借り手も責任を問われない・・・こんないい加減な政策が実施されています。

 どこに問題があるか、といえば協会の審査能力の欠如と、金融機関のモラルの欠如です。たとえ貸し渋りの認定を受けてきても怪しい案件には融資しないだけの審査能力を、協会は当然に持つべきです。また協会の保証付き案件でも、明らかに破綻しそうな事業者には金を貸さないモラルを、金融機関は当然に持つべきです。そのいずれも欠如した現状でじゃぶじゃぶの融資を実施しようというのだから問題です。さらに言えば、金融機関の無保証債権を肩代わりしてあげるという奇特な政策が国税の裏付けで成されることを、行政も恥じるべきです。貸し渋りの明確な定義も無く、見切り発車した責任という意味では、行政の責任が一番に重いでしょう。
 現状を打開するためには、協会の保証は総融資額の50%を限度とするなど新方式に改めることです。リスクを金融機関と分け合う形にするなら、金融機関も厳密な審査をするでしょうし、協会が安易な審査をしていれば批判をするでしょう。誰もリスクを負うことなく融資をするという感覚が・・・何とも理解できないのです。また黒字倒産は問題だと言われていますが、なぜ中小企業は救済されて大手企業は救済されないのでしょうか。必要資金の多寡では論じられない問題だと思います。

98.11.23

補足1
 中小企業の経営者の皆様からの厳しいご意見をお待ちしています。

98.11.23

補足2
 建設省は、金融機関の貸し渋りで資金繰りが厳しい中小・中堅建設業者を支援する債務保証制度の創設を打ち出しました。これに併せて元請け業者が倒産した場合の下請け業者への保護策も講じるといいます。JamJam政治記事から引用しますと、既にある「建設業振興基金」に国費30億円を注入し、総額60億円の新基金を創設し、最大で2,000億円の債務保証を行うそうです。基金60億円は余りにも小さい気がするのは私だけでしょうか。基金に無尽蔵の国費が費やされないことを祈ります。

98.11.23

補足3
 信用保証協会の悪用については、金融ビジネスの1月号に特集記事が出ていました。ご関心のある方は書店でご覧下さい。一方的に無保証債務を有保証債務に切り替えることは、保証協会の保証契約約定書第3条に違反するので、保証の対象外になるそうです。ただし実際に債務者が破綻してしまえば立証は難しいので、実効性は不明です。ちなみに無担保保証の上限手数料は、融資額の0.65%です。今の低金利下では決して安いものではありません。

98.11.26

補足4
 横浜銀行は信用保証協会の保証枠を積極的に利用し、自行融資を積極的に保証付き融資に振り替えるよう各支店に通達する内部文書を作成していたことが明らかになりました。これが事実であれば、明かな制度悪用ですから罰則の対象に成ります。補足3の保証契約約定書第3条違反です。金融監督庁は事実関係を調査するために、銀行法第24条に基づく報告を命じました。

98.12.07

補足5
#N3月まで使う予定だった20兆円の保証枠は、わずか3.5か月後の1999年1月、15兆円に達しました。累積貸出枠の伸びが縮小しているとはいえ20兆円では不足なため、政府は3月18日、保証枠を30兆円に拡げると発表しました。景気回復はまだまだ難しく、中小企業の資金需要は一層膨らむものと見られます。合わせて公共事業の上期発注量を上乗せし15兆円とすることも発表しました。相変わらずバラマキで景気は回復するとの強気の姿勢を続けています。

98.12.07

補足6
 補足5から新しい動きです。10月22日、保証枠を30兆円まで拡大すると正式発表し、その期間も1年延長して2001年3月までとするそうです。貸し渋りの状況は改善しているものの十分に民間金融機関が対応できていないとしています。しかし、実質的に融資を行うのは民間金融機関であることに違いはなく、リスクを政府が肩代わってまで、高い保険料を上乗せ融資させるのはいかがなものでしょうか。
 9月末時点で枠を17.5億円まで順調に消化しており、今回の10兆円積み増し分も早ければ2000年秋までに使い果たしそうな動きです。すでに保証融資分の数%が焦げ付き始めており、制度への批判が強まっている関係から、融資条件を厳格化するとしていますが、その実効の程は・・・??

