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経済の研究No.193
進まぬ金融機関差別化

 再延期論も出ていたペイオフ解禁ですが、ようやく4月に解禁になります。弱小金融機関の淘汰は十分に進まず、経営不振金融機関の整理も道半ばです。ペイオフに関しては、第98回ペイオフ談義」にコラムを書きました。もともと1991年頃から議論があったにも関わらず、10年もの歳月を経て導入されることになります。今後は預金者による厳しい金融機関選別が進むはずですが、せいぜい複数金融機関への預金分散化に留まる模様です。

■ 預金金利0.1%以下
 普通預金の年利が0.04%という超低金利が続いています。金融機関が続々と破綻しつつある中で、預金者に破綻リスクを負わせる状況において、破綻に見合うリターンは全くありません。もはや銀行預金はハイリスク・ノーリターンの金融商品です。カードローンなど個人貸出で10%近い金利を設定しているにも関わらず、この歪な低金利です。
 一昔前には、年利が6%を越えた金融商品もありました。銀行の定期預金(3年物)で0.15%前後ですから、当時の9日分の利子に相当します。その惨状は明かです。バブルによる巨大なツケを処理するために、政策的に金利引き下げを容認してきましたが、緊急避難のままに常態化しています。年々進捗するはずの不良債権処理は、次々に積み上がる新しい不良債権によって相殺されています。顧客サービスや新規分野開拓に向けられるべき費用も、全て後ろ向きな用途に費消されています。

 金融当局は、もっと積極的に弱小金融機関の統廃合、経営不振金融機関の退場を求めるべきであったと思います。検査や勧告の強化で一定の成果を上げて来ましたが、政策的な低金利によって統廃合や退場が遅れたことは否めません。ペイオフまでに整理を付けるはずであった金融不安の解消は、全く進んでいません。確かに、大手銀行は、4大グループに再編されました。地方銀行の合併や提携もそれなりに進んでいます。信用組合や信用金庫の淘汰も一定数あります。数は減少したものの、破綻リスクは減少せず、体質の改善も進んでいません。
 ペイオフが導入された後、預金金利はどうなるのでしょうか。いつまでも今の低金利のまま据え置きという話は無いでしょう。預金者から資金を預かって運用し利益を上げる以上は、その利益のうち正当な対価を支払う義務があります。金融機関は互助組織でも共済組織でもない、立派な営利企業なのですから。現在の低金利は、あくまで公器としての性格を持つ故に認められた例外措置であり、原則を忘れることは許されません。

■ リスク管理を明確に
 言うまでもなく、重要なことはリスク管理です。バブル時代は、このリスク管理が全く機能しませんでした。不幸なことに、バブル前にも同様の失敗を繰り返し、バブル後にも同じ轍を踏んでいます。直近では、ITブームがありました。護送船団方式であった日本行政は、大きな転換期を迎えています。問題企業の救済にしても、企業を助けるのではなく、国民を助けるかどうかで判断がされるようになっています。行政が積極的に不良企業の撤退を命じるようになったので、これは当然の帰結でしょう。
 そうであれば、金融機関もリスクに応じた融資姿勢を明確にするべきです。単純に、これまでの取引先企業をリスクに応じて分類するだけでなく、新規融資や追加融資をどう行っていくかについても、リスク管理が必要です。借入金が多いかどうかでなく、返済能力があるかどうかを見る必要があります。従来の業績の多寡ではなく、今後の事業性を見る必要があります。他の金融機関の動向に合わせるのでなく、自ら市場を分析していく必要があります。

 ようやく企業の倒産リスクに応じた貸出金利の設定に動き始めています。破綻した長銀の負債を切り離し、ドライな経営で名を上げた新生銀行に刺激された面もあるのでしょう。これまでメインであることを理由に際限ない下支えをしてきた企業に対しても、厳しい要求を突きつけるようになっています。金融機関は次々に不良融資先の企業に退場を求めていますが、自らも同じ列に並ぶギリギリまで追いつめられています。
 単純に経営再建計画を提出させ、その良否だけで融資判断を行うのは意味がありません。債券にハイリスクのジャンク債があるように、金利に相応の格差を付けることで、可能な限り融資を続けるべきだと思います。過大な金利負担では元の黙阿弥ですが、企業に抜本的な解決を迫る方便にもなるでしょう。
 現在、優良な貸出先が無いことを理由に、多くの資金を遊ばせている金融機関が増えています。消費者金融と同様に、少しリスクのある相手にでもリスク織り込み済みで融資する姿勢が要求されます。蛇口を絞れば汚れた水は減るでしょう。しかし、水道管は汚れた水で満たされ、いつまで待っても蛇口から綺麗な水が出てくることはありません。少し汚れた水は蛇口から出す手だてをした上で、根本から汚れた水を浄化する努力をし、水道管ともども綺麗な水で満たされる努力をするべきです。