99.11.06

補足7
 補足6の補足です。特別信用保証を付けた融資の焦げ付きについて、中間報告が出ています。8月は月間で743件の147億円、10月は1,089件の193億円と増加傾向を示し、10月までに確定した焦げ付き額は862億円に上っているそうです。ただしこれは破綻が確定し、信用保証協会が代位弁済を行った実績による数字です。このため、上記補足では数%という表記をしています。
 返済延滞など破綻予備軍がかなり背後にあると見られる上に、11月と12月は昨年申し込みが殺到した時期から1年目を迎えるため、さらに大幅に膨れそうだとのことです。早期のデータ集計と問題への対策検討が必要です。

 また直接の因果関係はありませんが、中小企業金融公庫や住宅公庫など9つの政府系金融機関の不良債権額は6か月延滞で1兆2,300億円、3か月延滞で1兆8,090億円と発表されており、政府系金融機関全体の不健全化が進んでいる実体が分かります。

99.12.31

補足8
 国が鷹揚に構えていると思っていましたが、国が想定している事故率は10%(過去6年間平均では2%未満)までなのだそうです。つまり最大3兆円までは捨てる覚悟が出来ているということです。
 具体的には、協会の代位弁済額のうち80%は中小企業信用保証公庫の負担で、10%を国が保証(通常は2%)、残る10%を協会が回収する義務を負います。つまり、国が3兆円捨てるなら、協会も3兆円捨てる覚悟が必要です。
 もちろん協会の負担が大きく成れば、支援金の形で補助するなどあるのでしょうが、大きい負担ですね。貸し渋りを回避する目的で導入されただけに、無碍に拒絶できず、だからといって無秩序に貸し出せば、審査が甘いと叩かれるのだとか・・・。

00.01.09

補足9
 信用保証協会による代位弁済額が急増しているそうです。1999年12月以降、毎月の前年同月比伸び率が50%以上も増え(件数ベース)、2000年3月には100%を越しました。この傾向は現在までの続いており、一年の返済猶予期限を終えたとたんに息の根が止まるケースが大部分を越えるとされています。特別保証で調達した資金は別の借金返済に充てられ、それを事業再建に使わせるという本来の使途に使えていないことも浮き彫りになっています。
 現在までに、暴力団系の休眠企業に融資したケースが多々含まれるなども明らかになり、保証協会側が呆れるほどに銀行の審査が杜撰であったケースも目立つようです。保証協会の代位弁済原資は、80%を中小企業総合事業団に再保険した保険金、20%を協会の積み立て基金の取り崩しで賄うが、いずれも国の特別弁済枠から補填を受けることに成っています。
 結局は丸儲けした金融機関の一人勝ち、税金による金融機関救済の構図が際だってしまいました。

00.09.10

補足10
 特別保証制度は2001年3月末を以て終了しました。3月に2兆円弱の駆け込み需要があったものの、総枠の30兆円は1兆円強を使い余した様子です。導入当初の1998年末は10兆円以上の申請があったものの、その後は毎月5,000〜9,000億円のペースで推移しました。
 懸念された肩代わり比率ですが1999年夏から一本調子で延びを見せ、3月末で2.2%(金額ベースで6,300億円)に達した模様です。金融機関の救済にも出動したためか、政府予想の10%を大きく下回っていますが、まだまだ返済途上にある中小企業の破綻が相次げば、さらに比率は上昇する可能性があります。
 返済期限になると同時に破綻した企業も目立ち、存続不可能な企業の存続に手を貸したという指摘が強いです。本文で述べたように、闇世界に流れた資金も少なくなく追跡不能だと聞いています。生き残った融資企業が、今後健全に成長してくれなくては、保証制度の意義が失われるため、早期の景気回復策も打ち出して欲しいものです。

01.04.22
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