■ 定着しない口座維持手数料
 外資系銀行に刺激されて、ネット銀行を中心に、口座維持手数料を導入した金融機関が出てきました。中には月間1,050円(普通預金で同額の金利を得るには、実に3,150万円の預金が必要!なのです)という高額の金利を提示した銀行もありましたが、結局は大幅な引き下げを余儀なくされています。あるいは試行的であったはずの無料キャンペーンの期間を延長したり、免除条件を緩和したりしています。つまるところ、利用者である預金者が、高い手数料を支払ってまで口座を維持する必要性を認識しなかったということにあります。
 例えば、トラベラーズチェックの手数料が無料であるとか、貸金庫のレンタル料金が割引になるとか、送金手数料が半額になるとか、時間外手数料のキャッシュバックがあるとか、本来の手数料利益を削る条件を提示しても、預金者にとって維持手数料以上のメリットが無かったと言うことになります。窓口で渡される景品の多寡でもなく、純粋に利益を上げられるかどうか、高い預金金利を支払う能力があるかどうか、破綻してペイオフの対象となるかどうか、そういう条件で金融機関の選別が進んでいることも理由です。

 雨後の竹の子のごとく誕生したネット証券も、激しい手数料割引競争を繰り広げた結果、年間の口座維持手数料を徴収しない証券会社まで出ています。むしろ有料とする証券会社の方が少数派です。日本では「サービスが無料」という考えがあるためとする意見もありますが、有料でも十分な顧客を確保できているネット企業が多くあるなかで、負け犬の遠吠えでしかありません。
 近頃では、休日の預入・引出が無料であるとか、数多くのコンビニで24時間利用できるとか、時間外手数料等が一定回数無料であるとか、純粋な利便性で金融機関の選別が進んでいるようです。ネットバンキングの有無、振込手数料のディスカウント、総合金融サービスのリアルタイム提供、顧客ポートフォリオの一元管理もあります。付加的なサービスを提供すれば、少しばかり制約条件があっても、利用者は手数料を支払って利用しています。

■ むすび
 こうしたサービスを強化し、多くの顧客を囲い込むためには、最終的な利益を上げる体質を作ることです。もはや宣伝が巧いとかどうとかでなく、不良債権処理を解決し、他行よりも高い預金金利を提示し、総合的に便利なサービスを提供することです。少しばかりの手数料を徴収しても、それに見合うか、それ以上のリターンを提供できる金融機関が注目され、多くの顧客を集め、多くの利用を持ち、多くの利益を得ることができます。
 ネット証券やネットバンクは、良い先例となることでしょう。夜間に預金を引き出したという理由だけで105円を徴収する金融機関ですが、25万円を1年間普通預金した金利よりも高いのは・・どう考えても異常です。それで平然としていられる非常識な神経を正し、リスクに応じた融資姿勢を明確にするべきです。

 多くの預金を遊ばせることなく、効率的に利益を上げて預金者や株主に還元できる体質を、早くに作り出して欲しいです。合わせてサービスを充実し、純粋に顧客のためになるサービスを提供できるよう努力が必要です。そして、店舗削減・人員削減までしても実現が不可能であれば、さっさと退場するべきです。

02.01.26

補足1
 このところ国債を大量に購入し、国債の金利で食いつないでいる金融機関が多くありました。ところが、カントリー・シーリング(第43回参照)の相次ぐ引き下げにより、国債保有のリスクが高まっています。新BIS規制に従えば、日本国債がハイリスク債券に分類される懸念が高まってきたためです。
 それに加えて、日本国債の利回りも低下しています。これまでは10年国債などでまずまずの利回りを確保していましたが、次々に償還期限を迎えてきた結果、全体としての運用利回りが採算の合わない水準へ低下しています。これに加えて、今後に金融不安が拡大するなどで金利上昇局面を迎えれば、国債は巨額の評価損を抱えることになり、ようやく大量保有のリスクを意識し始めたということでしょうか。
 また銀行が預金残高に応じて支払う預金保険機構への保険料(0.084%)の負担も無視できず、国債利回りが下がると逆ざや投資になります。今の預金者金利0.04%が、預金保険機構への保険料の1/2というのも違和感がありますね。早く健全な時代を迎えられることを願います。

02.01.26

補足2
 口座維持手数料で先行したはずのUFJ銀行は、無料キャンペーンの期間をさらに延長しました。手数料の導入により預金が逃げることを警戒しているようです。しかし、土曜日の預金引出については、終日手数料を徴収することになりました。土曜日が日曜日と同じだけコストを生じているというのが理由で、他行の動向が注目されます。
 口座維持手数料で出遅れていた三井住友銀行が、手数料を徴収する新口座「ワンズプラス」を導入しました。「通帳なし」なら無料、「通帳あり」なら月額105円という点がユニークなほか、時間外手数料を終日無料(提携ATM・CD利用を除く)とする点も面白いです。また、利用残高等に応じて三井住友カードのポイントに積算されるのも特徴です。三井住友カードは、国内首位のJCBカードを猛追しており、銀行口座との連動で一層の後押しをしたいようです。

02.12.31
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